第21話 見習い暗黒騎士
フランスと日本は時差があるため、メリッサとは土曜日にログインする約束をした。
一週間の学校をつつがなく終わらせ、土曜日なると愛美のテンションはマックスになった。
「メリッサとゲーム♪ メリッサとゲーム♪」
愛美はメリッサと再会できた喜びから、家の中で朝からずっと踊っている。
ノリのいい祖母が隣にやってきて、昭和のバブリーな雰囲気のツイストダンスを横で披露し、愛美は祖母とリズミカルに尻をぶつけ合った。
祖母は愛美がズッ友と連絡を取れず悲しんでいるのを知っていたので、自分のことのように嬉しいようだ。
祖父は知り合いの漁師から鯛を買ってきてキッチンでさばいて活造りを作成している。
ドバイからベルギーに移動した父と母からも大量のワッフルや洋菓子が送られてきた。
祝い事は全力でやるのが阿曽山家の方針である。
お昼に豪勢な鯛の活造りと鯛めしを食べ、ベルギーの洋菓子をお腹がいっぱいになるまで胃に収めると、愛美は歯を磨いて飲み物を用意し、自室に移動した。
「ふい〜、食べた食べた。さて、やりますか!」
愛美はコルタを装着し、ベッドに横になる。
約束の時間よりも二十分早い。
RLO2にログインすると、神父が慈愛に満ちた笑顔で出迎えてくれた。
大教会の中庭は静かで美しく、女神像が神秘的な微笑みで見下ろしている。
「おお、見習い聖女アイミよ。今日も一日頑張りましょう」
「はい。頑張りましょう!」
「お供の騎士が礼拝堂であなたを待っているようですよ。仲間ができたようで安心いたしました」
神父が背後の礼拝堂へ続く廊下を見て、愛美に向き直る。
「メリッサ、もうログインしてるんだ!」
愛美は早めに来ていることを知って嬉しくなる。
自分だけが楽しみにしていたわけではないと確認ができて、口角が上がった。
「見習い暗黒騎士ですか。ふむ……見たことのない組み合わせですが女神ナリアーナ様は誰が仲間でもアイミを見守っていらっしゃいます。これから旅に出る上で大切なものは、愛と真心ですよ。住民たちとの出逢いはきっとあなたを成長させるでしょう」
「愛と真心があるなら蘇生料金の割引をお願いしたいです」
「見習い聖女アイミに幸あれ!」
「日に日に適当になってません?」
AIらしからぬ神父にツッコミを入れて礼拝堂に移動すると、愛美の姿を見つけたメリッサが長椅子から立ち上がり、見習い暗黒騎士の装備をがちゃがちゃと鳴らしながら花が咲く笑顔で駆け寄ってきた。
「来たね愛美!」
「メリッサの笑顔、破壊力ヤバいね」
愛美はフランスと日本のいいとこ取りをしたメリッサの美人具合に、思わず唸った。
「褒めてもGはあげないよ〜。行きましょう」
はにかむように笑って自分のツインテールをくるくると回してみせると、メリッサが歩き出した。
愛美も後を追って横に並ぶ。
(メリッサが隣にいる……! 夢じゃないね! ああ、ズッ友よき! よきかな!)
愛美は何度もメリッサがいることを横目で見て、頬が上がるのを押さえられなかった。
メリッサも同じなのか機嫌が良さそうだ。
「予定通り、ホーンラビット狩りでいい?」
「うん。そうだね。メリッサの能力も見たいし」
「全然可愛くないけど攻撃力だけはあるよ。全然可愛くないけど」
そんなおしゃべりをしながら巨大都市ホープシティを歩く。
見習い聖女と見習い暗黒騎士の少女二人は街で結構目立っていた。特にメリッサが目立っていて、プレイヤーたちはちらちらと二人を目で追っている。
メリッサは慣れているのか、まったく気にしていない。
愛美もあまり他人の視線は気にならないほうなので、二人は自然体で大通りを進んだ。
シバイッヌがいる門とは逆に移動して、狩猟の森へと向かう。
ほどなくして狩猟の森に入った。
森の空気が二人を包む。
「そうだ。ステータス見せあいっこしようよ」
愛美が自分のステータスを出して言うと、メリッサがそうだねとうなずいて、ステータス画面を見せてくれた。
――――――――――
名前:メリッサ
職業:見習い暗黒騎士 Lv6
HP:180/180
MP:30/30
腕力:52
体力:40
敏捷:19
器用:15
魔力:10
精神:5
スキル:【血撃】【半死の一撃】【ブラッドサークル】
称号:【天職の加護】
装備:黒いブロンズの大剣、冷めた血の胸当て、冷血のレオタード、赤き血の鉄靴
所持金:0G
――――――――――
さすが、ピーキー職業と呼ばれる見習い暗黒騎士だった。
腕力と体力値が高い。
【血撃/パッシブスキル。自身のHPを犠牲にして攻撃力を1.5倍にする】
【半死の一撃/HPの半分を消費して凶悪な一撃を放つ】
【ブラッドサークル/HP50を消費して血の範囲攻撃を放つ。※要詠唱】
愛美は、ほえーっとスキルの説明欄を見る。
よくわからないが強そうだ。
次に称号を見てみた。
【天職の加護/選択する職業が一つのみの者に贈られる称号。入手経験値が1.2倍。パーティーメンバーは1.1倍になる】
「お〜、経験値が多くなるのはすごいね」
愛美が顔を上げると、メリッサが苦笑していた。
「HP5、MP1370、体力1、魔力240って……おかしいでしょこれ」
「偏ったよね。私もどうかと思ってる」
愛美も苦笑いが漏れる。
たまたまこうなってしまっただけであって、別にこれを望んでいたわけではない。
これのおかげで動画が人気になっているので、愛美はプラスに捉えることにしている。
二人が意見交換をしていると草が揺れる音がして、ホーンラビットが二体飛び出してきた。
――ホーンラビット出現!
鋭い角を持つホーンラビットが赤い目を向けてくる。
「メリッサ!」
「ここは私にまかせて。愛美、【クイック】だけもらっていい?」
「オッケー。【クイック】!」
愛美の杖からオレンジの光が飛び、メリッサの敏捷を底上げする。
メリッサは愛美を守るように前へ出て、その細身には不釣り合いな大剣を構えた。
パッシブスキル【血撃】が発動し、メリッサの持つ大剣が脈動して赤く染まっていく。
「メリッサ、カッコいいよ!」
「メルシー……全然可愛くないけどね」
メリッサはホーンラビットから目を離さず、集中してホーンラビットをにらみつける。
ホーンラビットが体当たりをした瞬間、メリッサが大剣を振りかぶり、斜めに振り抜いた。
ギュッ、というホーンラビットの鳴き声が響いて血しぶきが上がると、一撃で光の粒子に変化した。
「おお、すごい!」
「見習い聖女の【クイック】もすごいよ! 身体が軽いもん」
もう一匹のホーンラビットが体当たりをしてきたが、メリッサが大剣の腹でガードする。
多少のダメージが入るもメリッサは動揺した様子がない。
(仲間って頼もしい)
愛美は目をキラキラさせてメリッサを見つめる。
もう一匹もカウンターでメリッサが倒して、戦闘が終了した。
「全然ソロでもやっていけそう。メリッサ強いね」
「……そう思うでしょ? もうちょっと一人で戦ってもいい? あ、回復は入れないで」
「うん、いいよ」
その後、三回の戦闘でホーンラビットを八匹倒した。
余裕の戦いにもかかわらず、メリッサが苦い顔で愛美を見た。
「どう? 暗黒騎士がヤバい理由、わかったでしょ?」
「あ〜、そうだね」
愛美はメリッサのHPが残り一割ほどになっているのを見て、納得せざるを得なかった。
レベル6で格上のホーンラビットを一撃討伐は素晴らしいが消費HPが激しすぎる。
「たった三回の戦闘でHP一割になるとかコスパ悪すぎでしょ。この【血撃】ってオフにできないんだよねー。ポーション使ってたら速攻で破産する」
「確かに地雷かも」
「ということで、愛美のユニークスキルには期待してるよ」
メリッサがにやりと笑ってみせる。
愛美もうなずき、おまかせあれ、と親指を立てた。
とりあえず、二人ともレベルを10まで上げようということになり、メリッサはいい狩り場があると言って、狩猟の森の奥へと進んでいく。
大きな岩が点在している場所にたどり着き、その大岩の一つが不自然に穴が空いていた。
腰を落とせばくぐれそうな穴だ。
「よかった。当たりみたい。ランダム配置らしいよ」
「ここ、何があるの?」
「レベル10の五人フルパーティーで挑む狩り場。多分、私と愛美なら余裕で対処できると思う」
メリッサの後に続いて大岩の穴をくぐる。
数メートル進んで穴から出ると、巨大なすり鉢状になった広場が広がっていた。
「うわっ……ホーンラビットがいっぱい」
そこにはこんもりと盛られた巣らしきものが点々とあり、地面を覆い尽くすほどのホーンラビットがギュッギュッと鳴いてひしめき合っていた。
「ホーンラビットの巣だよ」
メリッサが振り返って楽しそうに碧眼をまたたかせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます