第20話 ズッ友


「メリッサ……? メリッサだよね?!」


 愛美は金髪ツインテールの女の子に駆け寄り、ひざまずいてその肩に両手を乗せた。


 覗き込むように顔を見ると、ビスクドールも逃げ出しそうな美少女の相貌が見え、猫のように大きな碧眼と目が合った。


 メリッサもハッとして愛美の顔をじっと見つめる。


「愛美? 愛美……!」

「メリッサ!」

「愛美!」


 ああ、と声を漏らしてメリッサが飛びつき、どちらからともなく抱き合った。


 離してなるものかと、二人ともぎゅっと両手に力を込める。床に座り込むようにして抱き合うことも気にならない。


「メリッサ……あだじ……スマホなくして……ごめんね……ごめんねぇ……」


 愛美は会えた喜びと、スマホをなくして連絡できなかった申し訳なさで、涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。


「愛美……もう会えないかと思った……」


 メリッサの頬にも涙が流れた。


 二人はしばらく抱き合い、泣いて喜びを分かち合うと、身体を離して見つめ合った。


「……メリッサ、前より美人になったね」

「愛美は相変わらずだね。動画見たよ」

「あ〜〜〜っ! 笑わないでよぉ!」

「愛美が変わってなくて嬉しかった」


 メリッサが涙を手で拭いながら、笑みをこぼす。


 つられて愛美も笑った。


 なんだかおかしくなって、二人はくすくすと互いの顔を見ながら笑い合う。


 メリッサが立ち上がり、愛美の手を引いて立ち上がらせて、隣り合って長椅子に座った。


「どうやって私を見つけてくれたの?」


 愛美はメリッサの横顔を見ながら聞いた。


「公式PVをたまたま見ていてね、愛美だ! ってなって、それで色々調べたんだ」

「そっか……うん! よかった! 間違ってなかった!」

「昔からそうだけど行動力だけはあるよね。そこは本当に尊敬する」

「あ〜、その言い方、他はダメっぽく聞こえるけど〜?」

「下調べせずにゲームスタートしたでしょ? 日本とフランスでサーバーは違うし、公式PVも私が偶然日本のサブスクサイトを見てたから見つけたんだよ。計画性のないところ、心配してるんだからね」

「うっ……おじいちゃんおばあちゃんにも言われてます……」

「私が何回宿題を見せたか覚えてるー?」


 メリッサのじっとりした目線に、愛美は何のことだっけなぁと目をそらした。


 昔と変わらない愛美とのやり取りに、メリッサは口角がむにむにと上がる。だが、あまり見られたくないので口元を引き締めて、愛美を見た。


「とにかくこうしてまた会えて、本当に嬉しい。愛美、ありがとう。ズッ友の約束を覚えてくれていて」

「忘れるわけないよ。メリッサは私のズッ友だよ。私のほうこそ、ありがとうだよ!」


 愛美はまた涙が出そうになったが、ぐっと我慢して笑みを浮かべた。


 そして、ずっと気になっていることを聞いた。


「さっきから気になっていたんだけど……その装備すごいね。なんかメリッサっぽくない気もするけどさ」


 愛美はメリッサの着ている装備を見た。


 金髪碧眼ツインテールの下には、黒くて禍々しい胸当て、インナーは黒いレオタードで太ももがむき出しになっている。靴は膝上まで覆う脛当て付きのサバトンと呼ばれる黒い鉄靴。腰の部分を守るために腰当てが付いていて、これも黒い鉄製でスカートっぽく見えた。背中に装備した長剣は呪われていそうな真っ黒いデザインだ。


「黒くてゴツくて、なんかカッコいいね!」


 愛美の忌憚なき言葉に、メリッサが引きつった笑顔を浮かべた。


「これには……事情があってね」

「あんなに可愛いもの好きだったのに大人になったんだねぇ。部屋とかぬいぐるみでいっぱいだったじゃん」

「ハハハ……」

「大人っぽくて素敵だよ! あとちょっとエッチだね。エロカッコいいって感じ?」

「ああああっ!」


 愛美の言葉に、メリッサは頭を抱えた。


「私は魔法少女になりたかったのに! あのフェアリーがこの職業しかないって何回要求しても聞かないから! 私の才能を一番生かせるって言われても!」


 メリッサの悲痛な叫びが礼拝堂にこだまする。


 巡回しているシスターが「お静かに」と口に人差し指を当てた。


「ど、どうしたの? というか、メリッサの職業って何?」

「……見習い暗黒騎士」

「え? あんこく?」

「見習い暗黒騎士だよ! 愛美と一緒でピーキー職業の! アタッカーの地雷職!」

「えええっ! メリッサも地雷職?!」


 声を抑えて愛美は驚く。


 メリッサは燃え尽きたボクサーのように長椅子の背もたれに身体を預け、遠い目をした。


「適職が一つしか出ないのって超レアな現象なんだよ……ステータスボーナスもつくし……。多分、百万分の一くらいの確率……。嬉しいはずなのに、なんで見習い暗黒騎士……なんで……」

「あ〜……ほら、元気出しなよ! 超レアってすごいじゃん! さすがメリッサだよ!」


 愛美が励まそうとメリッサの肩を叩く。


「色モノは愛美の役割なのに……」

「地味にディスってない?」

「ああ……見習い暗黒騎士……全然可愛くない……。さよなら私のジャポンKAWAII……」


 メリッサはしばらく放心していた。


 復活したところで話を聞くと、見習い暗黒騎士はHPを消費して敵にダメージを与える職業のようだ。血を生け贄にする騎士、というコンセプトらしい。


 攻撃力は普通の騎士よりも高いが、運用するには回復職が二人はいないと厳しく、アイテムで回復しながら戦うとなると、毎戦闘ポーションを消費するHP消費の激しい職業だ。


 通常攻撃でもHPを消費すると言われればお察しだ。


 回復職をパーティーに二枚入れ、暗黒騎士の付き人のようにしてしまうのは非効率だ。


 ポーションなどのアイテムで回復するのはバカみたいに金がかかる。

 地雷職と言われるのも無理はなかった。


 ただし、一部の男性陣には熱烈な人気があった。


 血を生け贄にして戦う暗黒騎士が厨二心をくすぐるためだ。


「愛美と会うまでにレベルを同じにしておこうと思ったんだけど……誰もパーティーを組んでくれないんだよ」

「わかる……わかるよ」

「エッチな目つきの直結厨ばっかりだし、何日かソロで頑張ってたんだけどさ」

「あ、その、直結厨って何?」

「ナンパのこと」

「あ〜、なるほど」


 愛美はモデルのように整っているメリッサの顔とスタイルを見て、納得した。


 キャラクタークリエイトで顔のパーツをいじれると言っても限度がある。

 これほど整っている女子なら現実世界でも可愛いだろうと誰しもが思うはずだ。


 愛美はメリッサの説明を聞いて、テンションが爆上がりであった。


「攻撃力……すべては攻撃力が解決するんだよ、メリッサ」

「何、急に」

「私の腕力1だよ? うらやましいよ」

「あー、そうだよね」


 愛美は立ち上がって、メリッサを見下ろした。


「HPなら私のユニークスキルで回復するから大丈夫だよ。だから、二人で伝説作っちゃおうぜ!」


 びしりと親指を立てる。


 メリッサはいつでもポジティブな愛美の姿を見て、ああ、やっと愛美と再会できたんだなと胸がいっぱいになった。


「もう。調子乗りすぎ」

「私とメリッサだよ? 絶対いけるって」


 メリッサも立ち上がり、かっこよく笑ってみせた。


「愛美が回復して、私が敵を倒す!」

「最強伝説始まっちゃうわ〜。才能が怖いわ〜」

「相変わらず調子乗りすぎて心配になるけど。でも、ありがとう。これから一緒に冒険しよう!」


 愛美は念願であった一人目のズッ友、メリッサと再会を果たし、パーティーを組んだ。


 フランスと日本の時差は七時間ある。

 向こうの時間はお昼過ぎのようだ。


 思い出話は止まらず、時間は過ぎていった。


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