第19話 これって詰み? そして・・・
――32ダメージ
当然のようにダメージを受け、【自動治癒(オートヒール)】が0になろうとするHPバーを即座に押し返した。
ウルフよりも攻撃力が高いホーンラビットだが、見習い聖女装備と【プロテクト】のおかげでダメージも少ない。
「わははは! 無敵ですよ!」
愛美は仁王立ちしてダメージを受け続ける。
『出た〜、ゴリ押し回復!』
『これを待ってた!』
『HP5が癖になってる自分がいる』
『わかるw 噛めば噛むほど味が出るスルメみたいなHP5と【自動治癒(オートヒール)】w』
『何回見ても回復職のプレイングじゃないんだよw』
『致死ダメージなのにダメージ二桁で安心する謎』
盛り上がるコメント欄には相変わらず目を向けるのを忘れ、愛美はアイテムボックスから聖なる毒針を取り出して装備した。
「いまから攻撃します!」
愛美は毒針を構える。
『熟練職人の構えwww』
『たこやき職人キタ』
『脳筋聖女くる〜っ』
絶えずぴょんぴょんと跳び回り、撹乱するように攻撃してくるホーンラビットを目で追って、狙いを定める。
「えいや!」
ミス。
愛美の毒針攻撃は空振りした。
追撃をしかけるも、相手の敏捷が高いためまったく攻撃が当たらない。
それでもあきらめずに毒針を振り続ける。
戦闘開始から三十分が経過し、余裕で勝てると思っていた視聴者たちから応援コメントが送られるようになる。
さらに三十分が経過。
(……一撃も当たらない……)
愛美は肩で息をして、額の汗を手でぬぐう。
新しく覚えたスキル【クイック】を使ってみたが、これも効果はなかった。
素早くて捕まえることもできない。
『ダメだ。アイミちゃんの敏捷が1だから当たらない』
『ホーンラビットの敏捷は40。種族特性【回避向上】を持ってる。魔法職がいないパーティーにはキツい序盤のウザい雑魚魔物』
『デバフしよう。誰か陰陽師か黒魔道士を連れてこい』
『対策をしたほうがいいよ!』
『ニッケ:そうね。アイテムで対策すべき』
『ニッケ姉さんいつもいるな』
コメント欄はあきらめムードになりつつあった。
「私はズッ友と会う約束があります。あきらめるわけにはいきません」
愛美はコメント欄を見ておらず、ホーンラビットに集中している。
MPは減り続けている。
視聴者からは頑張れと応援が飛ぶが、三時間の死闘の後、一撃も与えられずMP切れで【自動治癒(オートヒール)】の効果がなくなってしまい、愛美はデスした。
「おお、見習い聖女アイミよ。なぜお供を連れず旅に出たのです」
デスペナルティのあとにログインすると、神父がいつもの笑みを向けてきた。
「ああ〜、死んじゃったよ」
愛美は配信が切れてしまったことを思い出して、あわてて動画配信を再開した。
カメラが宙に出現して、ライブ配信が開始される。
同接がすぐに300になった。
「すみません! コメントも見ずに集中していました。昔から一つのことをやると周りが見えなくなってしまうんです。本当にごめんなさい」
愛美は深々と頭を下げた。
(三時間も経ってたし、みんな飽きちゃったかもしれない……)
頭をゆっくり上げて、批判の言葉が飛び交っているであろうコメント欄を見る。
『よくあきらめずに戦ったね!』
『尊敬する。延々とクソゲーに挑んでるみたいだった』
『クソゲーハンターにもなれそうだ』
『昔の友達に会うために実況やってるって設定で盛ってるのかと思ってた。でも本当なんだなって思えたよ。これからも応援してます!』
『ニッケ:可愛い声が作業BGMとしてちょうどよかった。次は十二時間耐久でお願い』
『ちょいちょいS発言するニッケ姉さんw』
予想外にもみんなが優しかった。
愛美は怒られるかもしれないと思っていたので、胸が温かくなり笑顔になった。
「ありがとうございます! 次はもっと頑張りたいと思います!」
『アキラ:あきらめない心。人生で大切なことだな』
『聖女殺しの聖騎士様きたwww』
『逃亡者アキラ登場ww』
『あきらめずに賞金稼ぎから逃げ切った男』
ハイタッチで愛美をキルしてしまったアキラの登場に、コメント欄が盛り上がる。
アキラをひたすらに視聴者がいじるので、愛美も可笑しくなってきて笑った。ニッケも笑っているようだ。
「素晴らしい仲間をお持ちのようですね」
目の前にいる神父も微笑ましく愛美を見ている。
顔の横には『蘇生料金6300Gを支払ってください』とログが出ているが、見なかったことにした。
その後、蘇生料金が支払えないので大教会のお手伝いをしながら、ホーンラビット対策を視聴者とやり取りし、パーティーを組むことを推奨された。
今の愛美なら組みたいというプレイヤーは多いだろう。
「少し考えたいと思います。それでは皆さん、次の配信でお会いしましょう!」
お手伝いが終了したタイミングで配信を終え、愛美は一息ついた。
(最初のパーティーはズッ友がいいんだけどな……)
知らない人とパーティーを組む。新しい出逢いはきっと楽しい。
しかし、考えれば考えるほどズッ友たちの顔が浮かんだ。
ゆったりとした足取りで考えながら、掃除していた大教会の倉庫から出て、礼拝堂に入った。
月明かりがステンドグラスからこぼれ、大量に灯された燭台の光が礼拝堂を幻想的に彩っている。
ちらほらとプレイヤーやNPCが祈りを捧げている姿が見えた。
ふと横を見ると、長椅子に座っている女性がいた。
絹糸のような金髪をラビットスタイルのツインテールにしている、美人な女の子だ。下を向いているので、ツインテールがぷらぷらと宙に浮いているようにも見えた。
「あ……ああっ……!」
愛美は声にならない声を上げ、その子に駆け寄った。
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