第18話 謎スキル【小さな祝福】
長かったゴールデンウィークが終わって学校が始まった。
お淑やかキャラで通しているので、ゲームの公式PVに自分が映っていることは学校の友達に話していない。
(高校ではこのまま清楚な人でいきたいね。アホ山アホ美とか言われたくない)
学校指定の上履きスリッパを左右逆に履いて一日中過ごしたり、財布を忘れて学食が食べられなかったりとボロが出始めているにもかかわらず、愛美は自分がまだ完璧な高校生デビューをしたと思い込んでいた。
両親と祖父母はPV出演をかなり喜んでくれて、運営から動画のデータをもらって毎日再生しているようだ。
(ズッ友がこれに気づいてくれたら最高だよ)
期待でふふふ、と笑みがこぼれてしまう。
放課後、愛美はRLO2へログインした。
いつも通り神父と挨拶を交わしてステータスを確認する。
――――――――――
名前:アイミ
職業:見習い聖女 Lv9(2アップ!)
HP:5/5
MP:1370/1370
腕力:1
体力:1
敏捷:1
器用:5
魔力:240(50アップ!)
精神:100(20アップ!)
スキル:【治癒(ヒール)】【祈り】【レスト】【プロテクト】【クイック】New!
【小さな祝福X】
ユニークスキル:【自動治癒(オートヒール)】
称号:【無手の博愛者】
装備:回復術士の杖、見習い聖女のローブ、見習い聖女のリボン、見習い聖女の靴
所持金:0G
――――――――――
共同墓地の敵と亡霊騎士ジョーキンを倒してレベルが一気に2つ上がっていた。
体力が上がらないのはもうあきらめている。
魔力が高いため、最大MPが増え続けていた。
(新しいスキルは私には意味がないんだよね)
【クイック/対象者の速度を上げる。効果は魔力に依存する】
愛美は試しに【クイック】で自分の速度を上げてみたが、敏捷が1しかないのでほぼ意味がなかった。
調べてみると、前衛職を補助する魔法のようだ。
(いつか仲間ができたときに使おう! 問題はこっちだよね)
愛美は大教会の中庭から礼拝堂に移動し、長椅子に座ってステータスを操作する。
【小さな祝福Ⅴ】がなんやかんや色々とあって【小さな祝福Ⅹ】までレベルアップしていた。
主に大教会のお手伝いだ。
ゴールデンウィーク期間中、神父にお願いされて大教会のお手伝いをしていたら、カンストしていた。
(うーん。点滅してるんだけど、どうすればいいんだろう?)
スキル【小さな祝福Ⅹ】はゆっくりと点滅している。
何かアクションを起こせば、上位スキルに変換されるようだ。
神父に聞いてみたら含みのある笑みを浮かべるだけだったので、自分で探せということらしい。
試しにスキルの部分を押してみると、礼拝堂のステンドグラスの光が愛美に集まってきて、新しいスキルになった。
――【小さな祝福Ⅹ】が【祝福Ⅰ】に進化しました!
【祝福Ⅰ/女神ナリアーナの大いなる祝福。回復スキルの回復率が5%アップ】
(……びっくりした。これって礼拝堂でやれってことだったのか。凝ってるなぁ……)
――特殊クエストが発生しました!
――見習い聖女、伝説のはじまり3/聖女への転職。
――上級職『聖女』へのクラスチェンジ条件、三つのうち一つ、祝福を満たしました。
ヒント:ゲレーロ村で悪しきものを浄化しよう
ヒント:自己犠牲とは慈愛である
「わあっ! 転職方法のヒントが出た! 【祝福Ⅰ】が転職の条件の一つだったんだね。教会に入り浸らないと上がらないスキルだったから、結果的に冒険ばかりしなくてよかったのかな?」
知らないうちに転職の最短距離を進んでいたことを喜ぶ愛美。
「よし。早速、ゲローレ村へ行こう!」
村の名前を少々間違えていることは気づかず、愛美は行動を開始する。
もっと有名になるためには、転職が有効な手段だ。
シバイッヌがいる門とは真逆の門からフィールドに出て、マップを確認する。
もちろん【自動治癒(オートヒール)】も忘れない。
(へ〜、狩猟の森って名前なのか。出てくる魔物はホーンラビットがメインみたい。骨男さんより強くないから問題なし!)
事前に周囲の魔物は軽く調べている。ゲーム開始時に比べて情報収集力が多少は進歩していた。
愛美は意気揚々と動画配信の画面を出して、配信ボタンをオンにした。
動画配信のカメラが宙に出現する。
しばらく待つと、同接が10、20、と増えていき、三分ほどで300まで膨れ上がった。
『待ってました!』
『PVめっちゃよかったよ! 鬼リピしてる』
『普段とは別人だったw』
『アイミちゃん待ってました!』
『登録者一万人突破おめでとう〜!』
(三百人が見てくれてる……! 嬉しいな)
大量にコメントが流れてちょっと感動する愛美。
配信チャンネル・アイミの聖女伝説は公式PVのおかげもあって、登録者数一万人を突破したばかりだ。
嬉しくなって満面の笑みでカメラに手を振り、「皆さんこんにちは! 見習い聖女アイミです! 今日もありがとうございます!」とお礼を言った。
コメント欄は愛美の裏表のない笑顔に癒やされ、今日は何するの、とコメントが流れる。
「今日はですね、なんと上級職への転職ヒントが出たんです。ゲローレ村に行くと何かイベントが起きるそうなのでこれから行きたいと思います!」
ふんと杖を片手に手を顔の前で握る。
するとコメント欄にいたニッケから『ニッケ:超特ダネだわ。ぜひ買い取らせて』と要望がきたのでもちろんOKした。蘇生料金で常に金欠なので、ニッケの情報買い取りは本当にありがたい。
『ニッケ:あと、ゲローレ村じゃなくてゲレーロ村よ』
「あっ……。忘れてください」
愛美は恥ずかしくなってちょっと顔が赤くなる。
コメント欄にはドンマイという文字が流れた。皆、優しい。愛美がアホの子であり、愛すべき存在という認識で視聴者はこのチャンネルを見に来ている。むしろ失敗して恥ずかしがっているのが可愛かった。
「それでは出発したいと思います!」
愛美は狩猟の森へと足を踏み入れた。
鬱蒼とした森というよりは人間の手が入って管理された歩きやすい森、という印象だ。
初心者向けのフィールドなので戦闘もしやすくなっている。
踏みしめられた小さな道が続いており、道なりに進んでいけば一時間でゲレーロ村へ到着する見込みだった。
十分ほど歩くと、草木が揺れて白い物体が愛美の進行方向を塞ぐように飛び出してきた。
「ホーンラビットだ!」
――ホーンラビット出現!
討伐推奨レベル8。ウサギを一回り大きくした体躯、赤い目、額には刺されたら痛そうな硬い角が生えている。目が鋭いのであまり可愛くない。
「ふふん。公式PVに出た見習い聖女の前に出てくるとは可愛そうなウサギさんですね。――【プロテクト】」
愛美は余裕のドヤ顔で【プロテクト】をかけ、杖を向けた。
『また調子乗ってるw』
『何かやらかす予感w』
『可愛いからおk』
『脳筋聖女モード来るか?!』
ホーンラビットがピィと一鳴きして愛美にタックルを入れた。
かなりのスピードに面食らう。
(避けられない……!)
愛美は杖で防御を固めた。
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