第25話 絶体絶命?
クールニクスが跳躍をして両足でメリッサを踏み潰そうとした瞬間、愛美は即座に【治癒(ヒール)】【レスト】を飛ばしていた。
続けざまにメリッサにかけていた【クイック】【プロテクト】【自動治癒(オートヒール)】をかけ直す。
愛美が祈るように土埃が霧散して視界が晴れていく様子を見つめる。
風が吹き視界が良好になっていく。
メリッサは片膝をついて、大剣で防御体勢を取っていた。クールニクスのスタンピングを受け止め、どうにか生き残っていた。
「メリッサ!」
「……どうにか……クリティカルだけは避けたよ。ナイスタイミング」
攻撃を受ける直前、愛美の【治癒(ヒール)】を受けて完全回復したものの、強烈なスタンピングを食らってしまいメリッサのHP残量は10しかない。
『生きてる!』
『愛美ちゃんの回復が間に合った?!』
『すげえ! かっけえ!』
デスしたと思ったプレイヤーが生きていたという熱い展開に、コメント欄は大盛り上がりだ。
メリッサのHPは【自動治癒(オートヒール)】で徐々に増えている。
クールニクスは驚愕した様子で忌々しいと言わんばかりに咆哮した。
「信じてたよ、相棒」
メリッサが愛美を見て笑う。
「まかせろ! 【治癒(ヒール)】!」
「あ……!」
愛美がメリッサを回復させるために【治癒(ヒール)】を飛ばす。
先ほどと合わせてメリッサのHPを二回の【治癒(ヒール)】で完全回復させた愛美の魔力は凄まじく、クールニクスのヘイトを移すには十分だった。
メリッサがあわてて攻撃しようとするも、スキル【月面歩行】でクールニクスが空中を立体機動で動き愛美の死角となる背後へ着地。それと同時に右腕を振り抜いた。
第二段階になり瞳が赤くなったクールニクスの攻撃力は第一段階よりも20%上昇している。
見習い聖女の敏捷では避けられない。
体力は1。防御力は紙装甲。
「愛美!」
メリッサは相棒が盛大なデジタルダメージ演出を散らす姿を目の前で見て、大声を上げた。
愛美の頭上に小さく450ダメージというログがポップする。
体をひねってクリティカルだけは避けていた愛美に拍手を送りたくもなるが、愛美は片膝をついたままエフェクトを散らしている。メリッサは相棒のデスする姿に動けなくなった。
「グルルル……」
クールニクスは愛美を見下ろし、獰猛に笑ってみせた。
「愛美……。許さない。絶対に私が……」
メリッサが大剣を握りしめて愛美を睥睨するように見下ろしているクールニクスへ飛び込もうとする。しかし異変に気づいた。
「ああ〜! またデスペナで大教会の草むしりだ!」
なぜか、愛美は生きていた。
「……愛美?」
「ん? メリッサ?」
しゃがんで頭を抱えていた愛美が、大きな瞳をぱちぱちと開閉してメリッサを見つめる。
二人の間に微妙な空気が流れた。
HP5のプレイヤーがエリアボスの決死の攻撃を受けても生きている。そんな事実を飲み込めない。
「生きてる……ね?」
「あ、私、デスってない?」
「うん。450ダメージでも生きてる」
「ほんとだ」
愛美が立ち上がると困惑した顔つきのクールニクスが見下ろしていた。
「あ、どうもその節は。クールニクスさん」
「グル……グルルルルアァァァ!」
回復を何度もする忌々しい存在がまだ生きてることに気づいたクールニクスが咆哮を上げて、再び豪腕を振り下ろした。
鉤爪が身体を切り裂くようにして愛美に直撃する。
愛美は咄嗟に杖で防御体勢を取った。
――451ダメージ
【自動治癒(オートヒール)】がHPバーを0寸前で押し上げる。
「グルルルルアァッ!」
――449ダメージ
【自動治癒(オートヒール)】がHPバーを0寸前で押し上げる。
――454ダメージ
――456ダメージ
――451ダメージ
――448ダメージ
何度攻撃をしても倒せないことに、クールニクスが攻撃の手を止めた。
愛美は肩を揺らしてくつくつと笑いはじめ、腰に手を当てて杖を掲げてみせ、しまいには高らかに宣言した。
「わははははは! HP5だけど【自動治癒(オートヒール)】があれば死にません! どうだどうだ、悔しいかクールニクス! もっと攻撃してみんさい! 無敵無敵ぃ〜! アイ・アム・無敵ング〜!」
ライブ中継をしている映像に愛美のドヤ顔がドアップで映し出された。
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