第26話 クールニクス戦・決着


 クールニクスが激しく咆哮して攻撃を再開するも、一向に愛美はデスしない。HPバーが0付近と5を行ったり来たりして忙しい。


『死ぬほど調子乗ってて草www』

『【自動治癒(オートヒール)】ぶっ壊れすぎやろw』

『ドヤ顔腹立つwwww』

『450ダメージの減算速度を上回る回復速度ってことだろ? 魔力どんだけ高いんだよ』

『まさに逆転劇!』


 調子に乗りまくって高笑いしている相棒の姿にメリッサは呆れ、腕を組んだ。


「愛美の魔力が240で、クールニクスの一撃が450前後。【自動治癒(オートヒール)】の回復速度は魔力と最大HPに依存する。魔力240、最大HP5の場合は450ダメージなら回復速度が減算速度を上回るってこと? HPが5だから回復速度が相当早くなってるのかな? HPバーの0.01付近のギリギリで回復が入って奇跡的に死なない感じになってるっぽいよね……。運営がここまでHPバーを細かく計算していることに驚きだわ。ていうか、いつかテコ入れが入りそうなものだけど」


 メリッサはクールニクスの攻撃を受けて「無敵無敵ぃ〜」とゲハゲハ高笑いしている、調子のいい友人を見つめて胡乱げな表情になる。


「うーん、先回りしてあとで運営に問い合わせしてみるか。愛美の【自動治癒(オートヒール)】が下方修正されたら一緒に冒険できなそうだし」


 メリッサはひとしきり分析をすると、未だに攻撃をしているクールニクスの背中に一太刀を浴びせた。


「愛美が死なないなら遠慮しないわよ」


 メリッサがクールニクスを滅多斬りにする。


 HPが減れば愛美が【治癒(ヒール)】を飛ばして回復を入れ、クールニクスのヘイトが再び愛美へと移る。


 クールニクスは不死身の見習い聖女を切り続けるだけだ。


『HP5で死なないの意味わからんww』

『絵面がギャグでしかないw』

『いかんwwww腹痛いwww』

『運営も【自動治癒(オートヒール)】がこんな感じになると思ってないやろw』

『ニッケ:検証班に分析依頼。あと道に迷った』

『姉さんww』

『そろそろMPがヤバいぞ!』


 コメント欄の注意喚起が視界に入った愛美が自身のMPを確認する。残り一割もない。


「メリッサ! MPが!」

「オーケー!」


 メリッサがさらに攻撃しようとすると、クールニクスが業を煮やしてスキル【月面歩行】で空へと跳躍した。高く高く飛び上がり、再びスタンピング攻撃をしようと二人を睨む。クールニクスのHPも残り一割だ。


 クールニクスは空中で器用に半回転して逆さになり、天井があるかのように宙を蹴りつけた。

 弾丸のようなとてつもない初速で愛美とメリッサに肉薄する。捨て身の攻撃だ。


 メリッサが愛美をかばうようにして前に立ち、落下してくるクールニクスを睨みつけてゆっくりと大剣を振りかぶった。


「終わりにしてあげる」


 メリッサがニッと笑うと、落下してくるクールニクスを頭上で斬りつけジャストミートさせた。


「――【半死の一撃】ッ!!!」


 見習い暗黒騎士のみが持つHPの半分を犠牲にして攻撃力を爆発的に上げるスキルが発動し、断末魔のような効果音とともに大剣がどろりとした血の色に変化して、ぐしゃりと血飛沫が飛び散る。金髪のツインテールが衝撃で真横に舞い、赤黒い波動がクールニクスを弾き飛ばした。


『決まった!!』

『うおおおおお!』

『カッコいい。暗黒騎士カッコいい』

『やったか?!』


 メリッサが片膝をついて残心を取る。


 クールニクスが地面をバウンドして動かなくなり、キラキラしたエフェクトを散らして消えていく。


 ――Congratulations!!!!


 ――特殊ボス・クールニクスを撃破!


 ――ジャイアントキリングの称号を獲得!


「やったぁぁ! 勝ったぞ〜!」


 愛美は飛び跳ねてメリッサに駆け寄って抱きついた。


 ちょうど立ち上がったところだったメリッサが愛美を受け止め、笑みを浮かべる。


「まあ私たちなら余裕でしょ」


 メリッサはニマニマと口角が上がるのをどうにか堪え、自慢のツインテールをぱさりとかき上げてみせる。


『おめでとう!!!』

『ジャイアントキリングやんけ!』

『すげええええ!』

『出現率1%の敵をよく倒したね』


 愛美は勝利のブイサインをカメラに向けて、にかりと笑顔になる。


「みんな〜、応援ありがとね! ほらメリッサも」

「え〜、私はいいよ」

「いいからいいから」


 愛美がメリッサの腕を引っ張り、空中に浮いているカメラの前に押し出した。


 メリッサは頬をやや赤く染めながら、ツインテールを片手で跳ね上げて顎をつんと上へ向けた。


「どう? 上出来でしょう?」


『メリッサちゃん加入あざます』

『ファンです』

『個人SNSやってないんですか?』

『愛美ちゃんとのコンビめっちゃバランスいいですね』

『ニッケ:しゅき』

『だから姉さんww』


 コメント欄は大歓迎しており、結構な勢いで流れていくコメントを見てメリッサは目を白黒させた。


『暗黒姫とお呼びします』

『カッコいいです!』

『レッドブラッドダークプリンセス』

『我らの血を姫に捧げます』

『我らの血を姫に捧げます』

『我らの血を姫に捧げます』


 それからふざけた視聴者が悪ノリで延々とメリッサをカッコいい、暗黒姫、レッドブラッドダークプリンセス、と言い続ける。


 メリッサは否定していたが流れが止まらないので大声を上げた。


「あ〜っ! 私は魔法少女になりたかったのに〜!」


 彼女の叫びがクールニクスの巣にこだました。


(うちの視聴者さんって冗談が好きだよね。うんうん。仲良くしてくださいな)


 愛美はしばらくメリッサと視聴者の絡みを見ていたが、クールニクスから出現した宝箱に目を奪われた。金色に光り輝いており、明らかにいいアイテムが入っていそうだ。愛美は我慢できずに宝箱へ近づいた。


『マイペースやなw』

『さすが愛美ちゃん』


 メリッサが視聴者に暗黒姫を魔法少女と言い直しなさいとお説教している背後で、愛美が勝手に宝箱を開けようとしているのを視聴者たちは目ざとく見つける。


「お宝はなんじゃ〜」


 愛美が金色の宝箱に触れると光が溢れた。


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