第27話 ボス撃破の報酬
「愛美、ズルいよ!」
宝箱から放たれるまばゆい光でメリッサが気付き、愛美に近づく。
愛美の手のひらには、浮かぶようにしてデフォルメされた可愛らしいウサギのワッペンが浮かんでいた。
――――――――――
『クールニクスのワッペン』
・ユニークアイテム
・装飾品
・敏捷+5
・スキル【月面歩行】が使用可能になる/使用MP5
――――――――――
「ユニークアイテム!」
愛美が驚きと喜びで叫び、メリッサに抱きつく。
「凄い! かなりレアなアイテムじゃないかな?」
メリッサが愛美を抱きとめ、興奮冷めやらぬといった顔でステータスを開いてネットに接続して検索をかけた。
コメント欄もかなり盛り上がっている。
「なるほど。ユニークアイテムは特殊ボスからしかドロップせず、ドロップ率も低い。『クールニクスのワッペン』はドロップ率は5%……。欲しいならボス周回がオススメ。かなり薄いところを引いた感じね」
メリッサがコメント欄とネットを参照しながらうなずいている。
「愛美といるとこういうことが多いんだよね……。運がいいのか悪いのか、部活の試合のときもそうだったけど、良い時間と場所を抽選で当てるけど相手が鬼強い、みたいなね……。悪運が強って言い方でいいのかな?」
メリッサが嬉しそうにはしゃいでいる愛美を見る。
「ん? どうかした?」
「ううん、どうもしない」
「ねえねえ、このアイテム、メリッサが使うのがいいんじゃない?」
「え、愛美はいいの?」
「私、敏捷1だよ? +5したって対して変わらないよ。それにさっきの空をぴょんぴょん飛ぶスキルが使えたら、メリッサの攻撃がもっとカッコよくなるよ」
「可愛いほうがいいんだけど」
「それにほら、このワッペン可愛いじゃん! 装飾品くらい可愛いほうがよくない?」
メリッサはちらりとワッペンへ視線を送る。
デフォルメされたウサギはまん丸の目がちょこんと乗っていて、凝った素材を使っているのかシールのようにつるりとしているわけではなく、手触りがもこもこしている。
「そこまで言うなら……うん、つけようかな」
「つけようつけよう。どこにする? 胸当てでいいかな?」
「胸だとちょっと恥ずかしいから腰の横にあるガードにつけてくれる?」
「オッケー」
愛美はメリッサが装備している、冷血のレオタードに付属している腰の両サイドをガードする鉄の腰当てにぺたりとワッペンを貼り付けた。
メリッサは腰をひねってワッペンを見ると、ほっこりした笑みをこぼした。
「可愛い……暗黒騎士の男臭い装備に一滴の清涼剤が……」
そんな詩人っぽいことを言っていると、デフォルメしたウサギ顔のワッペンからしゅわしゅわと音がし始めた。
「ん? なに?」
メリッサが訝しげな目を向けると、ウサギのワッペンから「あ、あ、あ、あ」と不気味な声が響き、可愛らしいウサギ顔が赤黒く変色していく。
「は?」
「えっ?」
メリッサ、愛美が驚愕して目を点にする。
それを合図にしたかのようにウサギの目から、どろりと血涙が流れた。
「ひっ、ひいいいいいいいいっ!」
愛美が腰を抜かし、咄嗟に【治癒(ヒール)】を唱える。
パアッ、と柔らかい緑色の光にメリッサが包まれるが、ワッペンは何も変わらない。
メリッサにはワッペンの変化がスローモーションで見えいたのか、くわと目を見開いたまま呆然としていた。
『ひいいいっ、ウサちゃんがががが』
『呪われてるな……』
『暗黒姫の装備って冷血のレオタード?』
『付属品つけると漏れなく残酷な見た目になる……仕様』
コメントが一気に流れる。
愛美はあわててワッペンを引っ剥がすが、ウサギは血涙を流したままだ。
(見た目が変わる呪いって……なんてこった!)
半分白目になっているメリッサを見て、コメントを読んで事態を把握し、優しく彼女の肩を叩いた。
「メリッサ……日本にはキモ可愛いって文化があるんだよ……」
(苦しいッ。苦しいフォロー……ッ!)
愛美は可愛い装備品を絶対に買ってあげようと決心し、メリッサをしばらく励ます。
視聴者からも慰めの言葉が多く送られ、メリッサはなんとか黄泉の世界から復活を果たした。
「……意識が飛んでた」
半分白目のスクショがしばらく人気になるのだが、それは少し先の話である。
「私が装備を確認しなかったミスでもあるから……愛美は気にしないで。ホント、気にしないで。うん。血涙のウサギもキモ可愛いね。かわいいかわいい」
「そんな死んだ目で言われても」
「あ〜、何かをぶった斬りたい気分だわ〜、うふふ〜」
「怖い! うちの相棒が怖い!」
「あのウサギもう一回出てきてくれないかな」
「ただの八つ当たりだよ!」
メリッサが大剣を構えて据わった視線を周囲に送る。
そんな姿も絵になってしまうのがメリッサの魅力でもあった。
愛美は話を変えるべく、ステータス画面を開いた。
「メリッサ、レベル上がってるんじゃない? ステータス確認しようよ」
「……それもそうだね。落ち込んでてもしょうがない。次、可愛い装備を見つけよう」
「そうだよ! 私も協力するからね」
愛美が笑顔でうなずき、ステータス画面を開いた。
――――――――――
名前:アイミ
職業:見習い聖女 Lv9
HP:5/5
MP:1370/1370
腕力:1
体力:1
敏捷:1
器用:5
魔力:240
精神:100
スキル:【治癒(ヒール)】【祈り】【レスト】【プロテクト】【クイック】
【祝福Ⅰ】
ユニークスキル:【自動治癒(オートヒール)】
称号:【無手の博愛者】
装備:回復術士の杖、見習い聖女のローブ、見習い聖女のリボン、見習い聖女の靴
所持金:0G
――――――――――
↓
――――――――――
名前:アイミ
職業:見習い聖女 Lv11(2アップ!)
HP:5/5
MP:80/1930
腕力:1
体力:1
敏捷:1
器用:5
魔力:290(50アップ!)
精神:120(20アップ!)
スキル:【治癒(ヒール)】【祈り】【レスト】【プロテクト】【クイック】【キュア】new!
【祝福Ⅰ】
ユニークスキル:【自動治癒(オートヒール)】
称号:【無手の博愛者】【ジャイアントキリング】new!
装備:回復術士の杖、見習い聖女のローブ、見習い聖女のリボン、見習い聖女の靴
所持金:5000G
――――――――――
愛美はステータスを見て目を輝かせた。
(お〜! レベルが2も上がった! ウサギとウサギの親玉を倒したからだね。経験値も結構貯まってそうだし次のレベルアップも近そう。新しいスキルも覚えたね!)
HP5、体力1には目をつぶり、新しいスキルに愛美は注目した。
スキルをタップすると説明が浮かんできた。
【キュア/毒状態を回復する】
(回復役っぽいスキルだ。聖女感増してきましたわ〜)
今まで毒の可能性について全く考えてこなかったことには気づかず、愛美は自画自賛して腕を組む。
次にクールニクスを倒したときに獲得したスキルもタップした。
【ジャイアントキリング/格上の相手に対してスキルの発動が5%早くなる】
レベル10のパーティーが推奨となっているホーンラビットの巣を二人でクリアしただけあり、ジャイアントキリング獲得の条件を満たしていた。
(スキル発動が5%か〜。どうなんだろ?)
微々たる効果だと愛美は思っているが、アクションゲームにおける5%はかなり大きい。コンマ0秒を競う世界であるため、5%の恩恵があったから攻撃が先に当たった、などのアドバンテージを得られることもある。特にギリギリの戦いであればあるほど、少しの効果が大きく作用する。
「ジャイアントキリング……かなり優秀ね」
「そうなの?」
隣にいるメリッサが言うので、愛美は首をかしげた。
メリッサが説明をして、コメント欄も有用性を説明してくれる。愛美は納得した。
「それで? HPは増えてないみたいだけど……MPと魔力は増えた?」
メリッサがステータス画面を見せて、と楽しそうに愛美を見た。
「あ、視聴者さんに知られたくなかったら私だけに教えてくれればいいよ」
「ううん。ここまで応援してくれてるし、みんなにも知ってもらおうかな!」
愛美がコメント欄へと視線を移す。
『知りたい! 特にMPと魔力』
『聖女様〜!』
『愛美ちゃん優しい』
コメントも知りたいと流れてくるので、愛美はつるりとしたほっぺたをぐいと上げて笑顔でカメラを見て、手を広げて5を作った。
「聞いて驚け皆の衆! HP5! レベル11! MP1930! 魔力290である!」
『………………?』
『ま?wwwwww』
『いやいやいやwww』
『魔力とMP高すぎいぃぃぃぃ!』
『バグ????』
『レベル11でMP1930はバグwww』
『回復術師レベル30の平均魔力が300だったはずww』
ステータス閲覧を許可されたメリッサも、珍獣を見るかのように数字を確認している。
「偏りがひどい。確率ランダムの割り振りが偶然で超極振りになった感じかな?」
「みんな、私は開き直ったよ! 攻撃は食らっても回復させればいいじゃない」
HPがまったく上がらないのであきらめの境地になった愛美は、すべてをポジティブに考えることにした。
『パンがなければケーキ食べろみたいな言い方すんなw』
『【自動治癒(オートヒール)】と見習い聖女のシナジーがやばすぎなんだよ』
『検証クランが動き出したそうです』
コメント欄は愛美のステータスで盛り上がる。
「メリッサのステータスも見せて」
「いいよ」
メリッサが愛美にステータス閲覧の許可を出して、画面を愛美へとスライドさせた。
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