第9話 どうやらぶっ壊れ性能らしい自動治癒


「驚いたのはそこじゃないからね。同じヒーラー、レベル4白魔道士の平均魔力は40よ。私のステータスも見せてあげる。あ、ちなみにだけど、他人にほいほいとステータスを見せちゃダメよ」


 ニッケはそう言いつつ、ステータス画面を操作して愛美に向けた。


――――――――――

名前:ニッケ

職業:細工師 Lv30

HP:270/270

MP:580/580

腕力:77

体力:50

敏捷:82

器用:288

魔力:140

精神:33

スキル:【錬金術】【彫金】【裁縫】【加工】【形状変化】【目利き】【熱探知】【聞き耳】【縫い留める】

【ニードルスラッグ】【スモーク】【エンチャント】【スローイング】【道具効果上昇】

装備:細工職人の金色針、魅惑のチューブトップ、駱駝スリットスカート、金刺繍ハイヒール

所持金:43300 G

――――――――――


(職人さんって感じのステータスとスキルだ。器用が高いんだね)


 愛美はニッケのステータスを見てふんふんとうなずく。


 体力とHPがちゃんとあるのがうらやましい。


 ニッケは「生産職は作品を作ることでレベルが上がるからね」とコメントを添えてくれ、愛美のステータスを食い入るように見つめた。


「見習い聖女。完全に極振りのぶっ壊れね」

「壊れちゃってます? 大丈夫でしょうか?」


 ニッケは集中して考えているのか愛美の言葉が耳に入っていない。


「体力が低いから最先端攻略は厳しいな。最新の装備でも雑魚モンスターに一撃死……となると、後衛で固定回復砲台役も難しい。運営は上手く調整しているみたいね」

「やっぱり一撃で死んじゃいますよね〜」

「あっ!」


 ニッケはとあるスキルに気づいたのか、大きな声を上げてしまい、両手で口を塞いだ。


 ゆっくりと手を離してうかがうように愛美を見ると、一つの文字を指さした。


「こ、これ……ユニークスキルよね……?」

「あ、はい。死んだらもらえました。女神様も慈悲はあるみたいです。神父さんは無慈悲ですけど」

「特ダネだわ……」


 ニッケは吐き出すようにつぶやき、周囲を見回して愛美に顔を近づけた。


「な、なんでしょうか?」

「まだ誰にも話してないわね?」

「話していませんけど……」


 ニッケは自分を落ち着かせるようにダージリンティーをごくりと飲み、深く息を吐いた。


「RLO2が正式配信されて一ヶ月。ユニークスキルはまだ五個しか発見されていないの」

「そうなんですか?」

「ええ。ひょっとしたら隠しているプレイヤーもいるかもしれないけど、RLO2のプレイヤーは結構目ざといから隠し通すのは難しいわ。それに、私たち『春風のクランが』懸賞金をかけているの。情報はかなり集まっているわよ」

「五個しかないんですか」

「そうよ。アイミちゃんの【自動治癒(オートヒール)】で六個目よ」


 ニッケは興奮しているのか、次第に顔が赤くなり始めた。


「ユニークスキルの効果を教えてくれたら30000G払うわ」

「30000G?! それだけで?!」

「さらに一つ、どんなことでも私が協力してあげる。自分で言うのもあれだけど、『春風のたより』はトップ情報クランよ。私と仲良くなりたい人はたくさんいるの」


 愛美は妖艶な笑みを浮かべるニッケを見て、特にユニークスキルについて隠しているわけでもないので、うなずいた。


「いいですよ! 無一文だったので超助かります。でも、30000Gはもらいすぎじゃないですか? 3000Gでも全然いいんですけど」

「正当な報酬よ。愛美ちゃんが動画配信をしているからいずれ効果はわかってしまうけど、私たちが先に情報を仕入れた、という事実が大切なの」

「なるほど。ニッケさん、なんかカッコいいですね」

「ふふっ。ありがとう」


 ニッケに余裕の笑みを返され、愛美は嬉しくなった。


 情報クラン『春風のたより』のサイトに掲載許可を出すと、愛美は【自動治癒(オートヒール)】の効果について解説した。


 ニッケはメモを取りながら何度もうなずき、回復速度がダメージ減算速度を上回り、ゾンビのような戦闘ができることを聞いて、天を仰いだ。


「ぶっ壊れじゃないの……。高魔力と潤沢なMPがあるからできる回復ゴリ押し戦法ね。見習い聖女と【自動治癒(オートヒール)】のシナジー効果、ヤバすぎるわ……。愛美ちゃん!」


 ニッケがテーブルから身を乗り出し、鬼気迫る顔でがしりと愛美の肩をつかんだ。


「ひゃい! なんでしょうか?!」

「いずれ各クランから引っ張りだこになるわ。あやしいと思ったら断りなさい。それから、直結厨にも気をつけなさいよ」

「直結? なんですかそれ?」

「……心配だわ。めちゃくちゃ」


 のほほんとした顔の愛美に、ニッケは不安になった。


 直結厨とは仲良くなってリアルで会おうとする輩のことだ。


「とにかく、あやしいと思ったら私に連絡してちょうだい。困ったらすぐにね」

「はぁい。ありがとうございます」

「不安だ……」


 ニッケは愛美の弾けんばかりの笑顔を見て、額に手を当てた。


「愛美ちゃんは今後、どう活動するつもり?」

「とりあえず、骨男さんにリベンジしたいです」

「骨男?」


 流浪のスケルトンの話をし、パワースラッシュがあるから勝てないと言うと、ニッケが一時的にパーティーを組もうかと言ってくれた。


 だが、そのタイミングで目の前にログが出現した。



 ――特殊クエスト発生! 『見習い聖女、伝説のはじまり1』


 ――悪しきアンデッドモンスターである流浪のスケルトンを一人で討伐しよう。討伐したら神父に報告だ!



 いきなり出てきた特殊クエストに神父の顔が浮かんだ。


「わざとやってないかな、あの人?」

「どうしたの?」


 ニッケが聞いてくる。


「なんかですね、一人で倒せっていう特殊クエストが発生しました」

「レアなクエストね! 特殊クエストの報酬は期待できるよ。クリアをおすすめするわ」

「わかりました。できれば一人で頑張りたいと思っていたんです。ズッ友と会うまでは、なるべく一人でやりたいなって……。パーティーを組もうとしたりもしたんですけど……せっかく誘ってもらったのに……」

「うん、うん。いいじゃないの。そういうの好きよ。RLO2は自由な世界なんだから。自分の決めた道を進みなさい」

「ありがとうございます! あ、そういえば、相談があるんですけどいいでしょうか?」


 愛美はパワースラッシュを避ける練習がしたいと申し出た。


 ダメージが大きすぎるなら、避けてしまえばいいじゃない、と思ったのだ。


「それなら知り合いを紹介するわ。リアルでは私の恋人だから、そっちも安心よ」

「ありがとうございます!」


 ニッケの恋人というのに驚いたが、美人で気立てのいい人なのでお相手がいるのは当然だと思った。


 翌日、訓練場でニッケと会う約束をしてログアウトした。



      ◯



 その日の夜、情報クラン『春風のたより』のサイトに新しいユニークスキルの情報が掲載された。


 ヒーラーたちに衝撃を与える【自動治癒(オートヒール)】の存在に、RLO2のプレイヤーたちは沸き立った。


 習得方法を知りたがる者たちでコメントは大いに荒れたが、ユニークスキルは原則として一人しか持つことができない。


 しかも、見習い聖女が習得したことにより、騒ぎは収束した。


『どんなプレイヤーが習得したんだ?』

『見習い聖女……ひょっとして、あの子じゃね』

『シバイッヌの子!』


 騒ぎの収束は愛美の存在へと方向転換されていく。


『シバイッヌにデスwww』

『可愛いし面白い』

『動画これしかないの? 他のも見たい』

『最初に見つけたのは拙者ですよ』


 動画配信チャンネル、アイミの聖女伝説は着実に登録者数を増やしていった。


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