第30話 クラスチェンジへの道



 日曜日。休日になった。


 愛美は部活に入るつもりはないので、休日もRLO2を全力で遊ぶ予定だ。


 それもこれも、残りのズッ友を見つけるべく、『アイミの聖女伝説』チャンネルをもっと大きくする目標のためだ。


(今日も元気にゲームするぞ!)


 約束の時間になったのでゲームにログインし、胡散臭い神父に挨拶をする。


 待ち合わせ場所の大教会の礼拝所に行くと、メリッサがちょうど来たところだった。今日も暗黒騎士の装備に金髪ツインテールが映えている。


 合流して、ホーンラビットのいる森に向かいながら、今後の方針の話になった。


「動画の編集とかは私がやるよ。パソコン好きだし」


 メリッサが歩きながら言う。


「いいの? ありがたいよ」

「機械音痴さんはどこかな〜? スマホのアプリ連携すらできない人がいるって聞いたけど〜」

「もー、それは言わないで」


 スマホをなくしても連携ができていればデータ復元は可能だ。


 愛美は機械音痴のせいで、ズッ友たちの連絡先を完全消失させた。しかも五回をスマホをなくしているというまぬけっぷりである。


 大通りには馬車が行き交っている。愛美は【自動治癒(オートヒール)】が付与されていることを確認した。馬車に事故ったらデスである。死活問題だ。


「【自動治癒(オートヒール)】よし。無敵よし」

「自分で無敵とか言う人、愛美しかいないよ」

「私が世界初の聖女にクラスチェンジすればもっと注目されると思うんだよね」


 愛美はメリッサの言葉は聞いておらず、ステータス画面から確認できる動画チャンネルの登録者数を見る。現在、登録者数は二万三百人だ。


「そうだね……。現状でもユニークスキルでかなりの注目を集めているから、クラスチェンジすれば“ただ一人の聖女”として覇権を取れるかも。あと愛美、面白いし」


 メリッサがすれ違うNPCの市民をよけながら腕を組む。


「じゃあ、とりあえずはクラスチェンジを目指す方向でいこう!」

「だね。レベル上げも結構したし、当初の目的通りゲレーロ村に行こうか」


 メリッサと再会し、クールニクスを討伐してから二人はレベル上げを行っていた。あれから何度かホーンラビットの巣穴に挑戦したり、森の奥を探索したりし、連携の練習も兼ねてしばらく戦闘メインで頑張った。特殊ボスであるクールニクスは残念ながら一度も出現していない。


 愛美はレベル11から14。

 メリッサもレベル9から13まで上がっている。


 愛美は歩きながらステータス画面を出した。


――――――――――

名前:アイミ

職業:見習い聖女 Lv14(3アップ!)

HP:5/5

MP:2950/2950

腕力:1

体力:1

敏捷:1

器用:5

魔力:365(75アップ!)

精神:150(30アップ!)

スキル:【治癒(ヒール)】【祈り】【レスト】【プロテクト】【クイック】

【祝福Ⅰ】【キュア】【大治癒(ハイヒール)】new!

ユニークスキル:【自動治癒(オートヒール)】

称号:【無手の博愛者】【ジャイアントキリング】

装備:回復術士の杖、見習い聖女のローブ、見習い聖女のリボン、見習い聖女の靴

所持金:0G

――――――――――


【大治癒(ハイヒール)/MPを多く消費する代わりに対象を大幅に回復】


 新しく覚えた【大治癒(ハイヒール)】は文字通り大回復をする魔法である。


 しかし、愛美の魔力がバグと言われるほどに高いので、あまり意味のない魔法であった。【治癒(ヒール)】で事足りるので、使う場面はあまりなさそうだ。


(HP5、MP2950、魔力365……いよいよネタ化してきたね。HPが上がらず魔力が上限まで上がる運ゲーは記録更新中)


 運営に問い合わせたところ、このステータスになる確率は約800兆分の1だそうだ。愛美の悪運の強さがわかる。



      ◯



 狩猟の森に入り、敵を倒して進んでいく。


 メリッサに【クイック】【自動治癒(オートヒール)】を付与すれば、周辺の敵はあっという間に蹴散らしてくれた。メリッサ様様である。


 愛美一人では攻撃手段がなかったので、ゲレーロ村には到達できなかっただろう。


「メリッサ様! 超絶美人見習い暗黒騎士様ッ!」

「はいはい。ほら、村が見えてきたよ」


 森を抜けると牧歌的な村が見えてきた。


(おー、ついた! 牧場があるね。牛の乳搾り体験とかさせてくれそうな村だよ)


 早速、NPCの村人に声をかけると、村長のいる家へと案内された。


 大きなログハウス調の家に案内されて暖炉のあるリビングに通されると、白髪のいかにも好々爺、という老人が出てきた。


「これはこれは冒険者様。何もないゲレーロ村へようこそお越しいただきました。ささ、お座りくださいませ」


 革張りのソファを勧められたので愛美とメリッサはありがたく座る。


(えーっと、何から話せばいいんだっけ?)


 愛美は話をする前に、ステータス画面にある受注クエストのアイコンを押して『見習い聖女、伝説のはじまり3/聖女への転職』を確認した。


―――――――――――

 上級職『聖女』へのクラスチェンジ条件

 1,『スキル【祝福】を獲得』(達成!)

 2,『  ???  』(未達)/ヒント:ゲレーロ村で悪しきものを浄化しよう

 3,『  ???  』(未達)/ヒント:自己犠牲とは慈愛である

―――――――――――


「村長さん、私は見習い聖女の愛美です。悪しきものの気配を感じてこの村に来ました。よければ浄化のお手伝いをさせてください」

「おお……これも神のお導きでしょうか。さすがは聖女様です。ぜひともお願い申し上げます」


 村長が頭を下げる。


「どうやら当たりみたいね」


 メリッサが小声で話しかけてきた。イベントは失敗すると二度とフラグが立たなくなることもある。村長のハゲ頭に「ダメ〜」と言いながらぴしゃりと張り手をすると別のイベントが発生したりするのだが、その場合は聖女関連のフラグは完全に消える。


 村長の昔ばなしが始まった。


 要約すると村からそう遠くない場所に魔狼が出現し、困っているらしい。


 ――【特殊クエスト:悪食の魔狼を浄化せよ】が発生しました!

 ――七日以内にクリアできないと消滅します!


(お、クエストがポップした!)


「愛美、私にもクエストが出たよ」

「メリッサも? どんな感じ?」

「【特殊クエスト:悪食の魔狼を滅殺せよ】……」

「滅殺って」

「ハア……滅殺……可愛くない……」


 メリッサは肩を落とす。


「でも報酬は出るんでしょ?」

「専用の武器がもらえるみたい」

「やりがいがあるから良いじゃん!」

「もっと可愛いイベントがいいんだけど。村にある苺でショートケーキを作れ、とか」

「それは職業:料理人のイベントだよ。あきらめなメリッサ」


 まだあきらめきれないメリッサが「適性がこの職業って」とぶつぶつ何かを言っているのを横目に、愛美はクエストを受注した。


「お気をつけて!」


 村長と村人の見送りに手を振り、魔狼の住む森へと足を踏み入れた。





 森は湿った落ち葉のような匂いがし、じめじめとした陰気な空気が漂っている。元は子どもたちが遊べる安全な森だったようだが、今では不浄の気配が充満していた。


「いやな雰囲気ね」


 メリッサが大剣をいつでも出せるように警戒しながら言う。


「私は結構平気。こういうおばけ屋敷的なの全然怖くないんだよね」


 愛美が胸を張って言うと、ガサガサと前方から音が響いて草が揺れた。


「愛美!」


 メリッサが即座に大剣を構える。

 鬱蒼とした草木から姿を現したのは、大きなカマキリ型の魔物だった。


 ログを見るとブルーマンティスと文字が出ている。


 愛美は【自動治癒(オートヒール)】で自身が回復していることを確認して【プロテクト】をかけ、聖なる毒針を構えてとたとたと走っていき、ぶすりとブルーマンティスに突き刺した。


「たあ」


 ――1ダメージ


 ログがポップし、ブルーマンティスが鎌を振って反撃をしてくる。


 ――539ダメージ


 【自動治癒(オートヒール)】が即座にHPバーを押し返した。


「大丈夫、死なない!」

「オーケー! じゃあ遠慮なくいっちゃうよ」


 現状、まずは愛美が通常攻撃でデスらないか確認し、問題ないとわかればメリッサが攻撃をするという攻略スタイルが完成している。


 HP5の愛美がタンクの役割を果たすという意味不明な絵面になっているが、これが雑魚モンスター戦では一番効率が良いとメリッサが判断した。


 メリッサが愛美を攻撃しているブルーマンティスの背後に回り、滅多斬りする。あっという間に相手のHPバーが0になった。ブルーマンティスはエフェクトを散らして消えていく。


「うん。変なパーティーだね、私たち」


 そんなこんなで森を進み、レベル上げもかねて魔物を狩りながら目的地へと向かう。


 特殊クエストの推奨レベルは17だ。

 愛美が14、メリッサが13なので、もう少し上げておきたい。


 メリッサのステータスも愛美はしっかりと確認している。


――――――――――

名前:メリッサ

職業:見習い暗黒騎士 Lv13(4アップ!)

HP:740/740

MP:100/100

腕力:154(58アップ!)

体力:110(40アップ!)

敏捷:45(14アップ!)+5(クールニクスのワッペン(呪))

器用:33(10アップ!)

魔力:10

精神:10(2アップ!)

スキル:【血撃】【半死の一撃】【ブラッドサークル】【月面歩行(装備効果)】【血剣】【ブラッドエッジ】new!

称号:【天職の加護】【ジャイアントキリング】

装備:黒いブロンズの大剣、冷めた血の胸当て、冷血のレオタード、赤き血の鉄靴

所持金:5000G

――――――――――


【ブラッドエッジ/HP100を消費して血の斬撃を放つ。※要詠唱】


 メリッサは新しく詠唱の必要な魔法を習得していた。

 本人は「できるだけ使わない。可愛くないから」と言っている。


 森の奥深くへ進むとブルーマンティスが複数体出るようになり、サンドバグという表皮が硬質な巨大ダンゴムシ、ポイズンバグという大きな蛾も出現した。


 サンドバグは【転がる】というスキルで素早い体当たりをしてくるが、元の動体視力が高いメリッサが大剣を打ち下ろして地面に半分ほど埋め、タコ殴りして経験値の餌食となった。視聴者に見られていなくてよかったとメリッサはつぶやいている。


 ポイズンバグは愛美の【キュア】が役に立った。毒を受けても即座に回復するので敵にならない。ただし、ポイズンバグがふらふらと宙を飛んているので攻撃手段がメリッサのHPを犠牲にして放つ魔法しかないのが難点だ。


 【自動治癒(オートヒール)】で回復はするものの、メリッサはHPの管理にかなりの集中力を割かなければならなかった。


 途中、メリッサのHPが一割を切りそうになったので、攻略の速度を緩めて調整をする。


 メリッサは攻撃するたびに減る暗黒騎士のHP管理が結構楽しいようで、愛美にHPの上限ををよく聞いていた。戦闘中は細かくHPが見れないためだ。


「遠距離攻撃がほしいわね」

「そうだね。空を飛ぶ敵が面倒くさい」

「いちいち恥ずかしい詠唱するのも困るし」

「カッコいいから別に変じゃないと思うよ? 似合ってるし」


 二人は経験値を稼ぎとマップの把握に一日を使い、平日の放課後を三日使ってボスのいるであろう場所へと到達した。


 愛美、メリッサともにレベルを16まで上げることができた。


(さて……何が起きるかな)


 愛美は物言わぬ大きな動物の骨が鎮座している、大きな桜の木の下を見つめた。動物の骨には寄り添うようにして風化した女性用の服と人骨が横たわっていた。


 愛美はステータス画面を開いて、ライブ配信をオンした。

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