第7話 不人気職とエキゾチックお姉さん
徘徊モンスターは草原エリアの中ボスの扱いだ。
流浪のスケルトンはパーティーを組んで戦うモンスターで、推奨レベルは10である。
レベル4のアイミはそんなことは知らず、真剣な表情で敵を見つめる。
「……」
カタカタと骨を合わせて喉を鳴らし、流浪のスケルトンがゆらりとロングソードを構えた。
「あの、話し合いをしましょう。私は見習い聖女アイミです。あなたは骨川骨男さんですか?」
勝てそうもないので説得しようと愛美が言うと、スケルトンが早送りのような速度で懐まで飛び込んできて、ロングソードを袈裟斬りに振り抜いた。
――87ダメージ
痛覚軽減で全然痛くないが、ノックバックとスタンが発生して愛美は尻もちをついた。
87というダメージに、5しかないHPバーが一瞬で消し飛びそうになるが、【自動治癒(オートヒール)】が0の手前でHPバーを押し返した。
「ギリギリだった気がする」
愛美は起き上がろうとするが、スタン状態で動けない。
すると、目の前にフェアリーが登場して『スタン状態になっちゃったね! 【レスト】で軽減されるよ!』とアドバイスをして消えた。
チュートリアルを受けていないプレイヤーに初回だけ出るらしい。
「【レスト】!」
スキルを行使すると、全身が緑色に光って身体が自由になった。
そんな間にも流浪のスケルトンが二撃目を放っていた。
愛美は立ち上がって杖でどうにか防いだが、紙装甲のため、たたらを踏んで二歩下がった。
――68ダメージ
「骨男さん強すぎない?!」
それから何度も攻撃されるが、杖で全身をかばうようにしていたのでスタンは発生しなかった。
HPは【自動治癒(オートヒール)】のおかげで満タン状態だ。
全然死なないので余裕が出てきた。
「なんか強い人だけど【自動治癒(オートヒール)】で無敵〜」
愛美は杖を抱きしめて笑っている。
しかし、このままだと一方的に斬られ、MPが0になると【自動治癒(オートヒール)】が切れて負けてしまう。ジリ貧だ。
何か方法がないかなと考えていると、暇つぶしで見た他プレイヤーの動画で『アンデッドモンスターには回復が効く』と言っていたのを思い出した。
「やってみよう。攻撃されてないときに……【治癒(ヒール)】!」
攻撃の合間を狙って愛美が【治癒(ヒール)】を使う。
緑色の光が流浪のスケルトンに当たり、苦しむように震えた。
――139ダメージ
「効いた!」
魔力115から放たれた【治癒(ヒール)】は凶悪だった。
実のところ、ヒーラーとして人気のある白魔道士が魔力115に到達するにはレベルを15前後まで上げる必要がある。
見習い聖女は回復特化であり、アンデッドモンスター殺しのピーキー職業であった。
「――【自動治癒(オートヒール)】!」
さらに愛美は流浪のスケルトンに【自動治癒(オートヒール)】を付与した。
骨だけの身体が黄金の光に包まれ、流浪のスケルトンのHPバーが徐々に減っていく。
「いい感じ。消費MPがヤバいけど」
愛美は減っていく敵のHPバーを見てほくそ笑む。
「もう一回【治癒(ヒール)】!」
――140ダメージ
相手がダメージを受けると同時に、反撃してくる。
――70ダメージ
愛美に隙が生まれてしまい、ノックバックとスタンが発生して尻もちをついた。
「――【レスト】!」
状態異常を軽減して、即座に立ち上がる。
(放っておいても【自動治癒(オートヒール)】で倒せる。防御してたほうがよさそう)
このまま耐えていれば【自動治癒(オートヒール)】が相手のHPを0にしてくれる。
攻撃を耐え続ける愛美。
MPの残量も心もとないので、自分と相手のステータスを何度も確認する。
相手のHPバーが半分になったそのとき、それは起きた。
「……【パワースラッシュ】」
かすれた声で流浪のスケルトンがつぶやくと、ロングソードが青白く発光して光の軌跡を宙に残しながら振り抜かれた。
――クリティカル! 190ダメージ
敵が使った攻撃スキルが頭に直撃。
ダメージが大きすぎて減算速度に【自動治癒(オートヒール)】の回復が間に合わない。
HPが0になった。
――あなたは死にました
「ああ〜っ、いい感じだったのにぃ!」
愛美はキラキラと粒子になった。
消える瞬間、流浪のスケルトンがカタカタと顎を揺らしているのが見えた。
◯
「おお、見習い聖女よ。なぜ供を連れずに街の外へ出たのですか?」
デスペナルティで二分ほどクールタイムを待ってログインすると、安定の神父が登場した。
愛美はじっとりした目線を神父に向ける。
「蘇生料金700Gですよね?」
「おお、見習い聖女よ。なぜ供を連れずに街の外へ出たのですか?」
相変わらずの神父節に愛美はやれやれと肩をすくめ、そういえばと口を開いた。
「あ、確かに。一人で倒さなくてもいいんですよね」
「傭兵ギルドで傭兵を雇うか、冒険者ギルドで仲間を募るのが懸命でしょう」
「本当はズッ友とパーティーを組みたかったんですけど……。わかりました。ちょっと冒険者ギルドに行ってみます。骨男さんにリベンジしたいので!」
「あなたに女神ナリアーナ様の加護があらんことを」
神父が慈愛の満ちた笑みを浮かべる。
顔の横にログが現れた。
『蘇生料金2800Gを支払ってください』
(大幅値上げッ!)
デスペナルティはレベルに応じた蘇生料金がかかる。
見習い聖女の蘇生料金が高いのも不人気と地雷職の原因だった。
「すみません……800Gしかないです。アイテムってここで売れますか?」
「残念ながら買い取りはできません」
「じゃあ売ってくるのでちょっと待っててください」
愛美がそう言うも、神父は笑顔のままだ。
くっ、ふっ、と足を動かそうとしても無駄だった。払うまで動けない。
神父の横に『クエスト:大教会の掃除をしよう』が発生し、愛美はため息をついて了承した。
一時間ほど掃除をすると、蘇生料金がチャラになる。
スキル【小さな祝福Ⅰ】が【小さな祝福Ⅲ】に上がったことが不幸中の幸いだ。
(一時的に仲間になってくれる人を探そう。本当はズッ友とパーティーを組みたいんだけど……、いやいや、目的は強くなること。そして配信者として有名になること。骨男さんに勝ちたい)
「――【自動治癒(オートヒール)】」
HP5でも安心安全に街を歩ける【自動治癒(オートヒール)】をかけ、気楽な気分で冒険者ギルドに向かい、カウンターにいる美人な受付嬢に聞くと、仲間募集の張り紙の場所に案内された。
ヒーラーを募集している人に申請を送る。
(ふっふっふ……私は見習い聖女だよ。みんな、喜んでパーティーを組んでくれるでしょ)
蓋を開けてみれば、一人もパーティーを組んでくれなかった。
片っ端から申請してみるも即座に拒否されてしまう。
(どういうこと……?)
終いには『地雷職はキツいです。キャラリメイクしたほうがいいと思いますよ』というコメントまで添えて拒否された。
「……見習い聖女って地雷職なの?」
驚愕の事実に頭上から電撃を落とされた気分になった。
プレイヤーの名前が頭上に出ている受付嬢に聞いてみると、なんとも言えない笑顔を返された。
(まさかのRLO2でボッチプレイ)
がっくり肩を落として冒険者ギルドを後にした。
これからどうしようかなと思いつつ、巨大都市ホープシティを歩く。
夜の街はきらびやかに魔法のランプで明るく照らされ、プレイヤーたちが生き生きと街を歩き、NPCもAIとは思えない人間らしい顔つきや仕草で商売をしている。
お洒落な街を歩いているうちに、愛美は段々と楽しい気分になってきて、一人で倒しちゃえばいいんだよ。自動治癒もあるし頑張ろうと、前向きな気分になった。
愛美にはズッ友と再会するという、壮大なプロジェクトがあるのだ。
こんなところでへこたれて、あきらめるなんてできなかった。
(骨男さんに勝つには……まずはレベルを上げて、魔力を上げよう。魔力が上がれば【自動治癒(オートヒール)】の回復速度が上がるはずだ。あとは……【パワースラッシュ】をどうにかしないとなぁ。190ダメージは笑えないよ)
愛美は最後に使われた剣の攻撃スキルを思い出して、むーんと唸る。
考えながら歩いていると、路面店がずらりと並ぶ通りに入った。
地図で確認すると『買いだおれ横丁』と書いてあり、生産系のプレイヤーが客の呼び込みをして活気があった。お祭りの縁日みたいな雰囲気に、愛美は自然と口角が上がってくる。楽しい空気は大好きだ。
スライムとウルフからドロップしたアイテムを売れば多少のお金はあるので、何かいいものがないかなと近くにあった路面店を覗き込む。ポーションや装飾品を売っているお店のようだ。
「いらっしゃい……ってあなた! 死にかけじゃない?! 転んだりしたら大変よ!」
薄紫色のロングヘアに胸の谷間を強調する白いチューブトップ、細かい刺繍の入ったロングスカートを着た女性が愛美のHP・MPバーを見て目を見開いた。
エキゾチックな雰囲気の美女は椅子から立ち上がり、売り物の青い瓶を差し出した。
「クエストが発生して馬車に轢かれたらデスっちゃうわ! ポーションは持ってる? ヒーラーならスキルで回復もできるのよ? やり方がわからないなら教えるわ! とりあえずこれを飲みなさい!」
愛美は女性の優しさに胸打たれるも、苦笑いをしてぺこりと頭を下げた。
「お気づかいありがとうございます。あの……私、HPが5なんです」
「……はい?」
「HPが5なんです。5」
愛美は右手を広げて5と強調するように言う。
エキゾチックなお姉さんはポーションを差し出した状態で固まった。
「……?」
「パッと見、瀕死ですけど大丈夫ですよ! 元気なので!」
ローブの袖をまくって力こぶを作ってみせる。
ぷにぷにの白い二の腕が出ただけだが、愛美は明るく笑った。
「HP5?」
エキゾチックな女性は愛美の顔を見て、HP・MPバーへ視線を移し、マスカラのついた長いまつ毛をぱちぱちと開閉させた。
そして気まずそうに笑みを浮かべてポーションを持っていた手を下ろし、壊れ物を扱うようにそっと愛美の肩に手を置いた。
「明るい子に育ってくれて……ありがとう」
「どういたしまして?」
よくわからない空気のまま、二人は笑顔を交換した。
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