第5話 自動治癒の真価
「見習い聖女アイミよ。何か私に相談ですか?」
「あの、お金がないんです。見習い聖女が稼ぐ方法はありませんか?」
「そうですか、それはおつらいですね。ですが、金欲に溺れては教義を世界に広める役目を担う見習い聖女としての――」
「説法はいいので仕事をく、だ、さ、い〜」
神父に対して遠慮がなくなっている愛美。
都合が悪くなると旧式AIのふりをする胡散臭い神父である。
「おお、見習い聖女アイミよ。それでは大教会のお手伝いをしてください」
神父が微笑むと、ログが出現した。
――クエスト『教会でご奉仕/報酬(成果報酬制)100G〜1000G』
成果報酬制というのがいかにもあやしいが、愛美は他に手段がないので了承してクエストを開始した。
それから二時間、大教会の掃除や、聖書朗読、来訪者の受付などを手伝った。
(面倒くさいかと思ったけど、すっごく楽しい!)
アルバイト経験がない愛美にとって気軽にできる仕事みたいで楽しかった。
大教会はどの部屋に行ってもバロック調の素敵なデザインばかりで目の保養になるし、シスターの人たちはみんな美人で親切で優しかった。
胡散臭いのはあの神父くらいである。
ハキハキと笑顔で手伝う愛美は訪れたプレイヤーたちにも好評で、頑張ってねと応援された。
RLO2はこういったロールプレイにも力を入れており、プレイヤーの中には進んでギルドの受付やパン屋の手伝いをやる者も多くいる。リアルライフオンラインの名に恥じない、自由度の高いゲームだ。
「見習い聖女アイミよ、あなたの働きぶりには感銘を受けました。あなたには女神ナリアーナ様の祝福があることでしょう。それでは報酬の……100Gを差し上げます」
「お慈悲を! お慈悲を! 1000Gほしいです!」
笑顔で最低保証金額を言ってくる神父に、愛美が素早く祈りのポーズを取る。
「アイミの働きぶりを評価して、1000Gを差し上げます」
何事もなかったように神父が笑みをこぼした。
天然なのかわざとやっているのが判断がつかない。
――クエストクリア! 1000G獲得
――所持金1150G
――【小さな祝福Ⅰ】を獲得しました。熟練度を上げていこう!
(お、なんか新しいスキルをゲットしたね)
説明を確認する。
【小さな祝福Ⅰ/女神ナリアーナの祝福】
(うーん……効果がないスキルだね。熟練度を上げるといいことがあるのかな?)
こういったスキルの謎を解いていくのも心が躍る。
その後、武器屋に行って聖なる毒針を購入し、【自動治癒(オートヒール)】を駆使してスライムと一時間の死闘を繰り広げ、どうにか一匹倒すことができた。
――2ダメージ
【自動治癒(オートヒール)】で回復。
愛美の攻撃はミス。
――1ダメージ
【自動治癒(オートヒール)】で回復。
愛美の攻撃はミス。
敏捷が致命的に低いので攻撃が中々当たらない。
だが、攻撃を受けては自動回復し、肉を切らせて骨を断つ作戦でスライムを撃破した。
(死闘……まさに死闘だった)
さらに三時間。
スライムで経験値稼ぎをする。
(スライム倒して三時間。次倒せばレベルが上がるはず!)
ユニークスキル【自動治癒(オートヒール)】を絶えず自分にかけ続け、魔力が減ったら自然回復させ、継続戦闘能力を得た愛美はスライムをひたすら毒針でつついていた。
「たあっ!」
ぷすっとスライムに毒針が刺さる。
1ダメージの表記がポップした。
(あと一撃かな)
スライムの攻撃を何度も受けて攻撃のパターンがわかってきた。
それでも一匹倒すのに二十分ほどかかっている。
スライムが素早い動きで飛びつき攻撃をしてきた。避けられない。
――2ダメージ
「当たると、もにゅっとするよね」
HPが3になるが、【自動治癒(オートヒール)】がHPバーを即座に回復させる。
「わっはっはっは! 【自動治癒(オートヒール)】は無敵です! スライムちゃん、無駄な抵抗はやめなさい」
愛美がそう言って毒針をスライムに向ける。
すると、スライムがくるくると回転し始め、身体を槍のようにして愛美の首めがけて体当たりをした。
――クリティカル! 5ダメージ
「げっ」
喉から変な声が出た。
頭、喉、心臓などの急所部分はクリティカル判定になることがある。
デスったか?! と背筋がヒヤッとして神父の笑顔が頭に浮かんだが、HPバーが0に到達する前に【自動治癒(オートヒール)】の回復が入った。
HPバーが一瞬で満タンになる。
(……死んでない?)
スライムがもう一度同じ攻撃体勢を取っていたので、あわてて近づいて聖なる毒針を突き刺した。
1ダメージの表記がポップする。
――スライムを倒しました!
スライムが粒子になって消え、スライムゼリーというドロップアイテムが落ちた。
――レベルアップ! 見習い聖女がレベル2になりました!
「やったぁぁ! レベルが上がった!」
(これでHP5ともおさらば。攻撃力もちょっとは上がるよね)
愛美の前にステータスが出現し、ログが流れる。
『MPが80、魔力が25、精神が10上がりました』
ログの文字を見て、しばらく待ってみる。
何も起きない。
「え、終わり?」
――――――――――
名前:アイミ
職業:見習い聖女 Lv2
HP:5/5
MP:23/130(最大MP80アップ!)
腕力:1
体力:1
敏捷:1
器用:5
魔力:65(25アップ!)
精神:30(10アップ!)
スキル:【治癒(ヒール)】【祈り】
【小さな祝福Ⅰ】
ユニークスキル:【自動治癒(オートヒール)】
称号:【無手の博愛者】
装備:初心の杖、初心のローブ
所持金:150G
――――――――――
急いでステータスを確認してみるも、HPや体力は据え置きだった。
(なんてこった。HP5のままじゃん)
愕然とする愛美。
しかし、【自動治癒(オートヒール)】の可能性に、口元がにんまりとしてきた。
「私って不死身?」
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