HP5ですけど自動治癒(オートヒール)があれば死にません!
四葉夕卜
第1話 キャラクターメイクとシバイッヌ
新作です!
頭を空っぽにしてお読みいただけると幸いです^^
序盤を少し修正いたしました。ご了承くださいませ。
―――――――――――――――
「やった! 届いてる!」
自室に置かれたダンボールを見て、愛曽山愛美(あそやまあいみ)は歓喜した。
つい先ほど高校一年生になったばかりの愛美は真新しい制服姿に身を包み、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。
あまり高くない身長、アーモンド型の大きな瞳、黒髪ボブカット、白いリボンがトレードマークだ。口がちょっぴり大きいので、笑うと白い歯が奥歯まで見える。悪意とは無縁そうな、のほほんとした雰囲気が愛美にはあった。
机の上にあるダンボールへ目を向け、早速開けてみた。
「おお〜! すごーい!」
緩衝材をどけると、白いメカニカルなデザインのヘッドセットがお目見えした。
愛美はヘッドセットを装着し、全身鏡の前で無駄にポーズを取ってみる。
「VRMMOって高校生から使用オッケーだもんね。待ちに待ったよ。壮大なプロジェクトがついに始動する……!」
ぐっと拳を握る愛美。
早速やってみようと、ベッドに寝転んでヘッドセットコルタの電源をオンにした。
愛美の言う“壮大なプロジェクト”とは、端的に言うと、ゲームの世界で連絡先のわからない友達を見つける、というものだ。
両親が起業家であるため、愛美は高校生になるまで二十回も転校をしている。
(このゲームで配信者になって、みんなに私を見つけてもらおう!)
配信者になる→そこそこ有名になる→ズッ友とゲーム内で再会。
これが愛美の考える、完璧なプロジェクトだ。
(おっ。来た来た)
ヘッドセットが起動し、全身に沈み込むような感覚が走る。
――Loading
注文時に自身のデータは入力済みだ。
網膜認証のため愛美専用のヘッドセットとなる。
(設定画面かな? ワクワクする〜!)
ゲームが起動し、フェアリーが効果音とともに出現した。
『リアルライフオンライン2の世界へようこそ!』
中性的な見た目のフェアリーが笑顔で一回転した。
VRMMORPG Real LIFE Online2という文字が空中に浮かぶと、初期設定ステージの無機質な空間が広がった。
「あ〜、あ〜、おお、すごい。しゃべれる! 手も足も動くし、仮想世界ってやつだね。すごいなぁ」
気づけば自分の身体が直立している感覚になったので、手足が動くか確認する。
ジャンプしたり、フェアリーをつついたりしてみた。
フェアリーさんはくすぐったそうにして、くすくすと笑う。可愛い。
『それじゃ、キャラクターメイクをするよ! 一問ずつ、頭をからっぽにして答えてね』
それから一時間、性格診断テストを行った。
Real LIFE Online2、通称RLO2は奥底に眠る才能が開花するという謳い文句で、この性格診断は回答内容と脳波から適性を算出し、プレイヤーの才能を最大限に引き出せる職業が出現するというものであった。
(診断テストやっと終わった……。選べる職業はどれかな〜)
愛美は指で空中に出ている画面をスライドさせていく。
(剣士、戦士、魔法使い、僧侶は基礎職業だよね。誰でも出てくるってやつ。美食ハンターは微妙そう。クラッシャーは怖そうだからナシ。どうせならレアっぽい職業がいいんだけどなぁ)
まだ画面には続きがあり、スライドさせると『見習い聖女』という文字が出てきた。
(見習い聖女いいじゃん。清楚な私っぽいじゃん)
愛美はドヤ顔になり、むふんと胸を張る。
【見習い聖女/世界が危機に瀕するときのみ現れる職業。多種多様なバフ。強力な回復魔法を使える。頭装備以外は金属系統装備不可。無属性・聖属性以外装備不可。レベルアップ時に魔力、精神の上昇率に極大プラス補正。体力、腕力、敏捷の上昇率に極大マイナス補正】
職業の説明を見て、これだと思った。
傷ついた仲間を助ける可憐なる聖女様。
レア職業っぽいので、配信をするとき有利になりそうだ。
「よし。見習い聖女になろう!」
見習い聖女を選択すると、決定すると変更できませんがよろしいですか、という注意喚起が出てきた。
「大丈夫っと」
はいのボタンを押すと、フェアリーが目の前に来て、満面の笑みで一回転した。
『おめでとう! 今からあなたは見習い聖女です!』
キラキラと全身が輝くと、目の前にステータス画面が現れた。
――――――――――
名前:アイミ
職業:見習い聖女 Lv1
HP:5/5
MP:50/50
腕力:1
体力:1
敏捷:1
器用:5
魔力:40
精神:20
スキル:
【治癒(ヒール)】【祈り】
装備:初心の杖、初心のローブ
所持金:2000G
――――――――――
(HP、腕力、体力、敏捷が低いけど、MPが高いね。か弱い聖女だからしょうがない。私もか弱いし)
服装がローブ姿へ変更されている。
(顔のパーツがちょっといじれるみたいだけど……変えなくていいか。髪色もそのまま、名前もアイミで。よしと)
ズッ友に気づいてもらえる可能性を上げるため、なるべくリアルに寄せた。
(あ、デフォルトで白いリボンがつけられるみたい。防御力とは関係ないけど脱着可能と。ラッキー。つけておこう!)
黒髪ボブカットに白いリボン。愛美のトレードマークだ。
ズッ友が気づけるように、愛美はいつも白いリボンをつけていた。
『それでは光と闇の世界エターナリアへいってらっしゃい! あなたの才能に幸があらんことを!』
「フェアリーさんありがとう! いってきます!」
愛美が手を振ると、フェアリーも手を振り返してくれた。
身体が青白く発光すると、愛美の身体は初期設定ステージからかき消えた。
◯
(すっごく綺麗でお洒落な街!)
愛美は始まりの街、巨大都市ホープシティを見て感嘆のため息を漏らした。
中世の北欧を土台にしたバロック調のアーティステックな街並みは観光業にも注目されており、いずれ街並みを見るだけのツアーログインも開催される予定である。
鎧、ローブなど、ファンタジーな見た目をした人々が行き交っている。
『光と闇の世界エターナリアへようこそ! まずは大教会の神父に挨拶をしよう!』
(まずはレベルを上げよう。最強の聖女になって大活躍しちゃうもんね)
愛美は視界の右下に出ているログに気づかず、野外フィールドへ続く門へと移動する。
門の向こうには初心者向けのフィールド、イチノ草原が広がっていた。
早速、ステータス画面を開いて、ライブ配信のボタンを確認する。
RLO2はアカウントを外部の動画サイトと連携しており、誰でも簡単に動画配信ができる。
愛美は指示にしたがって動画サイトのアカウントを作ってRLO2と連携させた。
(それじゃあ、配信開始!)
スタートボタンをタップすると、ピンポン玉サイズの自動追尾型カメラが出現した。
(見てくれる人いるかな〜?)
愛美は二十回の転校を経験して精神的にかなり図太くなっている。
人前に出るのはまったく緊張しない質だ。
しばらく待っていると、同接数が3となった。
「皆さんはじめまして! 私の名前はアイミです。これから見習い聖女として頑張っていきたいと思うので、お暇でしたら応援よろしくお願いします!」
愛美が元気に挨拶をする。
アーモンド型の大きな瞳、ちょっぴり大きな口で笑うと白い歯が綺麗に映る。
『元気で可愛い』
『え? 見習い聖女? あの?』
『まさかの見習い聖女』
すぐにコメントが流れる。
「はい、見習い聖女ですよ。レアっぽい職業なので頑張りたいと思います!」
『あ……知らないんだ』
『伝えたほうがいいんじゃない?』
『本人がいいなら何も言うな。拙者はこの元気っ子を応援したい』
「最強の聖女になるのが目標です!」
愛美はテンションが上がってコメントに気づかず、「では、草原でモンスターを倒したいと思います」と言った。
レベル1でも倒せるのは別プレイヤーのプレイ動画を見て確認済みだ。
街の外へ出る門をくぐると、門番の兵士が「気をつけて」と言ってくれた。
すると、犬の鳴き声が聞こえた。
「あ! 柴犬!」
茶色い身体をプリティに揺らして、休憩中の兵士と柴犬数匹が戯れている。
NPCの兵士たちが柴犬をわしゃわしゃと手で撫でていた。
柴犬の頭上には『シバイッヌ』という文字と、HPバーが出ていた。
いちおうモンスターという扱いらしい。
「可愛いモンスターですね」
『シバイッヌは癒やし』
『スキル【じゃれる】は強力。必ずプレイヤーを足止めさせる』
『もふもふの魅力にはあらがえない』
配信にそんなコメントが流れる。
愛美はほっこりと笑みを浮かべ、吸い寄せられるように野良で遊んでいるシバイッヌへ近づいた。
おいでおいでとしゃがんで手招きする。
「わふ! わふ!」
シバイッヌがくるんと丸まったしっぽを全力でふりふりして愛美に飛びつき、顔を舐めてきた。
「やだぁ、くすぐったいよぉ」
顔をそらしながらも笑顔でシバイッヌを撫でくりまわす。
近くでシバイッヌと戯れていた兵士の兄ちゃんが、わっはっは、可愛いよなぁシバイッヌ、と笑って愛美を見ている。
『元気っ子とシバイッヌ、癒やしだわ〜』
『たまたま見つけた配信だけど当たり。チャンネル登録した』
『拙者はまだ様子見』
すると、1ダメージ、という文字が左端に浮かんだ。
(ん? なんだろ?)
愛美はシバイッヌのしっぽをもこもことやりながら首をひねる。
「わふ! わふぅ」
シバイッヌがもう一匹やってきて、また嬉しそうに愛美に飛びついた。
――1ダメージ。
「二匹もきちゃった! かわいい〜」
ダメージの報告が出ているが、愛美はシバイッヌに夢中だ。
『は? 待って。ダメージ食らってない?』
『聖女ちゃんのHPバーが減ってる?』
『シバイッヌって攻撃力あるの?!』
配信を見ている三人だけが愛美のダメージに気づいた。
HPバーが減っている。
シバイッヌがもう一匹やってきて、僕もかまってほしいと言いたげに愛美の腰へもふもふと頭突きをした。
――1ダメージ。
愛美の最大HPは5。
残りHPは2だ。
『聖女ちゃんHPあと半分もないやん』
『見習い聖女は体力が異常に低い。紙装甲。だからダメージ受けてるのかも。要検証』
『そんなことあるww????』
――スキル【じゃれる】
「くすぐったーい!」
スキル【じゃれる】は攻撃スキルではなく、対象を足止めする効果がある。
「こらこら、このぉ」
愛美は実に楽しそうにシバイッヌとじゃれあう。
『聖女ちゃん! 回復! 回復ぅぅ!』
『ダメージ受けてるよ!』
『ダメだ! シバイッヌが可愛くてコメント見てない!』
三人がコメントで呼びかけるも、配信初心者の愛美は右下に出ている小さなコメント欄を見ていなかった。
「わふん!」
「わん!」
楽しそうな風景を見て、兵士とじゃれていたシバイッヌ二匹が愛美のほうへと駆けてきた。
「君たちも遊びたいの〜? しょうがないなぁ! カモォン!」
両手を広げる愛美。
『カモォンじゃねえよwww』
『聖女ちゃん気づいて! 死んじゃう!』
『腹痛いwwww』
配信を見ている三人はのほほんとした顔をしている愛美を見て、笑いが止まらなくなった。
愛美は新規のシバイッヌ二匹に飛びつかれた。
――1ダメージ。
――1ダメージ。
――あなたは死にました。
「もふもふ最高! ずっとこのまま――」
HPバーが0になり、愛美は幸せな顔のままキラキラと粒子になっていく。
シバイッヌ五匹が不思議そうに首をかしげ、粒子になって空へと散っていく愛美を見上げていた。
『草wwwwwwwww』
『逸材発見wwwwwwwww』
『まさかのシバイッヌでデスwwwwwwwww』
この日、愛美の配信チャンネル登録者数は3になった。
そして愛美は知らなかった。
見習い聖女が超絶ピーキー職業であり、不遇職であるということを――。
ここから、RLO2の歴史に残る伝説が始まった。
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