第32話 たこ焼き職人
アンデッドウルフ百体が徒党を組んでゆっくりと愛美、メリッサを囲む。
「メリッサ。いつもので」
「オーケー」
愛美の言葉にメリッサが瞬時に意図を理解してうなずく。
「【プロテクト】!」
愛美は自身に補助魔法をかけて聖なる毒針を装備し、「はああああ!」と気合い十分で群れの中心部に突っ込んでいった。
敏捷1の愛美がとてとてと走る様子を見て視聴者はあんぐり口を開けた。
『なぜ突っ込むのおおおおwwww』
『聖女が前線に行く世界線w』
『いやああああアイミちゃんデスっちゃうううう!』
「たあ」
ぷすりと毒針が先頭にいるアンデッドウルフに突き刺さる。
――1ダメージ
まじかよこいつ、とアンデッドウルフも引き気味に愛美を見ていたが、我に返ってお返しとばかりに噛みつき攻撃を繰り出した。
――519ダメージ
オーバーキルもいいところだが、当然のごとく【自動治癒(オートヒール)】がHPバーを0手前で押し返した。
愛美は攻撃後の隙を逃さずアンデッドウルフの首根っこを左腕でしめて拘束し、両足で胴体を固定して聖なる毒針を振り上げた。
「えいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえい」
ぶすぶすと毒針が刺さって、1ダメージの表記が連続ポップする。
アンデッドウルフが動けず悲哀のこもった声で鳴いた。
『でwwwたwww』
『ウルフ職人芸wwwww』
『参照アーカイブ→URL』
『たこ焼き職人再びwwwwwwwww』
『脳筋聖女wwwwww』
コメント欄が盛り上がる中、取り囲んでいたアンデッドウルフが仲間を助けようと咆哮を上げて愛美に飛びかかった。
完全にヘイトが愛美に向く。これが狙いだ。
アンデッドウルフが愛美を中心に団子状態になって攻撃をするも、【自動治癒(オートヒール)】による超高速0回復を突き破れない。
(芸能人が街を歩いたらこんな感じ!? シバイッヌだったらよかったのに!)
「ナイス愛美。良い的だわ」
メリッサが腰溜めに大剣を構えて喜々とした笑みを浮かべた。
標的は団子状態になったアンデッドウルフの中心部だ。
「――私の血刃で血塗れになりなさい――【ブラッドエッジ】!!!!」
HP100を生贄にした血の斬撃が凄惨な効果音とともに大剣から射出された。
ズシャアという音を響かせ、赤くどろりとした斬撃が団子状態の群れにぶち当たり、そのまま貫通する。
二十匹ほどが斬撃の衝撃で弾け飛び、首を斬られ、胴体を切断され、そのままエフェクトとなって消えた。
「もう一発!」
メリッサは再度【ブラッドエッジ】を行使する。
さらにアンデッドウルフが消し飛んだ。
「【治癒(ヒール)】【治癒(ヒール)】【治癒(ヒール)】【治癒(ヒール)】」
ヘイトを向けられひたすら攻撃されている愛美も黙ってはおらず、【治癒(ヒール)】を連射してアンデッドウルフの数を削っていく。自身の【プロテクト】も忘れない。ついでに毒針で刺すのも忘れていない。
【治癒(ヒール)】でMPを消費するよりも、メリッサに【自動治癒(オートヒール)】をかけ続けたほうが結果的にに燃費が悪くなりそうだ。早急に倒してしまうのはいい戦術だった。
『めちゃくちゃすぎるwwww』
『紙装甲の後衛職がタンク役かい!』
『草wwwwwwwwwww』
『アイミちゃん犬に好かれるな』
『食べてたうどん吹いたw』
アンデッドウルフは絶対に死なない意味不明な見習い聖女を攻撃し続けるだけのボットと化しており、背後からバーサーカーのような見習い暗黒騎士に滅多斬りにされるという悲しい絵面になっている。
百匹いたアンデッドウルフはあっという間に減っていき、メリッサの容赦ない攻撃で最後の一匹も塵と消えた。
「ふう。ラストアタックは結構可愛い感じに斬れたと思うわ。無駄がない太刀筋で」
メリッサがツインテールの片方を手で跳ね上げた。
『ただの狂戦士で草w』
『首を落とす→血しぶきが上がる→断末魔→KAWAII????』
『暗黒姫は攻撃が好きなんですね』
視聴者のツッコミにメリッサは気づいていない。
――1ダメージ
――アンデッドウルフを倒しました
たこ焼き職人、もとい見習い聖女が毒針でアンデッドウルフを討伐して、立ち上がった。
「わははははは! アイ・アム・無敵聖女ッ!」
聖なる毒針を盛大に掲げて完全に調子に乗っている。
視聴者から愛すべきアホ子と指摘が入っているが気づいていない。
「愛美、MPポーションで回復を。多分ボスが出てくる」
「あちゃ〜、気づいたらMP半分くらいになってるね。持ってるの全部使っても全回復は無理そう」
メリッサの指示で愛美がMPポーションをあるだけ使い、MPバーが七割ほどまで回復した。
愛美の最大MPが高すぎるせいで、購入できる金額のMPポーションは効果が薄い。レベル16で一般的な回復役レベル35に匹敵するMPを所持しているせいだ。このおかげで同レベル帯で無双できているという事実もあるが、ポーションを購入する費用とたまにデスるせいで胡散臭い神父から蘇生料金をむしり取られているため、愛美は常に金欠だった。
(貧乏な見習い聖女……いや、諸悪の根源はあのエセ神父さんだ。蘇生料金まけてくれてもいいのに)
愛美はぶーぶー文句を言いながらも空っぽになったアイテムボックス一覧を見る。
【自動治癒(オートヒール)】のごり押し戦法が強いといってもMP依存のため、MPが0になるとパーティーは瓦解する。攻撃力はピカイチだが、やたらと燃費の悪いメリッサのHPも愛美の【自動治癒(オートヒール)】依存だ。
愛美もメリッサもそのことは十分に把握していた。
「森を抜けるまでに結構MP使っちゃったかな?」
「道中で【自動治癒(オートヒール)】をケチるわけにもいかないからね。しょうがないしょうがない」
二人が会話をしていると、周囲が薄っすらと暗くなってくる。
心なしか場の空気も冷たくなっているような気がした。
「メリッサ!」
「わかってる!」
大きな桜の木の下で物言わぬオブジェと化していた白骨がカタカタと揺れ始め、ひとりでに浮かび上がった。
動き出したのは動物の白骨のみだ。
白骨が四足歩行を取り、禍々しいエフェクトとともに筋肉が形成され、毛皮に覆われていく。その不完全な復活のためか腹部から骨がむき出しになり、表皮のところどころが爛れ、濁った眼光だけが不気味に輝いた。
――特殊クエストボス“悪食の大魔狼”出現!
「出たよ!」
「攻撃力がわからない! 愛美は下がって!」
愛美は杖を構えて後方へ下がり、メリッサが大剣を構えて臨戦態勢を取る。
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