第11話 水晶のような石
第11話 水晶のような石
「失礼します。エミリーア様お水をお持ちしました」
エミリーアが、みなを見てニヤリとしたところで、使用人が水の入った器を持って入って来た。
「特別に加工をされた石のようだけれど、確りと見なさい」
エミリーアは、テーブルに転がる石をドボンと水の中に放り入れた。
水晶のような石は、ドボンと音を立てて水の底に沈んだ。
そして数秒後、その石は、青白く輝いた。
「なぜ?」
「どうして?」
「石が光っている」
「青く発光しているわ」
「どういうこと?」
ハウスビッシュ家の人間が驚いても仕方ないだろう。
この水晶のような石は、持っていたら、購入の倍以上の価値になりますと、デルヴィ子爵が持ちかけてきた投資の対象として、古い道具と一緒に持って来た石だ。ゴミと思っていた石が光るのだから、驚いて不思議はない。
光る石をみて、エミリーアはコクッと頷いた。
「魔素の補充が全くできていなかったけれど、水も少なかったし仕方ないわね」
そう独り呟いた。
エミリーアは、驚くハウスビッシュ一同を無視して、エミリーアは発光を辞めた石を掬いナプキンで水分を拭いた。
そしておもむろに、驚くハウスビッシュ全員の顔を順に見た。
口を開けて驚く家族の顔を堪能した後、エミリーアは、先程まで発光していた石を左手の手の平にのせた。
すると再び、石が光った。ただし今度は黄色とオレンジの光を交互に放った。
その石が輝いている時、エミリーアは、石をテーブルに置いて目をつぶった。
「ふぅ」と息を吐き、からだの力を抜いたエミリーアは、今度は、「すぅー」っと息を吸い右手をかざした。
《ファイア》
ボゥ
その声とほぼ同時にエミリーアの手の平に炎が現われた。
「どうして、炎がここに」
「え? どういうこと?」
「マジで炎」
「アーニャ言葉汚い」
そして最後にアダルハードが
「なぜ、炎が? もしかして魔法なのでしょうか?」
「さすが年長者ね。アダルハード伯。私は魔法より、精霊を召還する方が得意なのですが、魔石が小さく魔力が少なかったので、基礎魔法を行使しましたわ」
「「「 魔法? 精霊召喚!!」」」
「しかし、魔法は現在では使えなくなったはずです」
「違うわ。今でも魔法は使えるわよ。アダルハード伯。
ただね。この大陸で、結界で入れなくなった、ベルティンブルグ領と他の大陸では、魔素があるから今でも魔法は使えるわ」
みなは、驚愕したのか、口をパクパクとしていて、声が出ないようだ。
「なるほど、先の戦いで他の大陸から来た奴らは、『何故だ、魔法が使えん』とか、謎の呪文を唱えて者がいたのは、そういうことだったのか!」
戦争で、隣の大陸から攻めてきた人間と戦った経験をもつアダルハードは、納得したようだ。
「そうね。長らくここの大陸は、エリーゼ様が作った結界があって、結界で守られていたのよ。すでに数百年も前に作った結界だったけれど、数年前に結界も弱くなって、他の大陸からもこの大陸の存在が解るようになったのよね」
「それで、侵略しようと攻めてきたのですね」
「ハウスビッシュ伯の言った通りね。今のところこの大陸では、物理攻撃が一番だから、しばらくは剣や槍などの応戦で撃退出来るわね」
「し、しばらくですか?」
「そうよ。しばらくよ」
「「「「「…… …… 」」」」」
「さて、戦争の話しは後でするとして、現在の問題を解決しないとね。
ハウスビッシュ伯。売りつけられた、この石らと、玩具のような道具は、私に一任してください。悪いようにはしませんわ」
「はい、それは、エミリーア様に一任しますが、せめて何故エミリーア様が魔法を使うことが出来たかの種明かしをして頂いても良いですか?」
「ハウスビッシュ伯。
申し訳ないけれど、種明かしはしばらく待ってくださる。
相談しなければいけない人がいるのよ。こんなことした私が言うのもアレですけれどね」
「しかし……」
「ごめんなさいね。これは、フーマ王国の女王、王配も知らない事なの。このことは、私が説明するまで誰にも言わないでね」
ハウスビッシュ家の者は、家族全員と目を合わせたのち、全員が首肯した。
「ありがとう。しばらくしたら必ず説明するわ」
エミリーアは頭を下げた。
「じゃ。この石の話しはこのくらいにして、何故、我が家は借金したことになって、あの者達が我が家に来るようになったのかしら、お父様きちんと説明してね」
アダルーシアは、氷のような笑顔をして、父アダルハードを見つめた。
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