第23話 帰りの馬車の中

第23話 帰りの馬車の中



「まさか、シアお姉様の婚約者様のお母様が女皇とは、腰が抜ける思いでしたわ」


 謁見が終わり、ハウスビッシュ一家は馬車に乗り、屋敷に帰るところだった。アダルーシアは、考え事をしているのか、ずっと難しい顔をして下を向いている。

 馬車の中で、ふぅっとため息をしたあと、末っ子のターニャが双子の姉、アーニャに話しかけたところである。


「本当に大きなお城だったわね。中で働いている人も多くて、あの家系の中に入るのは無理だと感じたわよ」


 二人の会話に母のクラウディアが口を挟んだ。

「あら。アダルーシアは、ウィルバード様に嫁ぐからあの城を往き来すると思いますが、貴女達二人は学園卒業後から、あそこで働くが確定しているわよ」


「「え! お母様。決定事項ですか? 」」


「そうよ。でもね、大陸上に魔素が漂うようになったら、ベルティンブルグ大公国に人の出入りが出来るようになったら、公都ベルティンで働くことになるわ」


「ベルティンブルグ大公国ですか? でも、なぜベルティンブルグに入る事が出来ないのでしょう」


「それはねターニャ。古竜様や精霊様などが、結界を張っていると言われているの。結界で魔素を外に出ないようにしていると代々伝えられているわ。

そして、その結界があるからこそ、私達がこの地で生きていけていると言われているわ」


双子は顔を見合わせた。


「それはね、結界で往き来できないけれど、精霊様がこの地に生きておられると言う事だと皇族では言い伝えられているわ。

万物の神であられる精霊様がこの地にまだおられるので色々な生命があるという事よ」


「「お母様ちょっとお待ちください。皇族って?」」


「私は、皇室離脱して、アダルハードと結婚したのよ。私自身はベルティンブルグ大公国においては、公爵としての地位があるの。姉が女王になりますが、私は血縁があるから公爵位なのよ。

そして、フーマ王国では、私は女伯爵位なのよ。姉も今は伯爵位なのよ。

連邦でみると、わたしは伯爵位、姉は副皇女ね。

フーマ王国で、私は侯爵になる予定だったのですけれど、先程話しがあった通り、オッドリアの次男に渡したから伯爵ね。姉もこの地では伯爵よ」


「「なんだか複雑でよくわかりません」」


「そうよね。私自身も混乱しますから仕方ないわ。

ベルティンブルグ連邦公共和王国が連邦の正式名称よね」


「「それは、さすがに知っています」」


「この連邦のはじまりは、フーマ王国から、ベルティンブルグ公爵領が独立した事が発端なのよ―― 」

クラウディアの説明が長く続いた。


 母の話しが終わった後、ターニャが口を開いた。

「そこまでは歴史の勉強をしましたが、知りませんでした。

教書では、女神様が寵愛したこの大陸の各国を治めるために、女神様の代行として女皇一柱と副女皇二柱作られた。その三柱が各国をまとめる様になったと教わっています」


「え?そんな事、習ったっけ?」

アーニャは、妹の言葉に否定したが、口をすぐに手で押さえた。

クラウディアとターニャが冷たい目でアーニャを見たからだ。


「アーニャ。我が国の歴史を習う際に、最初に教わることですよ。

それに歴史だけでなく、地理でも同じ事を習いますわよ」

 ターニャは深くため息をついた。


「アーニャ。貴女は勉学よりも、体を動かす方が得意なのは知っていますが、この話しぐらいは覚えておきなさい。この先私が説明しようとしていることが、理解出来なくなります」

 アーニャはペロッと舌を出した。そして握った手を頭にコツンと当てた。

そう、テヘペロである。アーニャは、お調子者であざとさがあるようだ。


 クラウディア「はぁ~」っと深くため息をついた。

「ターニャ。お屋敷に着いたらアーニャに、連邦のはじまりをきちんと理解するまで教えなさい。

それをアーニャが理解したら今の話しの続きをします。

ターニャは、続けて聞きたいだろうけど、今このアホな娘の前ですると、他人に話していい事と、私達だけで話していい事の区別ができなくなります」


「お母様。承知しましたわ。アーニャにいつも剣術の訓練の時に意地悪されるので、ここで仕返しをいたします。

こんな、お母様承認のうえ、仕返しできる機会をいただきありがとうございます」

ターニャは、流れるような綺麗な所作で母に感謝をあらわした。

その所作をみて、父のアダルハードが「ほぅ」と目を丸くしたので、本当に綺麗な所作だったのだろう。


「ターニャ。綺麗な所作をするようになりましたね。

アーニャは、がさつなので、所作も教えてもらっていいかしら」


 ターニャは、母の言葉にニッコリと笑顔で応えた。

アーニャは、母の言葉で顔が固まった。


 そんな、妹達を見ていた姉アダルーシアだが、小さく手を握った。

きっとこれからはじまる生活で多くの事を学ぼうと気を張ったのだろう。



 この会話の数分後、馬車から降りたアダルーシアは、修行の身支度を使用人に任せ、自分は一度ハウスビッシュ領に旅立つための準備をはじめた。



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