第22話 覚悟

第22話  覚悟



アダルーシアは、真剣な眼差しでバトリシアを凝視していたが、一瞬フッと緊張が解けた。

しかし、すぐに真剣な表情になり、眼差しをパトリシアに向けた。

「はい。お慕いするウィルバード様を引きずってでも、巨大な試練を乗り越えていく覚悟です」

 この言葉にもっと乙女らしい言葉が返ってくると思ったこの場の者達は、一瞬耳を疑ったがアダルーシアらしい答えだと思ったようだ。

 脳が筋肉の父に稽古された娘は、やはり脳筋で試練に挑むのが、よほど楽しみらしい。と、笑顔のアダルーシアを見て思ったようだ。


「アダルーシア嬢。其方の決意を受け取りました。

それでは、今後ともウィルバードの結婚相手はアダルーシア嬢として話しを進めていきましょう」


「はい。ありがとうございます。

これからも、みなさまのご協力、ご指導ご鞭撻の程お願いいたします」

アダルーシアは、満面の笑みだ。ここまでの悩みがいっぺんに解決したような爽やかでありながら、決意をしたことが伝わってくるものだった。


「家の愚息も鍛え直さなければいけないわね……

それでは、アダルーシア嬢は今後、ベルティーナと同じような教育をしていかなければなりません。

エミリーア副女皇、どの様に考える」


「そうですね。アダルーシア嬢は、私が学んだように、この城で学ぶと言うことは決定ですね。お坊ちゃまのウィルバード殿にも成長を促さないといけないと思いますね。

母であるパトリシア陛下と妹のベルティーナ嬢の二人で、剣の指導をしたら良いのでないでしょうか?

クラウディア夫人と同じく竜神流の師範ですからね」


クラウディアの娘三人は「え?竜神流?師範?お母様が」と呟き驚いている。

その声を聞いてアダルハードは、こっそりと娘達に

「クラウディアは、私よりも剣技がずっと上なのだよ。剣技大会が男女に分かれていて本当に助かっているよ」と教えた。


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 竜神流とは、ここにいるそれぞれの先祖と勇者二人によってはじまった剣の流派である。古竜が幼児に竜剣を授けた。しかしその幼児は、竜剣があまりにも危険だったため、幼児の姉が使用を禁止したのだが、どうしても竜剣で遊びたかった幼児は古竜に扱い方を教わり、勇者達と姉とその友人を巻き込んでできた流派だ。盾を持たぬその戦い方は、狂戦士、バーサーカーと呼ばれ恐れられた。

攻めは一番の防御とその狂った考え方は、竜に剣を作ってもらった恩恵なのかも知れない。

竜神流に使う剣は、片刃の剣。日本刀のように引いて斬るのだ。実際普通の剣は、押し切るようになり潰すイメージだが、竜神流は本当に切るのだ。

そして防御は、刀で相手の剣を受け流すのである。

普通は刃がボロボロになり手入れが大変だが、竜が作った剣(刀)は、剣自体が魔力を保持しているため刃が欠けることや折れることは全くなかったのである。

しかし、この世では竜剣は錆との戦いである。

魔力回復の為に剣を水に浸すためだ。手入れがものすごく掛かるのだが、魔法を使えないと言われるこの世では、本当に無敵の剣になる。

アダルハードはその竜が作った剣を使い他の国から攻めてきた人間達を攻撃したのだから無敵である。

ただ、この時は、本当の持ち主と竜剣に認められていなかったため、その威力はわずかな能力、刃こぼれがしない能力の解放のみのようだ。

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 「そんな事をすると、プライドの高いウィルバード様は拗ねてしまいます。

彼は、器用で今まで挫折を味わったことがない為か、精神面が特に弱く、しかも家族で女性である二人に負けるのは本当に心が折れてしまうと思います」

アダルーシアは、渋い顔をして頭を左右に振ったあと目を伏せた。


「やはり、アダルーシアは、ウィルバードの良き理解者なのね。

でも、貴女も今ウィルバードの心を折りにいっているわよね?」


「はい。ですが女皇陛下。私もウィルバード様が強くいて欲しいと思いますが、エミリーア様からの指令といいますか、指示あってのことなのです」


「その指示は実は、妾とベルティーナとエミリーア三人とも、ウィルバードの精神面を強くしたくて貴女にお願いしたことなのよ。

アダルーシアに嫌な役回りをお願いして悪かったわね」


「いいえ。大丈夫です。

でも本当にお二人がウィルバードと戦って心を折っても拗ねて終わるだけだと思います」


「だから。今回のヒムラー家からの婚約の申し込みを上手く利用して、アダルーシアとの婚約を守り続けるためには、剣術大会で優勝をしないといけないことにしたら、ウィルバードは真剣に剣に打ち込むわ」


「その修行時間に、アダルーシアは、領地に帰る振りして、ここで教育を受け、聖なる湖で魔法の修行をすればいいわ。

いいえ、城で勉強するよりも、聖なる湖で一緒に勉強するのもいいわね。

どうせ。エミリーアもそのように考えていたのよね?」


「パトリシア陛下の考えたとおりですわ。本当はこのお城で剣術と教育を行なおうと考えていましたが、アダルーシアが試練を乗り越えるのは、剣技だけでなく、魔法も必要かもしれませんからね。

でも、聖なる湖で魔法を教える事はできますが、私はアーチャー(弓を得意とする者)なので、剣は教えられませんわ」


ベルティーナは、ぱぁっと顔が明るくなり

「陛下。私もちょうど魔法の制度を上げたかったので、私もアダルーシア様と同行して魔法の勉強と教育を一緒に受けて、アダルーシア様と剣技の修行をしてもいいでしょうか?」


「うーん。ベルティーナ、そうなると一つ大きな問題があるの」


「何でしょう?」

ベルティーナは首を傾げた。


「ウィルバードもベルティーナも修行に出ると、私が宮殿で一人になるのよね? 独りぼっちは寂しいわ」


 パトリシアの発言に、みなずっこけてしまった。

一人称が私になっているのは、母としてと言う事なのだろう。

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