第21話 決意
第21話 決意
「話しが長くなってしまったわね。
色々と考えなければいけないことが増えましたが、ヒムラー男爵家からの交渉内容と、ハウスビッシュ伯爵家からの契約内容における約束などあるのでしょう。それを説明してください」
先程までの和気藹々していた雰囲気を壊すようにパトリシアは、言葉こそは柔らかいが、声を低くし威厳があり、空気を一気にピリつかせた。
ここからは、オッドリア姓のトリシャではなく、ベルティンブルグとして、女皇として政の話しだと暗に示したようだ。
「はい。パトリシア陛下。畏まりました―― 」
「お父様。その前に、私からパトリシア陛下をはじめみなさまにお聞きして頂きたいことがあります」
「あら、アダルーシア嬢。あなたから、妾に話したいことがあると、
それは、ここまでに関係ある話しなのかしら。そうでないならば、一連の話し合いが終わってからにして頂けるかしら?」
パトリシアは、はっきりとアダルーシアの発言に嫌悪を抱いている。
パトリシアの表情は硬く、眉を寄せているためだ。
「陛下。発言を許して頂けますか?」
手を上げて自身の母を陛下と敬称で呼ぶのは、ベルティーナだ。
「許可いたします。副宰相」
パトリシアの発言に、アダルーシアをはじめハウスビッシュ家一同は驚いた。
女皇の娘のベルティーナは、次代の女皇として学園に入学(入園)する前にすでに、政治・政の勉強を修めている。
今は、宰相のベルダについて実際に政務を行なっているのである。
パトリシアは、年下の娘ベルティーナがすでに責任ある仕事に就き働いているのに対し、息子は、責任ある仕事をするわけでなく、自分の意志を表示するわけでもなく、何事も適当に済ませ、己を成長させる努力もしていない。
そのため、母と妹は、ウィルバードを甘いと常日頃考えているようになったようだ。
「アダルーシア嬢。パトリシア女皇陛下の言葉を受け取り、ここからは、臣下として対応する事だと悟ってください。
アダルーシア嬢の態度は、年上や上司に対する発言として失格です。
私のように発言の許可をいただいてから発言するようにしてください」
アダルーシアは、学園の生徒であり、デビュタント前の令嬢だが、このような事は常識として会得しているはずだが、息子のウィルバードの婚約者として家族同然に接してきた“トリシア”が公の“パトリシア”としての態度に変わったのを、読み取れないのは貴族の令嬢として大きな失態だ。
父のアダルハードの対応が変わったのを感じ取り、自身も態度を変更しなければならなかったのだ。
しかし、女皇であるパトリシアも副宰相であるベルティーナも、言葉はきついものの顔はおだやかである。
「ぱ、パトリシア陛下。発言をおゆるしくだしゃい」
手を上げて発言したアダルーシアは、緊張のためか噛み噛みだった。ラブコメのヒロイン並の噛み方だ。
「発言を許します」
パトリシアは、実は言葉を噛んだアダルーシアに対しての笑いをかみ殺して許可を出した。それは、彼女の肩が上下に動いていることからも推測できる。
「ありがとうございます。陛下。
私、アダルーシアはウィルバード様と結婚をして、この身が滅びるまで、ウィルバード様と添い遂げる覚悟が出来ました。
ですので、ヒムラー男爵の次男との婚約は、あり得ません。
私は、彼をお慕いしているかどうかわかりませんでしたが、ウィルバード様の結婚相手として、妹達二人もその対象になるのがわかりました。
たとえ血の繋がった妹だとしても、彼を、ウィルバード様を誰にも取られたくないと自分の心に気づきました」
「お姉様」
「姉様」
アダルーシアの妹の二人は姉妹にしか聞こえない音量で呟いた。
「キャー 」
「キャー 」
エミリーアとベルティーナは、アーニャとターニャが声を潜めているのに対して謁見に相応しくない黄色い声をあげた。
パトリシアは、玉座からすぅーっと立ち上がり、エミリーアとベルティーナにゴツンと拳骨を落とした。
そして、利き手の拳をさすりながら玉座に再び座った。
その顔は、女皇の顔ではなく、母としての穏やかな顔である。
「アダルーシア嬢。あなたの覚悟しっかりと妾に届きました。
確(しか)りと、ウィルバードを教育してください。
今後は連邦だけでなく、今後は他の大陸との外交もはじまる可能性もあります。
そのときは、アダルーシア嬢が中心になり交渉する事になるでしょう。
それと、連邦は、双子継続ですが、女系の方が優位です。ですから、次代の女皇は、ベルティーナになります。ウィルバードの妹を補佐する形になりますが、あなたは大丈夫ですか?」
パトリシアは、真剣な瞳で自分を見つめる少女の覚悟を聞いた。
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