第20話 水晶のような石と水

第20話 水晶のような石と水



「いいえ。違います。母である私も、ウィルバード様の母であるトリシャお姉ちゃまも、あなたの意志に関係なく、二人を婚姻させることはありません。

シアへの小言も、ウィルバード様への苦言も二人に覚悟がないからです。

貴女達二人には、大きな試練が待ち構えているのです。

そのため、その決意が出来るように促してきたのです」


「え? 試練―― 」

アダルーシアは、母の言葉に驚き、目を見開いたまま呼吸を止めた。


このまま息が止まっていたら死んでしまう…… 


「お母様。シアお姉様とウィルお兄様の大きな試練とはどういったことですの」

末っ子のターニャは、全く動かなくなった長女の為に代わりに質問した。

因みにアダルーシアは、全く動いていない。まだ呼吸していないようだ。

本当に死んでしまうぞ。


「ターニャちゃん。それはね。あまり詳しくは、私達もわかっていないの。シアナ様が残した預言者に書かれていたのよ。

実は、昨夜まではアダルーシアとウィルバード二人の能力は剣の腕だけだと思っていたのよ。 

アダルーシアは、ファリカ様の血筋ですから伝説の剣『竜剣』を扱えると思い、剣術で試練を乗り越えると思っていたのよ。

だからこそ、アダルハード伯はシアに剣の技術を教え鍛錬を強要していたの」


エミリーアは、呼吸をはじめた。

その表情は、眉をひそめ、口尻は、左右に引っ張られている。

呼吸を止めて息苦しくなったのではなく、ちょっと怒っているのだろうか?


「剣術が得意で男性よりも強いシアお姉様が、剣術以外の何が、試練に立ち向かうスキル(能力)になるのですか?」

ターニャは、疑問に思ったことを素直にそのまま聞いた。


「それはね―― 」

エミリーアは言うかどうか迷っているのだろう。少し間をとって、


「魔法―― よ」


「「「「ま、魔法ですか?」」」」

「魔法は数百年前、なんとか塔が地中に入って引きこもってしまってそれ以来全く使えなくなったのではないですか?」


「ターニャちゃん。それは、そうなんだが、実は魔法は使えるよ。

昨日私がみなに見せたじゃないか。

それに引きこもるって…… 確かに地中にもぐってしまったけれど」


「確かに昨夜エミリーア様の手の平から炎が出現するのを、みましたが、アレは手品ではないのですか?」

 ここからハウスビッシュ家の者達がワーワーと騒ぎ、ああでもないこうでもないと自身の考えを述べている。引きこもる、潜り込むなど関係の無い話しも飛び交っていてとてもうるさい。


 この部屋を静かにさせたのは、双子と年齢がかわらないベルティーナだった。

「静かにしてくださいませ。

し・ず・か・に しなさい!」

ベルティーナの声の大きさと気迫にみなが黙り静かになった。


「魔法は今でも使えます。 《ファイア》 」

ボウッとベルティーナの手の平から炎が出現した。


 昨日、同じ魔法を見ていたアダルーシア達も、炎をじっと見ている。

「魔導集中補充塔が、あった時のように眠るだけでとか、時間が経つだけで、魔力は回復しませんが、魔力を使った後に都度補充をすると、このようにすぐに魔法を行使できるのです」


「「「 ななな なんと 」」」


バトリシアは、娘に透明な水晶のような石を数個渡した。

そして、ベルティーナはそれをクラウディア達に一つずつ渡した。

そして自分は魔石を軽く握った。

 キラキラ☆

石は黄色と橙色の光りを放った。


「こ、これが魔石ですか?」

クラウディアは、幼い頃の記憶を掘り起こした。

「みず…… 水の中にはまだ魔力がある……」


「そうですよ。クラウディア思い出しましたか?」


「はい、私もパトリシア様と若い頃大森林の川や聖なる湖で魔法の練習をしたのを思い出しましたわ」


「そうね。あなたは次女でしたから、遊び程度で旅行気分でしたものね。

あの時、わたくしは、血の滲む修行をしていたのに、あなたは、水着に着替えて湖で水遊びしていましたものね。

―― それは、わすれるわよね?」

パトリシアは、綺麗な顔に皺を作っていた。苦虫をかみつぶしたような顔の見本のような顔だ。


パトリシアの嫌みに負けたクラウディアは、バトリシアからすぅーっと視線を外した。


「クラウディア様。きっと貴女様も魔石を握りながらなら、簡単な魔法を行使出来るはずですわ」

ベルティーナは、魔石をクラウディアに渡した。


クラウディアは、魔石を左手で軽く握りしめた。そして右手を上に向けた

《ウオーターボール》

手の平を上に向けていたところから水も球がポンッと飛び出てきた。


水球はすぐに消えたが、すぐに魔石は、黄色と橙色に光った。

魔力を吸収したようだ。


「このように、魔力さえあれば、才能がある者は補充できる分だけの魔力を使って魔法を行使出来ます。これは、今の世界だけかも知れませんが」


エミリーアは、ベルティーナの言葉の後に続いた。

「今、ベルティーナちゃんから説明があったけれど、実は昨夜。アダルーシアが水を飲んだ時、ほんのわずかだけれど黄色と橙色の発光があったのよ。

訓練もしていないのに、水を飲みながら直接魔力を吸収したのよ。

どういう原理かわからないけれど、水を飲んで体内に入ってしまうと魔力を吸収する事は出来ないけれど、飲む前なら訓練すると魔力を吸収できるの。

アダルーシアは、訓練もせずに魔力を吸収したの。つまり魔法の才能がある可能性が高いの。だ・か・ら 今朝アダルーシアにウィルバードと戦うために、魔法の修行をする覚悟があるか確認しに行ったのよ。

恋バナしたかったわけでないのよ。

…… 本当よ」


この時アダルーシアの顔つきが変わった。

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