ウィルバード 変心

第24話 疑惑

第24話 疑惑



 「うんんんむ」

 「こ、ここは? 」

 意識をなくしたウィルバードは、目を覚まして自分の状況がわからなく辺りを見回した。


「ウィルバード様。お目覚めでしょうか?」


ウィルバードに声をかけてきたのは、この屋敷(宮殿。ウィルバードのターンの場合は屋敷や邸で統一)で働く、メイドのルイーサである。


「ルイーサか? 僕は一体どうしてここで寝ているのだろう?」


「学園で、寝不足で意識を失った様でして――」

ルイーサは、口ごもってしまった。


「ルイーサありがとう。ここからは、私が話す」

 間に入ってきたのは、ウィルバードの身の回りの世話をするハーマンである。

主の長男だとしても、未婚の女性であるルイーサとウィルバードを二人きりにする事はない。


「坊ちゃん。

学園で倒れたと、デットリック殿下とカトリーナお嬢様が馬車を走らせ、ここに連れて来てくれました」


「そうか。僕は学園で倒れてしまったのか。ここに連れてきてくれた二人に明日にでもお礼を言わなきゃな」


「お二人は坊ちゃんの事をとても心配されていたので、お声掛け忘れぬようにお願いします」


「ハーマン」

ウィルバードは、自分の侍従で有りながらも兄のように慕っている、ハーマンに真剣な眼差しを向けた。


「坊ちゃんどうしました」

ウィルバードの今までに無い真剣な声に、ハーマンは少し驚いた。


「どうやら、僕はアダルーシアとの結婚を諦めなければいけないようだ」

ウィルバードは、目に涙を貯めている。

ハーマンは、尽くすべき相手ではあるが、ウィルバードの事を、兄であり時には父のように導かなければいけないと思っている。

 それは、行方不明のウィルバードの父ワルフリーデンより『俺がもし帰ってこなかったときは、父のようにウィルバードを導いて欲しい。トリシャは、母とし、接することよりも、パトリシア女皇として息子に接しなければいけない状況になるはずだ。女皇として、未来を考えると自分の息子だとしてもきつく接するときが出てくる。

そのときは、ウィルバードはどん底にいるはずだ。すまんが息子を頼む』

と命令ではなく、お願いされているのだ。


「僕は、一体何のために―― 」

ウィルバードの呟きを聞きハーマンは、自分の息子のようにウィルバードを抱きしめた。

ハーマンから顔を見ることができないが、ウィルバードは、涙を流し慟哭した。

 数年前、剣の訓練をしている時に誤って家臣に大怪我をさせたときにも泣くことのなかったウィルバードが、恥じらいもなく、自分の前で泣くのは信頼されていると思い。ハーマンも胸が熱くなっていた。

 ハーマンは、この婚約破棄の事と、昨夜母でなく冷酷な女皇パトリシアとそれに従うベルティーナとの模擬戦の経緯と結果を知っている。

 アダルーシアとの婚約は解消にならないとも聞いている。

しかしウィルバードを覚醒させるためといえ、こんな追い込み方はあり得ないと考えた。 自分は首になる覚悟でトリシャにもの申したのだが、彼女は、母のトリシャではく、女皇であるパトリシアの行動は残酷だった。


 ウィルバードの慟哭が嗚咽にかわり、しばらくすると泣き声が全くなくなった。


 ウィルバードは、照れ笑いしながらハーマンから少し離れた。

「ハーマン。すまん。思い切り泣いたらすっきりしたよ。

女子が何故涙を流し泣くのか、わかった気がするよ」


「坊ちゃん。本当にスッキリしたようですね。

顔がいつもの爽やか少年に戻っていますよ。

目が腫れて、鼻水などで顔がぐちゃぐちゃですけれど、私が知っている中で今が一番のイケメン顔です」

 ウィルバードは、照れたように頭を掻いたが、真剣な眼差しをハーマンに向けた。

「ハーマン。すまんがもう少し僕に時間をくれるか?」


「はい。私は坊ちゃんの侍従です。いつまででも大丈夫ですよ」


「ありがとう。

僕は、今まで感情を押し殺すようにしていた」

ウィルバードは、自問するように言葉を発した。


「それは、何故ですか?」


「先ずは、母トリシャが、ベルティンブルグ連邦公共和王国の女皇パトリシア女皇と教えてくれていない事が起因している」


ハーマンは驚いていた。ウィルバードが、母の事を気づいている素振りが今まで全くなかったからだ。

この屋敷からは、城壁を含め全て城は見えないようになっている。見える所は屋敷の裏庭のごく一部しかない。

それは地理的なこともあるが、ここの城だけは認識ができないようにある工夫がほどかされているからだ。 その工夫は、城の場所を知っている人間からの説明がない限り見えることはない。

 それなのに、ウィルバードは、城に気づいただけでなく、トリシャがパトリシアだと理解している。


 ウィルバードは、話しを続けた。

「先ずここは宮殿なのだろう。そしてここから見て裏手に城壁・城がある。

きっとこれに気づいている者はこの屋敷ではごくわずか」


 ウィルバードの発言にハーマンは頭を下げた。

「ウィルバード様申し訳ございません。

私もそのわずかな者の一人です」


ウィルバードは、ニコリと営業スマイルをした。

「よく自分から言ってくれたね。

でも、このことを秘密にするのは、僕にも理由はわかるよ。

それでもね。母と妹が何も言ってくれないのは悲しいかな」


ハーマンは、黙ってウィルバードの言葉を聞くしかなかった。


「気づいてからもう10年くらい経つかな。

それから、しばらくは母と妹の気を引こうと、悪あがきしたよ。

二人の気を引いて我が家の秘密を母か妹の口から説明してくれる為に行動したよ」

 ウィルバードは木剣を右手に握った。

そして木剣を上から下へ振り落とした。


 すると部屋にあったテーブルが、スパーンと真っ二つに切れ、すぅーっと片方が滑り落ちた。

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