第26話 大きな河にある商業街

第26話 大きな河にある商業街



 ウィルバードは、自身の飼馬。芦毛のブロウの頭を軽く撫でた。

「ブロウ。これからオッドリアまで乗せてくれるか?」

「ヒヒーン」

 ブロウはまるでウィルバードの言葉がわかるのでないかと言うタイミングでいなないた。

「そうか。ありがとう」

 再びブロウの眉間辺りを中心に撫でた。

ブロウは気持ちがいいのか目を細め喜んでいるようにみえる。


 ウィルバードは、わずかな食料と水。そしてブロウの手入れをするためにブラシを三種類とテッピ(蹄に異物が入ったら取る道具)汗こきなど、自分の物荷物よりもブロウ愛用の手入れ道具の方が圧倒的に多いのは、ウィルバードがブロウを本当に大切にしていることがわかる。

 そして、剣と片刃で薄い剣等を携帯した。

母や妹に隠れてこっそりと働いたお金を路銀にするため、全ての金を持った。


「もしかしたら、この屋敷を見るのは最後かも知れないな。今までありがとう。今まで僕を育ててくれたみんなありがとう」

ウィルバードは右手を胸におき、正面にいままで住んでいた邸を凝視した。

「王国の剣術大会で優勝できるように修行して強くなります」

そう呟き踵を返した。


「さあ。出発だ!」

ウィルバードはブロウに跨がりオッドリアに向けて出発した。


 ウィルバードはメンタルが弱いと、母や妹そして婚約者に言われているが、自身が納得すると動きは速い。

 自身の感情を抑えていたために煮え切らないように見えていたが、本来はそんな事はない。本来の性格や技量を隠して生きてきたのだ。

 今から演技をすることなく、素で行動できる事にウィルバードは心を躍らせていた。

 今まで誰にも見せたことのないほど表情はとても明るく、瞳はキラキラと幼い子供が好きなことをしているように輝いている。

 父が行方不明になった時、妹が伯爵を継ぐと聞いたときから、ウィルバードは、妹ベルティーナよりも、劣っているように演じていた。 そのように演じることを辞め、自分の意志で動くことを決めた今、本当に生きていると実感しているようだ。

 

 ウィルバードは、王都の門を無事に抜け東に向かった。

フーマ王国の東には、ユーセニ河がある。ユーセニ河は河口から王都まで荷物を運搬する舟が就航している。

 人や馬を乗せる船もあり、ウィルバード自身やブロウが体調不良になった時に陸の旅を辞め、船旅に変更しやすいためである。

 距離は、王都からそのまま南に下って移動した方が、距離は短いが、山間部が多く道が険しい。一度東に向かって河沿いの街を巡ったほうが、ブロウの負担が軽くなると考えている。


 ウィルバードは、ブロウに並足(なみあし)速歩(はやあし)を繰り返しながら走らせ負担が軽くなるように走らせていた。 約30分走らせると一回休憩をいれている。 ウィルバード本人は、学園で倒れたとは思えないほどにキビキビと動いているので、体調は良くなったのであろう。寝不足と精神的に辛くなりダウンしたようだが、今のウィルバードは精神が安定しているようだ。

 そして、何よりも大好きなブロウと長時間一緒にいることができるのが、精神に安らぎを感じているようだ。 休憩時に甘えて頭をウィルバードにこすりつけてくるのが、たまらなく、うれしさを倍増させている。


 一人と一頭がオレンジ色の陽を浴び、影が長くなった頃、最初に泊る街エイゴリンに到着した。


「身元を確認する」

 門番の声にウィルバードは、父であるオッドリア侯爵の子息である証明の家紋を見せた。

「はっ。オッドリア侯爵の嫡男さまでしたか?態度に失礼があったこと謝罪いたします。王国内の貴族の方に税は必要ないので、そのまま中にお入りください」


「別に失礼な態度など無かった。 謝罪の必要はない。言葉がぶっきらぼうなのは仕事上しかないこと。 まあ、普通の貴族なら馬車で街に入るから騎乗している僕が貴族などと思わないだろう」


「はっ!そのようなお気遣いありがとうございます。

もう夕刻なのでこの街でお泊まりでしょうか?」


「ここで泊る予定だ。馬も一緒に休むことのできる宿屋を紹介して欲しい。どこか心当たりはないか?」


「それでは、『跳ね雄馬の宿』は如何でしょう。有名商人など利用している宿で、この街では、馬を休ませるのに一番設備とサービスが整っていています」

 

 ウィルバードは、案内してくれるという門番を丁重にことわり、場所だけ聞いて移動をはじめた。


「うおおお」

エイゴリンの街は、商店や宿屋と飲み屋など沢山建ち並び、王都とは全く違う街並みだった。その中でも、ひときわ大きい建物が二つ。一つは冒険者ギルド。そしてもう一つは商業ギルドであった。

「冒険者ギルドと商業ギルドの建物が大きいな。荷船からの荷物を王都に運ぶため商業が発展しているのだな。 それに関連して仕事も沢山ある街なんだな。

すごいな、ブロウ」

「ヒヒーン」

 本当にブロウはいいタイミングで鳴く。ウィルバードの言っていることを理解しているようだ。

 ウィルバードはブロウから降り、手綱を引いてゆっくりと街並みを見ながら歩いた。


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