第27話 跳ね雄馬の宿

第27話 跳ね雄馬の宿



 ウィルバードは、ブレンを繋ぎ場に一度預け、宿屋である跳ね雄馬の宿に部屋があるか確認しに一度宿屋の中に入った。

 跳ね雄馬の宿は、かなり大きく外観はとても綺麗で一階に受付がある。 その奧には食堂、飲み屋があった。 宿泊する部屋は二階で雑魚寝の部屋がほとんどで、三階は個室になっている。この時代に三階まである宿は珍しい。

 ウィルバードは、二階で、他の客と雑魚寝をして泊ろうとしたが、上質な服を着用しているため盗難にあうため、三階の個室にしなさいと、二階の部屋での宿泊を拒否されてしまった。

 

「仕方ないそれでは、三階の部屋をお願いします」


「馬と一緒ですね。それでは、一泊で銀貨10枚です」

ウィルバードは、金貨で支払った。


店員はお釣りをウィルバードに返しながら

「こちらは、お部屋の鍵です。 馬を厩(うまや)に繋いでからお部屋にお上がりください。

お客様の馬は、繋いだ後、厩に担当の者がいますので、水や草などの餌をどうするのか相談してください。 馬の手入れを厩に任せる場合は、別途追加料金がありますので、厩でお支払いください。

お客様のお食事は、随時食堂で注文をとりますので、ここの食堂でも、屋台などお好きなところをご利用ください」


 ウィルバードはコクッと首肯して、部屋の鍵を受け取った。


「服など買いたいのだが、この辺に服屋はあるか?」


「服屋ならちょうど厩の裏手に数件ございます」


「ありがとう」


 ウィルバードはこの後、服を調達する予定のようだ。

そして、繋ぎ場にもどり、ブロウを厩に預けるため移動を開始した。


 厩に行くと、そこには、馬に話しかけている少女がいた。

その少女は少し涙声になっている。

 年齢はウィルバードよりも少し年上だろうか、身長は、ウィルバードとアダルーシアの丁度中間ぐらいでスラッとしている。背中には長い剣を背負っている。ウィルバードが背負っている剣より少し短いようだ。

 髪は、黒髪で顔は真っ白な馬の方を見ているから見ることはできない。


「目を離した隙に…… すまない。痛いよな」

 ウィルバードは少女の声が聞こえる所まで、移動した。その馬の脚を見ると無理をさせていたのか、蹄から脚の下まで真っ赤になり、血が滲んでいた。

そして、馬は足を引きずっている。馬が足を怪我した場合は、骨折など関係なしに亡くなってしまう可能性が高い。

 馬にとっては、四本の足は心臓と変わらないのだ。


「僕には治す事が出来る。でもここで魔法を使うと……」

ウィルバードはそう呟き、彼女と白毛の馬を通り過ぎようとした。


「なんで、男どもの誘いを断っただけで、このような仕打ちをするのだ。こんな卑怯なことをしないで、私に直接すればいいのに……」

 

 ウィルバードは、愛馬ブレンを厩に停め、従業員に二言三言話し、その少女のところへ行った。


「可愛そうに、こんな綺麗な馬に怪我させやがって」

急にウィルバードが話し始めたことに、

「!!…… ―― 」 

少女は目を見開き、口をパクパクと動かした。

何かを言っているようだが、声が小さくてわかない。


「すこし、この子の足をみてもいいかな?」

ウィルバードは、声をかけようか迷っていたが、困っている人を黙って見過ごせないようだ。

 少女はコクッと首肯して、ウィルバードが馬を見やすくなるように場所を移動した。

 ウィルバードは、首肯して場所を変えたことで観ても大丈夫と判断し、白い毛の馬の足をみた。

「骨折は免れているが、馬としては致命傷だ」

 ウィルバードは少女をみたあと視線を外して、頭を左右に振った。

「…… そうですか。私は騎士ではないですが、この子は私の相棒なのです。

苦しみぬいて旅立つよりも…… 」

少女は涙をウィルバードに見せないように下を向いた。

 ウィルバードは地面が彼女の涙で濡れていくのを黙って、その一点をみていた。

 するとその白い毛の馬は顔を、ウィルバードにこすりつけた。


「ヒヒーン、ヒヒーン」


急にウィルバードの愛馬ブレンがいつもより甲高く鳴いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る