第28話 少女の正体

第28話 少女の正体



「俺らの事、無視するからこうなるんだ。

「ねえちゃん。やっぱりここにいたのか!」

「そんな馬の事など放っておいて俺らと仲良くしようぜ」


 ブレンが鳴いたのは、こぎたない格好をした男達三人が近寄って来からのようだ。

白い毛の馬は、男達が現われ興奮しているのか、痛めた足にかまわず「ヒュン ヒューン」鳴いて威嚇している。


「貴様達だな。私の愛馬をこのようにしたのは」

少女はならず者に鬼の形相をむけている。


「さあ。知らねぇな」

「そんな、怪我した馬などしらんわ」

「そんなことより、俺たちといいことしようぜ」


 少女が剣を鞘から抜き、上段の構えをした。

少女の剣は、ウィルバードの持つ剣とおなじ片刃で薄い。

『刀』だ。

 ウィルバードは、その刀を見て、サッと少女の前に出て、鞘のまま一番大きい男の鳩尾(みぞおち)を突いた。

 そして、残りの男の首を手刀で叩き気絶させた。

大男は、膝をつき痛みに耐え、他の二人はそのまま、バタリと倒れた。


「おい! そこの馬丁! この白い毛の馬が怪我したのは、お前がきちんとここで馬の管理をしていなかったからだ。 この三人から金でも渡されたのか?

損害賠償を請求されたくなかったらサッサと上司に連絡してこの男達を街の自警団に引き渡せ。

因みに僕は、貴族の息子だ。父は侯爵位で母は伯爵位だ。言う事を聞かないとどうなるかわかるよね?」


 馬丁は青い顔になり、ものすごいスピードで走って行った。

きっとウィルバードの脅しが効いたのだろう。


「これだけ脅せばここからいなくなると思ったよ」

ウィルバードは、白い毛の馬の所に戻り足に向けて手を向けた。

《馬の脚(足)よ 治れ》

白い毛の馬が光りに包まれた。


ウィルバードは、馬の足に触れ怪我が治っているか確認した。

「ふぅ。今まで馬に使ったことが無かったけれど、どうやら怪我が治ったようです。 因みにこのことは内緒にして頂けますか?」


 少女は一瞬目を丸くしたが、すぐに冷静な顔に戻った。

「ああ、ありがとう。このことは内緒にしておく。

つかぬ事を聞くが、君の姓はベルティンブルグもしくは、オッドリアか?」


 今度はウィルバードが目を丸くした。

「あれ? 何故知っているのかな? 王都以外で知り合いはいないはずだけど?」


「あ、申し訳ない。名乗っていなかった。

私は、レイナ=バールィシニャ フーマ王国学園の三年だ。君の先輩になる。

まあ、修行の旅に出て、学園にほぼ顔を出していないから知らないとおもうがな」

 レイナは、スカートをはいていないため、膝を曲げて礼をした。


「僕は、ウィルバード=オッドリアです。

よろしくお願いします。 先輩」

ウィルバードは胸に手を当てて礼をした。


「いや。 こちらこそよろしくだ。

君はすでに、聖属性魔法を使えるのだな。

これは、そのお礼だ」

レイナは、水晶のような石。魔石をウィルバードに渡した。


「先輩これは何ですか?」


「ウィルバード。姓を聞いてわかっただろうが、私も魔法を使うことができるのだが、今のところは初級の攻撃系しか使えない。

この石は、魔石と言って、魔力をため込むことができ、ため込んだ魔力を体に補充が出来る物だ。

魔力補充のために水に入る必要はないぞ」


「先輩も魔法を…… 」

ウィルバードは、魔石をじぃっと見つめて、話を続けた。

「こ、これが魔石ですか? 書物で知っていましたが本物は初めてです」


「でも、君はすごいな。あれだけの魔法を使うのに魔石なしで行使できるのだから。魔法を使えるとしても魔石を握らずに使える者は聞いたことが無かったぞ。くくくっ」

 レイナの瞳に写っているのは、自分の愛馬に頭を舐め尽くされるウィルバードだ。


「先輩。 僕が先輩の馬にめちゃくちゃ舐められているからってそんなに笑わないでください」


「飼い主としては、悪いなとしか言えぬが、この馬は君にお礼をしているのだよ。きっと」


「『きっと』って何ですか?

それよりも先輩、魔石で魔力の補充の仕方を教えてください。先輩の馬の治療費は、魔石の使い方と明日の朝に模擬戦をする事でいいですから」


「そうか。それでいいのか悪いな。魔石の使い方は、夕食後教えるよ。

夕飯は一緒にしないか。色々聞きたいこともあるし、君も聞きたいことがあるだろう?」


そんな話しをしていると、ビシッと制服を着込んだ紳士が現われた。

彼と馬丁が詫びていると、自警団がやって来て伸びている三人を縛り連れて行った。


「先輩すみませんが、馬のヨダレで僕の頭がすごいことになっているので、髪を洗ってからのお食事でいいでしょうか?」


「ああかまわないぞ」

そう言ってレイナは、笑い続けるのであった。


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