第29話 バールィシニャ

第29話 バールィシニャ



「いらっしゃいませ。ウィルバード様。さき程は大変失礼いたしました。

今日のお会計と宿泊費はサービスいたしますので、遠慮無くお食事をお楽しみください」


ウィルバードは、頭、(体もだが)洗い終わり、レイナと食事するために宿屋の食堂にやって来た。


「支配人。気にしないでください。食事代も宿泊代もきちんと支払いします」


「いいえ。そんなわけには行きません。レイナ様も同じサービスをしますので、そんな事を言わず、お受け取りください」


「支配人がそこまで言うのなら…… わかりました。

僕が支払う金額はガーデン(孤児院のこと)に寄付してください。各地でお金を落とすのも貴族の務めですので」


 しばらく、このようなやりとりを続けたが、支配人が先に折れた。

「ウィルバード様。承知しました。それでは、ガーデンに寄付します。

お待ちのレイナ様は、奥の個室でお待ちでございます。商人達が商談につかう部屋ですのでゆっくりお食事をお楽しみください」


「ありがとう。それでは、案内をよろしく」


ウエイトレスが先導してウィルバードを案内するために歩き出した。


コンコンコン

「お連れ様がいらっしゃいました」

ウィートレスは個室のドアを開けウィルバードを中に案内した。

そして、ウィルバードがこの食堂のお勧めを聞いて注文をとって部屋から下がった。


「レイナ先輩お待たせしました」


「いや、私も今きたところだ。女は身支度に時間が掛かるのだよ」


「ははは。元婚約者と母達も同じ事をよく言いますよ」


ウィルバードは笑っているがレイナは、首を傾げている。

「君の婚約者はアダルーシア嬢だったよな。学園内で理想のカップルとまで呼ばれていた君たちが婚約を解消したという事はお家の事情か?」


ウィルバードは無言になり難しい顔をしたため、レイナは気を遣うように

「申し訳ない。気に触ること行ってしまったみたいだ。今のことは、聞かなかったことにして」

「いいえ。初めて会った女性に話しをする内容ではないのですが…… 」

ウィルバードは、ベルティンブルグ皇家の内情など、話す事ができない事を上手く隠しながら、婚約の解消までの経緯を話した。


「それでは、まだ婚約の解消になっていないな。

しかも君とアダルーシア嬢との婚約の解消が決まっていないなら、ヒムラー家との婚約は成立しないではないか」


「実はそうなのですが、この件に関して今の家長である、母から僕に話しがなく、強くなって国内の剣術大会で優勝してアダルーシアを奪い取りなさい。 と言う流れになってしまっているので、僕はオッドリアで修行をするために旅立ったところです」


「君は修行の必要はないのではないか?」

ウィルバードは目を見開いた。母や使用人や婚約者でさえも、実力を隠していることがばれていないのに、今日合ったばかりの少女が自分の技量をわかっていることばを口にしたからである。


「それこそ、本来の技量を使って試合したなら、君と試合した者は、屍になっているぞ」


「せ、先輩はなぜ僕は実力を隠しいるのことが、わかったのですか?」


「私の姓は、バールィシニャだぞ。 君の祖先の方と一緒にこの大陸を治めようと戦った女勇者の子孫だ。

私はこの時代(魔法を使えなくなったと言われる時代)でも、勇者の末代として、剣の修行と魔法の修行をしている。

だから君が学園で手を抜いているのは手を取るようにわかったよ。なにせ私も実力を隠して学園に通っているからな」


「それじゃ。先程僕が助けなくても大丈夫だったのですね」


「いいや。私はか弱い淑女だから、助けてくれて良かったよ。

私が手を出していれば、首のない体が三体ある事になったからな」


ここで、先程のウエイトレスと、支配人が料理を運んできて夕食がはじまった。

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