第12話 エミリーアの家名

第12話 エミリーアの家名



「そ、それは――」

言いよどんだアダルハードを見て、すかさずエミリーアが口をはさんだ。


「ハウスビッシュ伯。先ずは私が説明たします」

エミリーアは、ここにいる全員を見渡した。

「先ずは、執事を含め全員人払いをしてください」


アダルハードは、ヤネルを除き使用人達全員がこの場からいなくなるよう指示を出した。

使用人達は、それぞれ頭を下げ退室した。


「話しは食事が終わってからと思っていましたが、今回の一番の被害者である、アダルーシアから説明が欲しいと要求があったため、食事は話しが終わってからにする。

 エミリーア様。申し訳ございませんが、説明をお願いいたします」


アダルハードとクラウディアは頭を下げた。


「今現在のハウスビッシュ家の状況は、すべて私、エミリーア=ライヒトゥームが、伯爵にお願いした為です」


「ラ、ライヒトゥーム、あ、エミリーア様は、あのライヒトゥーム出身ということでしょうか? もしかしてエミリーア様はあの小さかったエミリーアちゃん?」

ライヒトゥームの家名に何かを思い出したのであろう、クラウディアがいつもにもないくらいに大きな声をあげた。


「そうよ、クラウディア姉様。私は、ライヒトゥーム家直系の子孫ですわ」

エミリーアは、クラウディアを、婦人呼びから姉様呼びに変えた。これは過去の2人の仲を強調し、畏まらないでほしいという事なのだろう。

しかし

クラウディアは、驚いて息を吸った後、頭を低く下げたあと、淑女の礼をとった。

娘のアーニャ、ターニャそしてアダルーシアは、母が急に、跪礼(きれい)をしたため、驚いて固まってしまった。

 母が膝を床につけて礼をした。つまり、伯爵位上位にいるハウスビッシュ家よりも爵位が上である事の証明であるためだ。


 しばらく、アダルーシアは母をぼうっと見ていたが、ピクッと体を跳ねた後、母に続き、跪礼をした。

 双子も姉が膝を地に着けたため同じく膝を地に着けた。


「公式の場ではありません。膝をつけるのは大げさですわ。それに私とクラウディア姉様の仲ではないですか。

しかも、今回は私からお願いしているのです。そのような礼はいりませんわ。

各国の元首達が知っているとは言え、姉様が嫁いだハウスビッシュの名に泥を塗っているのは、私なのですから。

ですから、姉様をはじめお嬢様達も椅子に座ってください」

 ハウスビッシュ家の女性陣はエミリーアに促されて席に着き直した。

だが、三人の娘は全くエミリーアが、どういった者なのかわかっていない。


 そこで、アダルーシアは、手をあげて

「エミリーア様、お父様。発言よろしいでしょうか?」

エミリーアは、「はぁああ」とため息をした。

「ここは、あなたのお屋敷なのです。こんなに硬くなって話していたら、カチカチになってしまいます。

先程までと同じく気楽な感じで接して欲しいわ」


「エミリーア様。ライヒトゥーム家に対してそんな態度はとれません」

クラウディアは、頑なに上位の爵位をもつライヒトゥーム家に尊敬の念を崩したくないようだ。


「クラウディア姉様。昔のようにエミリーアちゃんかミリーアちゃんで読んで欲しいわ。

我が家は、魔導集中補充塔が動かなくなってから、たいした功績はありません。ライヒトゥーム家は、この地に於いて重大な役割をしてまいりましたが、私(わたくし)エミリーアは、一つの功績さえありません。

先の戦争で多大な功績を立てたアダルハード伯の方が、この地に於いて役に立っています。

ですから―― 」

 エミリーアは、そう言いかけたとき、アダルハードが、体が固まってしまい、口だけがパクパクしている事に気づいた。

 妻のクラウディアも、半分気を失っている旦那のアダルハードに気づき

「パーン!!!!」

手を合わせ大きな音を出した。


その音でやっとアダルハード意識は、こちらにやって来たのだろう。

アダルハードは、衣服の乱れを自分で整え

「私はエミリーア様が、そんな高貴な方だったとは存じませんでした――」


「アダルハード伯、礼はいらないわよ。もうこの件(くだり)は、女性陣で終わっているわ。しかも初見の時にしっかりと自己紹介しましたわ。気づいていなかったのかしら? あんたの妻の姉と同じ立場よ。気にしないで。

このままだと、話しが進まないのでちゃっちゃっと終わらしてディナーにするわよ」



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