第16話 トリシャのお屋敷
第16話 トリシャのお屋敷
エミリーアが、アダルーシアに聞いたことは、彼女、いいや、もしかしたらこの国や大陸の行き先を左右するほど影響のあるほどの事につながる。
アダルーシアの判断と行動が大陸の運命を左右する。
もちろんエミリーアの判断次第で、変わることもある。
アダルーシアの家族、ハウスビッシュ家全員で一つの馬車に乗り込んでいる。
また、正装をしたヤネルも別の馬車で移動している。
別の馬車で移動しているが、それは、使用人だから別の馬車で移動しているわけでなく、ハウスビッシュ家の侍女としてではなく、キルバサ子爵家の息女として、向かっているということだ。
その行き先は、ウィルバードの屋敷の家長である、トリシャに会うためである。
アダルーシア達がトリシャに会いに行くのは、昨日の夕方にハウスビッシュの屋敷に来て男子禁制の場所に現われた不届き者に対する話し。つまりヒムラー家が、ハウスビッシュ家に要望してきた、婚約の話についてだ。
馬車は、いつもアダルーシアが入門する裏口ではなく、表の門に向かった。表の門は、ウィルバードと婚約者であったアダルーシアにとって初めてと言っていいほどであった。
今日トリシャに会うのは、息子の婚約者としてではなく、正式にハウスビッシュ伯爵家としての訪問なのだ。
アダルーシアは、今朝エミリーアに聞かれた事をずっと考えていた。
馬車の中で、父、母、妹の声が全く耳に入っていなく、
「私は本当にウィルバードと結婚したいと思っているの?」
「本当に彼のことを好きなの?」
「何をおいてでも彼の事を最優先に行動できるの」
「本当に覚悟はあるの?」
そのような事をずっと呟いてここまで移動している。
アウグスタ=ヒムラーが気持ち悪くて、結婚したくないではなく、本当にウィルバードが、運命の人なのか自問自答しているようだ。
「シア。正門に着いたよ。考え事をするのも仕方ない立場だが、ここからは、気を張っていきなさい。
アダルーシアは、貴族の長女なのだからね」
そう言って父は長女の頭を軽く撫でた。
アダルーシアは、父が声をかけてきて頭を撫でたときに、貴族の令嬢としての顔に戻った。
恋に悩む少女の顔から、伯爵家令嬢として、ウィルバードの婚約者として貴族の令嬢としての仮面をかぶった。
だが、その仮面もすぐに外れることになった。
「ここは、本当にいつも通っているウィルバードのお屋敷なの?」
誰にも聞こえないくらいに小さな声で呟き、顔を動かさず、目の動きだけでお屋敷を見た。
ウィルバードの住む屋敷は、王国城よりも高い塀に囲まれ、敷地もものすごく広いことが、馬車の窓から外を見たときに気づいたのだ。
いつもは、裏門からトリシャ達家族が住む別邸に直接行っていたので、こんな城のように大きな建設物だと気づいていなかったようだ。
「うわ~大きいですわ。王城よりも大きく見えますわ」
「お姉様は、いつもこんな広大な所に来ていたのですね」
双子の妹は感嘆している。
実は一番驚いているのは、アダルーシアなのだが、驚きの声をみなに聞かせなくしているのは、クラウディアの教育が成功しているのだろう。
「シアお姉様。お姉様が結婚されても、ウィルバードお兄様が、我が家をお継ぎにならないのは、お兄様のお屋敷がこんなに大きな事と理由があるのですか?」
末っ子のターニャが首を傾げている。
「我が家と同じく伯爵を叙されているにしては、本当に大きなお屋敷ですね。
ウィル兄様のお父様が侯爵位でしたのでそれをお継ぎになられるのでしょうか?」
ターニャの双子の姉アーニャも首を傾げている。
妹達に質問されたが、約十年ウィルバードの住む屋敷に通っていたアダルーシアも屋敷が城のように広いのは、今日初めて知ったので答えられず口を閉ざしていた。
「アダルーシア。エミリーア様からの話には、トリシャ様のことはなかったのか?」
アダルハードは、長女の様子が少しおかしく感じたのか、このように聞いた。
「はい。私の権限では結婚相手を決めることが出来ないので、自分自身のことで恥ずかしいのですが、ウィルと結婚して、ベルティーナちゃんの手助けをするようにと言われたのですが、私がどの様な立場になるのか、ウィルがどの立場になるかは聞いていなかったのです」
「貴族の令嬢として、結婚相手が自分で決められないのは、仕方ないとしても、流されるだけだったのか?」
「はい。アーニャとターニャの双子の妹が出来た時に、私がハウスビッシュ家を継ぐことは無いことだろうと予測していましたので」
娘の言葉に家長は真顔で
「なるほど。確かにフーマ王国で貴族として、双子の息女がいた場合、双子に婿をとって養子縁組して家を継がせる事が多いからな」
「アダルーシア。学園や周りには『完璧(伯爵)令嬢』と呼ばれているかも知れませんが、少し勉強不足ね。ここに嫁いできた私も実は女伯爵位を叙爵していることを知っているかしら?」
3姉妹は揃って目を見開いた。双子だけでなく、アダルーシアも含めて驚く表情は全くと言ってもいいほどにそっくりだ。
「「「 勉強不足でした。知りませんでした 」」」
ハウスビッシュ伯爵家三人の娘とも頭を下げていた。
父と母は視線を互いに合わせた後、頭を抱えた。
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