第17話 宮殿から見えないお城

第17話 宮殿から見えないお城



 アダルーシア達女性陣は、父のエスコートで馬車から降りた。

この馬車はすでにアダルーシアの知っているトリシャ邸と全く違っていため、本当にウィルバードが住む屋敷なのか疑問をおぼえた。

「お父様」


「本当にここは、トリシャ様の屋敷なのか聞きたいのだろう」

アダルハードは、キョロキョロと辺りを見回している長女の疑問をわかっていたようだ。


「はい。私の知っているお屋敷はこんなに大きくありませんし、お城でもありません。まったく知らないところに来ているようです」


「我が娘ながら情けないわ」

クラウディアは、ため息をついてゆっくりと首を振った。


「クラウディア。そう言ってやるな。

この城のように広く大きな建物を気づかなかったのは、仕方ないのだ」


「仕方ないとはどういうことでしょうか?」


「この建物は、トリシャ様達が住んでいる屋敷の裏手にあり、その建物の裏側に回らないと見えない作りになっている。

今まで、アダルーシアが気づかなくても仕方ないかも知れないな」


「お父様。(アダルーシア)姉様は、ウィルバード様と婚約されて10年程経っていますし、そんなことありますの?」

 双子の姉アーニャは、疑問に思ったが、婚約とは、結婚の約束をすること。貴族の場合は女王陛下か王配殿下の承認を得ることで婚約が成立したことになるが、家族になったわけでも、婚姻関係になったわけでも無く、ただの他人だ」


「お父様。それでもシアお姉様が、これほどの大きな建物を今まで認識しなかったのは、シアお姉様がウィルバードお兄様にぞっこんであってまわりが見えない状態だとしても、あり得ないのではないでしょうか?」


「ターニャ。実際外面がよく令嬢の鏡みたいな評価を受けているアダルーシアでも、気づかないと言うことは、そういうことなのだよ」


「「そういうこととは、どの様なことなのですか?」」


「例え長男の婚約者でも、気づかれないような作りをしている。

トリシャ様にとってアダルーシアがこの建物を気づかなかったと言う事は、お家的に成功だという事だよ」


「あら。私は知っていましたわ」

ドヤ顔をしたクラウディアは、胸を張っている。


「クラウディアは、特別だろう?

しかもトリシャ様から家族にも秘密にしておくように言われているだろう」


「学園を卒業してから、ここで文官として働いていましたからね。

離れてみても森にしか見えませんからね。

それでも、アダルーシアは、ウィルバード様との婚約者ですからここのことは聞き出していて当然と思っていましたわ。

 シアは、もっと自分の事に関して流されないで、興味を持たないと駄目よ。

でも、流されて生きていると言うのは、ある意味ウィルバード様とお似合いなのかしら?」


「ぐう」

 アダルーシアは、母の責めに、ぐうの音しかでないのであった。


「私は、シアよりも倍以上生きているが、ここの建物があることは、エミリーア様から伺って初めて知ったのだから機密性はものすごく高いという事だよ

そして、ここが城と見られないようにしているのは、なにかの技術なのだろうね」


 ハウスビッシュ一家がこのように話しながら、城に入ったが、それまでに、エミリーアとヤネルと合流することなく、待機する部屋に案内された。


「お母様。トリシャ様とエミリーア様は、一体どのような立場なのですか?

私が、ウィルと結婚しても本当に大丈夫なのでしょうか?」


「あら、珍しく弱気ね。ウィルバード様との結婚を諦めて、ヒムラー家の次男に婿になってもらうのかしら?

我が家を継ぐのは、アーニャかターニャですけれどもね」

クラウディアは、ウィルバードと結婚しない限り、あの次男と結婚するしかないと軽い調子で脅した。

 これは、アダルーシアがウィルバードに、本気になりなさいとか、もっと責任感ある男になってと、違う言葉で威圧しているが、あなたはこのお城をみて弱気になるのなら誰と結婚しても同じ、もっと覚悟を決めなさいと遠回しに言ったのである。

 母の気持ちは娘に少しでも伝わったのだろうか。アダルーシアの視線は下を向いていたのだが、胸を張って真っ直ぐ正面を見るようになった。

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