ウィルバード 気持ち
第1話 揺れ動く感情
第1話 揺れ動く感情
「ウィルバード=オッドリア!
貴様とアダルーシア=ハウスビッシュとの婚約は破棄する。
そして俺はアダルーシアと結婚して俺は伯爵家当主となる。
お前は、継承権はなかったな!これでお前は平民確定だ!
ブヒヒヒヒ」
ウィルバードは、口をあんぐりと開けた。
なぜ、ハウスビッシュ家からではなく、みなから好かれていない同学年のアウグスタ=ヒムラーから、アダルーシアとの婚約破棄を宣言されているのか、ウィルバードだけでなく、他の者でもこの自体には、思想が追いつくことはないだろう。
時は数日前、場所は学園の剣術大会にさかのぼる。
学園それは、フーマ王国 国立学園。ベルティンブルグ領に人間が出入り出来ない今、大陸で一番の教育施設である。
この学び舎には、使われなくなった校舎が未だにある。
その使われなくなった校舎近くに剣技場があり、剣、槍など武器を使用する技術大会が開催されている。
「とりゃー」 ブーン
「えーい」 ガッキ
「そこだー!」
対戦相手が木剣を振ってきたが、ウィルバードは、いとも簡単に受け流した。
ウィルバードは、余裕からか乱れた自身の髪型を直したり、対戦相手を挑発している。対戦相手が、息が切れて動きが遅くなったのを見計らって、相手の動きを確かめながら、わざと隙を作りそこに木剣がくるように誘導した。
必死に剣を振う相手は
「隙あり!」と叫んだが、緑に輝く瞳の少年は、さらさらの髪をゆらし、木剣を相手の首に触れる手前でピタッと止めた。
「勝者、ウィルバード」
ワー ワー ワー
キャーキャー
「ウィルバード様は、お強いのね」
「やはり、優勝はウィルバードか」
女性陣がウィルバードを賞賛して黄色い声をあげている。
ウィルバードは、背の高さは標準より少し高い程度で引き締まった体は、筋肉が好きな女子からの評価が高い。ブロンドの髪を揺らしながら作る笑顔は、乙女達の評価が高い。
学園のみながウィルバードを賞賛する中、そうでない者もいるようだ。それは、準々決勝でウィルバードに負けたアウグスタである。
「今は、優勝の余韻に浸っていれば良いブヒ。
数日後には、天国から地獄は落ちるのだブヒ。
それに、ウィルバードの弱点は今回戦って、はっきりとわかった。
奴の剣には意志がない。技だけのお遊びだブヒ。
王国の剣術大会は、ぼくちんがウィルバードに勝って優勝できるブヒ。
首を洗って待ってろブヒヒヒヒ」
アウグスタ=ヒムラー ヒムラー男爵の次男である。長男が男爵を継承するのが決まっている。爵位を継ぐことができない、アウグスタは自分が剣の腕があるため、それをいかして王国の軍に入隊を考えていた。
しかし、隣国から来たルークティス伯爵がヒムラー邸に来たことで大逆転して伯爵位を継承できそうなのである。
その条件は、金と力になると踏んでいる。力とは剣技のことだ。
そのため、アウグスタは、学園内の剣術大会では、実力を隠し敵となるウィルバードの剣の実力がどのくらいあるか試したのだ。
「数日後、ウィルバードが、どんな顔するか楽しみだブヒヒヒヒ」
そう言って、アウグスタは帰路についた。
優勝したウィルバードは、愛想笑いをしながら、みんなの歓声に応え手を振りながら、婚約者のアダルーシアの座る優勝者の為の指定席に向かった。
アダルーシアは、ウィルバードの肩に届くほどの身長で、女性の憧れとも言えるスラリとしたスタイルで女性らしい丸みもある。
男子学生にとっては、高嶺の花。アイドルと言った方がわかりやすいだろう。
そして、彼女は女性にも好かれる優等生だ。猫を名十匹もかぶっているのは、家族と使用人だけが知っている。
女性の部で優勝を果たしていたアダルーシアの美しい瞳には、黙っていれば、格好良い容姿の少年が写っている。
しかし、その少年はニヤけてだらしない表情である。
イケメン台無しだ。
近づくウィルバードにアダルーシアは、容赦なく自分の意見を放った。
「ウィル。私は、相手との力の差があっても、全力で戦って欲しいと申し上げました」
アダルーシアは、美しい顔が台無しになるくらいに眉間に皺を寄せて、ウィルバードを避難した。
「いいや、今の一戦は、体力を使うことなく、コスパの良い戦いだったはずだよ。
どちらにしても、シアと同じく優勝したのだから問題は無いだろう?」
ウィルバードは、肩をすくめた。
アダルーシアは、婚約者のウィルバードに真剣な眼差しをして
「あなたの剣には真剣さがないの。ウィルは器用なので何もかも簡単にできるから、何もかも遊びだと思っているようですわ」
ウィルバードは、能力は生まれ持った才能なのか人並み外れている。剣も勉学も努力無しに、どんなことでも出来てしまう。
ウィルバードの婚約者であるアダルーシアは、彼の欠点になり得ることを、学生のうちになくそうと何度も彼に言い聞かせていたのだ。
今日も剣術大会では、真剣になって欲しいとお願いをしていたのだ。
アダルーシアからみて、今日もウィルバードが本気をだしていないと判断した為の態度であろう。
「アダルーシア、僕は真剣に剣技を行なったよ。なぜ君がそこまで怒っているのか、僕には全くわからないよ」
「ウィル。そんな態度では、いつか大切なものを失うことになります」
アダルーシアは、瞳に影を残し立ち上がった。
アダルーシアはもう一度ウィルバードを見て
「あなたには、本当に大切なものがあるのかしら?」
そしてアダルーシアは、踵を返し
「ウィル。真剣に打ち込むことができない今のままでは、私達の明るいはずの将来が真っ暗になってしまうの。いいえ、今の生活させも悪い方にげきへんしてしまうの」
ウィルバードに聞こえない程度の声量で呟き、この場から去ってしまった。
アダルーシアは、目を赤くし潤ませていたが、それに気づいたのは、付き従っていた学園内で侍女を務めるエミリーだけだった。
「シア。何故そんなに怒っているんだよ。
僕には、君の気持ちはわからないよ。婚約者なんだからちゃんと教えてくれよ!」
ウィルバードの声はアダルーシアには届かなかった。
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