第10話 似たもの母娘

第10話 似たもの母娘



「アダルーシア遅いぞ」

アダルーシアは、食堂に入ると父から叱咤された。

 

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 アダルーシアの父アダルハードは、背が高く、筋肉ムキムキではなく、スリムマッチョである。先の他国からの侵略時に見事武功をあげ、近々伯爵位から侯爵に叙爵される予定である。

 連邦の英雄であり、貴族の間で耳目を集めている。注目を集めているという事は、悪い者にも目をつけられてしまう。

 アダルハードは、武功を立てたが、決して脳筋ではない。オーク親子(ヒムラー)の言う事通りにしているのは、彼なりの思惑があったと思える。

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アダルーシアは、先に席に着いているエミリーアに、目線で挨拶した。

「お父様、女は仕度に時間がかかるのですよ。大きな声を出すのはおよしなってください」

アダルーシアは、何事もなかったように席に着く。


「シア。私を待たすのはかまわないが、エミリーア様がいらっしゃるのだぞ、

待たせすぎだ」

 アダルーシアは、ペロリと舌を出した。

ママの味のキャンディのキャラクターのように。


「親子喧嘩はそのくらいしてください。それで、ハウスビッシュ伯、あのおぞましい親子とは、どの様になったのかしら?」


「エミリーア様、申し訳ございません。妻が来るまで少々お待ちください」


「そうね。今日は、夫人も一緒だったわね。

アーニャ嬢とターニャ嬢は一緒でなくても良いのかしら?

折角ですから、ご家族全員で話した方が良いのではないかしら?」


エミリーアが話していると ガチャッとドアが開いた。


「遅いぞ、クラウディア」


「あら、あなた。女は仕度に時間がかかるのですよ。大きな声を出すのはおよしください」


どこかで聞いた台詞だ。

クラウディアは、子供が三人もいるとは思えないほどの容姿で、濡れた烏のような黒髪と黒い瞳。視線が彼女に吸い込まれと感じるほどに存在感がある。

クラウディアの後にもう二人ほど食堂に入ってきた、双子のアーニャとターニャだ。

アーニャとターニャは、アダルーシアを幼くした容姿に、アーニャはアダルハードの瞳の色とクラウディアの髪色を引き継ぎ、ターニャはクラウディアの瞳の色とアダルハードの瞳の色を受け継いでいる。顔に幼さが残る二人は美少女である。


「「お父様。ここは、剣の練習場ではありません。大きな声を出さなくても、聞こえるのでもっと声を小さくしてください。大きな声は下品ですわ」」

双子は声を揃えて父親を非難した。

「「エミリーア様遅くなって申し訳ございません。父は母と姉だけを呼んだのですが、夕刻に動物の鳴声が屋敷内から聞こえたので気になってしまって。

二人の同席をお許しください」

双子は深々と頭を下げた。


「あら、アーニャもターニャも一緒に来たのね。いいわよ」

エミリーアは、アダルハードの方に体を向けた。

「これで、ハウスビッシュ家が揃ったわね。

あの者達の話しを聞くわ。説明してアダルハード伯」


アダルハードは、咳払いをして、長女のアダルーシアを見た。


「奴ら、ヒムラー男爵は、我が家の借金を全て払う。その見返りとしてアダルーシアと次男の息子の婚約だそうだ」


「あら?無い借金を代わりに払うってどうするのかしら?」


アダルハートは笑いながら、クラウディアに

「我が家は、金貨一千万枚の借金があるそうだ」

アダルハードは、他に持っていた、丸く輝く水晶のような物を食卓の上に広げた。


笑うアダルハードを家族は目を丸くしていたが、ハウスビッシュ一家よりも驚いた人がいた。それは、エミリーアだ。


 エミリーアは、目を一瞬見開いた後、頭を引いた。

身体をぴょんと跳びはねるようにアダルハードに近づいていった。

「ア、アダルハード伯。そ、そ、その丸い石を私に見せてください」

エミリーアは、丸い石を手に持った。

じっと見つめた後、使用人に水を持ってくるように命令した。


「え? エミリーア様。この石って?」


「シア、これはただの石じゃないかも知れないわ」

そう言ってエミリーアは、テーブルを囲む者達を見て、ニヤリと口角を上げた。




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