アダルーシア 決意
第7話 アダルーシアと侍女
第7話 アダルーシアと侍女
「ウィル。そんな態度では、いつか大切なものを失うことになります」
アダルーシアは、婚約者に告げて、剣術大会女性の部の表彰式に参加せず、帰宅するために馬車に乗った。
この時には、頬を涙で濡らしていた。
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アダルーシアのハウスビッシュ伯爵家には、息女がふたり。
つまり通常だと、継承者はアダルーシア本人か、婿を迎え父と養子縁組して婿が伯爵位を継ぐ。
フーマ王国では、女性が爵位を継ぐことが多い。優秀な娘だと間違いなく、優秀な血を引き継ぎ、優秀な婿を迎えるとこでより優秀な後継者が生まれる可能性が高くなると言う考え方だ。
それは昔々ベルティンブルグから二人の女性が国のトップとそれに準ずる地位に就いたことからだ。
姉は絶対的な魔力量を誇り、この大陸の生活水準をものすごく高めたのである。そしてその妹は、人間・魔物・精霊など全ての種族に愛され、姉を生涯助けた。
また、聖なる湖の国に生まれ精霊女王エルフから認められ大きな結界をはり、国を守り、自ら世直しの旅に出た者も女子。
その女子も、すごく優秀で初代女帝と次代女帝を助けたのであった。
魔法があった時代、この三人ともう一人の女性が中心になりこの連邦の土台を作ったのである。
なお、結界を張り、国を守った女性は、政に興味は無く、絶対的な魔力を持つ女性を初代連邦の女帝に据え自分は気楽に世直しの旅に出たのである。
そして、この者達の継承は女系と決まっている。
ここで、この国の説明をする。
この連邦とは、国(州)や自治体の集合体である。国は人間が治めるが、その国をまとめるのが神であると言う考えである。
つまり、連邦とは、ベルティンブルグ連邦公共和王国。長いので連邦と称される。連邦は八の自治区がある。そのうち四つが王国、一つが大公国、残りが共和国であり、この八つの国を女帝がまとめることになっている。
各自治区に治者がきちんといるが、それぞれの文化や歴史のため統一することが難しく、国(自治区)の上に神(皇)をおいた。
各国の調整を皇帝(女帝)がする絶対権力者である。
今の世の中で言えば、欧州連合に所属する国の上に絶対権力者がいると言う感じだ。
因みに初代は、姉が即位し二代目が妹だった。
なお、ハウスビッシュ家の祖先はこの者達と親戚関係であった。
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「ふぅ」
馬車に乗ったアダルーシアは、深くため息をついた。
「シア。馬車に乗っていきなりため息って、幸せが逃げるわよ」
メイド服を着た、プラチナブロンドにこの世界では珍しい黒い瞳。そして究極的な女性を象徴する体のラインを持つ侍女は、主人様の子女にたやすく声をかける。
「申し訳ございません。エミリーア様。
でも、ウィルバードにキツいことを言わなくてはならなくなったのは、貴女様の企みのせいですよ」
「あら、良いじゃないの。これが上手くいけば、ウィルバードも精神が成長して見た目だけでなく、素晴らしい男性に成長するわよ。涙するくらい彼がすきなのよね?」
馬車がゆっくり動き出すと、アダルーシアは車窓から外を見ていたが、視線をエミリーアに向けた。
「な、何をおしゃっているのです。私と彼は許婚なだけで、好きとか嫌いとかはありません」
アダルーシアは、あたふたしていたが、エミリーアが突っ込んでくることが無かったのかすぐに冷静になった。
「剣に対してのウィルのトラウマは聞いているけれども、あの剣技は女である私から見てもお遊戯でしたわ。
私は、ウィルの妻となるのは必然なのだから、今のままでは駄目なので、欠点を言って改善を促しましたが、ウィルは相も変わらず真剣味のない試合でした。
本当は優勝したウィルを褒めてあげたかったのですが、彼の成長の為にも心を鬼にして、きつくあたりました」
アダルーシアは、長い台詞の後、再び深いため息をついた。
「だから、シア。ため息は幸せが逃げるわよ」
エミリーアは、アダルーシアを軽く抱きしめた。
「お帰りなさいませ。エミリーア様 お嬢様」
使用人達がアダルーシア達の帰りを出迎えていた。
アダルーシアは、いつものように笑顔で使用人に接して、そのまま自室に入った。
自室のカーテンは女性らしく暖色系の色のカーテンと、ベッドを囲む天蓋は、純白。だが、そこには女性らしくない物が鎮座している。
アダルーシアは、自分の一番のお気に入りの剣を掴み、鞘から抜いた。
「アダルーシア。剣のお手入れは、着替えが終わってからにしたら。使用人を呼ぶわよ」
「そうですね。ですけど、嫌なことがあると剣を磨きたくなるのです」
「わったわよ。剣を磨くのは、着替えの後ね。使用人に話しておくわ」
エミリーアは、そう言ってアダルーシアの部屋から姿を消した。
しばらくすると、本当のアダルーシア付きの使用人がきた。
「アダルーシアさま。学園で何かありましたか? 剣術の試合で良い結果にならなかったのでしょうか?」
普通、貴族の若い女性の悩みは、恋愛と決まっているようなものだが、アダルーシアは、双子の妹達と違って、恋愛よりも剣を好むという思考である。
ウィルバードと言う婚約者がいるとは言え、令嬢としてはちょっと、いいやかなり残念なお嬢様だ。
「いいえ。大会は優勝しましたよ」
アダルーシアは、目をこすりながら答えた。
「それでは、何かお悩みになっているようですが、どのような内容なのでしょうか?」
「さすがね。どの様にすれば、気が変わるかと言うか、気づいて貰えるというか」
「アダルーシア様いけません。貴女様には、ウィルバード様がいらっしゃいます。
私が言うのはおこがましいですが、容姿も頭の出来もとても良いと見受けられます。ちょっと考えが幼いところがありますが、それはお嬢様のサポートでお似合いのカップル、いいえお似合いの夫婦になると思います」
アダルーシア付きのヤネルは鼻の穴を膨らませ、顔を真っ赤にして、アダルーシアに近づいて力説した。
「アダルーシア様がいらないなら私がもらいます」
ヤネルはテレテレしている。そんなに恥ずかしいなら言わなければ良いと思うのだが。
「近いわヤネル」
アダルーシアは、興奮して近寄ってくる侍女を窘めた。
「アダルーシア様が婚約者の他に好きな男性ができたとおっしゃるので感情が出てしました」
「え!? なにを誤解しているの。気が変わって欲しいのは、あなたの言う甘ちゃん坊やよ」
「も、申し訳ございません」
ヤネルは、頭が脚につくほど、深く下げた。
コンコンコン
「お嬢様。少しお時間よろしいでしょうか?」
二人の会話を遮ったのは、普段はここに来ることのない男性の声だった。
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エミリーに対して物語で上手く説明できていないため、ここで説明です。
本名は、エミリーア=ライヒトゥームです。貴族です。
訳あって、ハウスビッシュ家の長女アダルーシアの侍女(学園にいる時だけ)をしています。
アダルーシアは、学園や友人の前では、エミリーとよびます。
二人きりの時や、邸では、エミリーア(様)と呼んでいます。
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