第8話 ブヒブヒの親子襲来

第8話 ブヒブヒの親子襲来



コンコンコン


「お嬢様。少しお時間よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

アダルーシアは、侍女との会話を辞めてすぐに返事をした。


執事のミヒャエルが扉を開けてきた。侍女モードに入ったエミリーも一緒だ。


「お嬢様。お帰りなったばかりのタイミングで申し訳ございません。

実は、先程来客がございまして」


「私もその場に行けと言う事かしら?」


「いいえ。旦那様は、この部屋から出て、違う部屋に身を隠すようにと」


「あら、お客様は女性の方かしら?」


「いいえ。男性なのですが、通常の貴族として品位に欠けると申しますか、非常識なお方なので、この屋敷の男性でも中々入る事のできないこの場に侵入する可能性があると旦那様が言われまして」


「わかりました。そのような乱暴な輩がお嬢様に危害を与えることが考えられるのですね」

 そして、エミリーは、ミヒャエルの返事の前にアダルーシアの手を取り、さっと部屋を出て隣の自分の部屋に連れて行ったのだ。

 バタンとドアを閉めた途端に先程までいたアダルーシアの部屋の方が騒がしくなった。


「きゃー。おとこ、男が――」

「何故ここにオークが二頭もいるの!」

「へんたーい!」

女性の騒ぐ声が一段落したところで、バタンとドアが開く音が聞こえた。

 エミリーは、アダルーシアを自身のクローゼットに隠して、廊下から聞こえる音に耳をすました。

「ブヒ。ぼくちんの嫁さんはここにいるのかな~ブヒ」

「ブフォ。オラの義娘ちゃわぁん。ここブォ」


エミリーは廊下から聞こえてくる哺乳類の声があまりにも気持ち悪かったので、軽く目眩がしたのか、頭を振っている。

そして、ハッと気づいたように奧にいるクローゼットに視線を向けた。

すると、アダルーシアが寝息をたてて部屋の中に倒れながら出てきた。


 「試合で疲れたのね。 それにしても、クローゼットの中で眠ってしまうとは、お仕置きで暗いところに閉じ込められて疲れて眠ってしまう子供ですか?

本当に緊張感のない……」


エミリーが寝息を立てて眠るアダルーシアを見て、そんな事を呟いていると進化前のホモサピエンス雄二匹の鳴く声が聞こえた。


「い、いないブヒ。俺の女がいないブヒ。せっかく尻撫でようと思ってたブヒ」

「せっかくひんむいて、裸にして子供がきちんと産めるかと確かめようと思ってたブフォ」


 二頭の進化前のホモサピエンスの声を聞いて、エミリーは焦った。

もし、ここに来たらアダルーシアを見つけられてしまう。

しかも、執事長とハウスビッシュ一家しか男性は立ち入ることができない所に、ブヒとかブフォと鳴きながら入ってくる輩だ。アダルーシアが見つかったら、セクハラだけですまなく、R18指定の事までするのかも知れない。


「もし、ここに入って来てもパッと見てもわからないようにしないと」

エミリーは慌てて、床で眠るアダルーシアがドアの方から見てもわからないように、衣服や姿見の鏡を移動した。


ガチャ

「ヤバい。ドアを開けられた」

思わず声に出してしまい。口を手で押さえた。

そしてエミリーは、心臓が飛び跳ねたと感じるほど心拍数が上がった。

どうせドキドキするならば、イケメンを見てドキドキしたかったと思ったのは、ここだけの秘密だ。

エミリーは、ドアの前の方に歩いて少しでも部屋の中を見えないように、自身の体で死角をつくった。

「エミリーここには、ヒムラー様に嫁ぐ方は、いないわよね」

ドアを開けたのは、メイド長のモニカだった。

 モニカは、エミリーとアイコンタクトした。

 エミリーはニッコリと笑いつつも視線でアダルーシアの場所を教えた。

「あれ?珍しいですね。メイド長がわざわざ私の部屋に訪れるなんて。

ご覧になってわかる通りここには、私しかいません。

お嬢様に何かあったのですか?」

 エミリーには、メイド長の後ろから覗くオーク親子が見えている。

心臓はかなりスピードを上げ、背中には汗が流れているのがわかる。

「休憩中にごめんなさいね。お嬢様は剣技大会で優勝してその祝賀会で学友と外に出ていると答えても信じて頂けなくて」

「まさか。屋敷の人間がいないと言っているのに、確認だとか言って男性が入ってはいけない場所に来ているわけではないですよね」

「そうなのよ。私達使用人一同みんなここには、お部屋には居ないって言っているのに」

「そうですか。お嬢様にどの様な用事があるかわかりませんが、この場所は例え王配殿下でさえも男性は立ち入ることが出来ません。

アダルーシア様は、王子のデットリック様と親睦が深いので、近衛兵にお願いして取り締まってもらいましょう」

エミリーはそう言って部屋から出た。

二頭のオーク。気持ち悪いホモサピエンスに睨みをきかせた。

二頭のホモサピエンスは、睨むエミリーを見て父親の方が固まった。

息子はブヒブヒ言っていたが、父親は青い顔をして、息子を引きずって二人で外に出て行った。


二頭のホモサピエンスが去るのをみて、エミリーは

「今夜でも、話を伺いますから、アダルハート伯に食事を一緒にしようと伝えて。

あと、アダルーシアを自分のベッドに寝かせておいて」


 エミリーは、屋敷から出て馬車でこの場から離れた。

それを、執事長のミヒャエル、メイド長のモニカも含め使用人達はエミリーの乗る馬車を見送った。

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