第4話 ハウスビッシュの屋敷
第4話 ハウスビッシュの屋敷
アダルーシアの学園の欠席がとうとう四日になってしまった。
学園が終わるとウィルバードは、自宅に帰る前に、アダルーシアのお屋敷に馬車を向かわせた。
さすがにこれだけ婚約者が休むと、心配して不安が積もって行ったのである。
ウィルバードは、屋敷の前で馬車から降り、門番に声をかけた。
「オッドリア家のウィルバードだ。
先触れを出していないが、アダルーシアが心配になり、様子をうかがいに来た」
「ウィルバード様ですか。
申し訳ございません。執事のミヒャエルより、お嬢様の事は話してはいけないと言いつけられております。申し訳ございません」
門番は深々と頭を下げた。
「いや。しかし僕は彼女の婚約者だ。アダルーシアの様子を見てもかまわないだろう」
ウィルバードは、門番がアダルーシアと合うこと、アダルーシアがどんな状態かも聞き出せないため、何度も門番に聞いた。
「ウィルバード様」
そのとき、屋敷より紳士が声をかけた。
この家の執事長のミヒャエルだった。
「ミヒャエル。どうして、アダルーシアに会うことができなく、そしてアダルーシアの現状も教えてくれないのだ」
「ウィルバード様。大変申し訳ございません。
お館さまより、ウィルバード様にはお嬢様の事を一切話さぬようにと命を受けています。
ここでどんなに騒いでも、ここに務めている者は、貴方様にお話しすることが出来ないのです」
ミヒャエルは深々と頭を下げた。
その目元は、汗でない水分で濡れていた。
ウィルバードは、いつもはにこやかに対応してくれるミヒャエルが、相手にしてくれなかったことでよほどの事があるのだと察したように、踵を返した。
「すまん。迷惑をかけた」
ウィルバードは、そう告げ馬車に乗ろうとしたとき
「なぜ。もっと早く来て頂けなかったのですか?」
ミヒャエルは、ぼそっとアダルーシアが一番信頼するウィルバードに呟いた。
ウィルバードは、ミヒャエルの言葉を聞き取れなかったのか馬車に乗り、御者に屋敷に帰るように指示を出した。
「なぜ、僕は、ミヒャエルが言った通り、すぐにシアに会いに来なかったのだろう」
ウィルバードのつぶやきは、馬の蹄の音にかき消されていた。
「兄様。今日は帰りが遅かったですね。
母様がお呼びです。私と執務室に行きましょう」
ウィルバードの住む屋敷は、公爵の屋敷よりも敷地が広く、王族の住む、宮廷や城よりもセキュリティーが厳しい。
母のトリシャは、フーマ王国では、個人で伯爵位を承っている。
そして、この伯爵位はウィルバードの妹のベルティ―ナが継ぐ予定である。
なぜかこの伯爵位は代々女性が引き継いでいる。
そういう引き継ぎを何代にわたって継承している。
「ティーナ。母様はどの様な話しがあるのだろう」
いつもは、とても明るく活発なベルティーナだが、今はとても真剣な顔をしている。いつもなら、兄妹で、じゃらけあうのだが。
「内容はわかっていますが、私からは、申し上げる事は出来ません」
そして、長い廊下を二人で歩いているが、今日の妹は言葉も硬い。
ウィルバードは、妹の言葉の硬さに緊張を覚えてきたようだ。
手と脚が左右一緒になっている。
そんな緊張している兄をみて妹は
「兄様。母様のお話ですが、お覚悟して聞いてください。
私は、兄様みたいな身内を持って悲しくなっています」
ウィルは妹の冷たい言葉に息をのんだ。
自分の心の体制を少しでも立て直そうとしたのか、一度咳払いをした。
トントントン
「母様。兄様を連れて参りました。入ってもよろしいでしょうか?」
「わかりました。すぐに入って」
ウィルバードがドアを開けて先に入り、ベルティーナが後から入りドアを閉めた。
「ウィルバード。今日は帰りが遅かったわね。
帰って来るのを、ティーナと首を長くして待っていたわよ」
「母様。遅くなってすみません。
ハウスビッシュ家に寄ってアダルーシアの様子を聞きに行っていました」
息子の言葉でトリシャは、眉をひそめる。
「会うどころか、アダルーシアの様子も聞けなかったのではなくて?」
トリシャは、執務室の椅子に座ったまま息子を睨んだ。
「は、はい。その通りです」
ウィルバードは、母トリシャの圧に負けて視線を下げた。
「兄様。今日になってやっとシア姉様のところに……
遅すぎですわ」
妹のベルティーナは、「はぁ」と大きくため息をしたのち呟く
「遅すぎるってティーナ ―― 」
妹にため息をつかれたウィルバードは、自身の自尊心を守ろうと話しかけたが、妹のベルティーナはそれを遮った。
「兄様の駄目なところです。与えられた事をこなすだけじゃなくて、もっと自ら率先して動かないと大事な何かを失うことになってしまいますよ」
ウィルバードは、心当たりがあるのであろう。
「大事な…… 失う……」 と身体を丸くして呟いている。
「ウィルバードは、長男のせいなのかしら。
本当におっとりしているというか覇気がないというか」
背を丸める息子をみて、トリシャも「はぁ」 とため息をついた。
そんな、母を見てベルティーナは、母に向かって
「母様。私から兄様に話しても良いですか?」
トリシャは、娘の提案に、満面の営業スマイルをしてうなずいた。
「兄様。先日、学園の剣術大会で優勝されたようですね。
でも、シア姉様と口喧嘩されたそうですね」
ベルティーナの声はいつもよりかなり低い。
「いや、口喧嘩という程じゃないよ。僕が真剣に剣術をしているのに、シアは遊びの延長だって言うのだよね。
僕は真剣にやっているから優勝できたのに」
自分のなにが悪いのか、わかないのだろう。ウィルバードは肩をすくめた。
「なるほど。やはりわかっていないようですね」
ベルティーナは、兄は、器用で何に対してもすぐに出来てしまう天才肌の欠点をつき、気づいてもらうため、母トリシャと話した内容を続けて提案する。
「兄様。私と母様と剣の試合をしてください」
ベルティーナは、お兄ちゃん何処かに遊びに行こう位のノリだった。
「えええええええ!」
ウィルバードの驚きの声は母の執務室にこだまのように響いていた。
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