第17話 迫りくる危険の序章2 ※オルランド司教視点
女性使用人はキャピレット公爵夫人の侍女の一人で、ジュリエットが公爵夫人の部屋を訪ねた場にいたらしい。
「オルランド様が奥様の目を治してくださるようになって、ずいぶん経つでしょう。最近、奥様の目は正常な人とほとんど変わらないくらい見えるようになって。それでも、目で何かを見るのが、久しぶりではあるから、長い時間を目で何かを見るのは疲れるらしくて、いつものように目を隠して暮らされることが多いのだけれど。先日、お嬢様が部屋を訪ねてらした時に、お嬢様を生まれてから十七年振りに御覧になられて。奥様はお嬢様を見てずいぶん泣いてらしたわ。私たちも、もらい泣きしてしまいました」
「今まで会話している間も、愛する娘を見ることができなかったのですから。公爵夫人はさぞお喜びでしょう」
「はい。お嬢様と嬉しそうに話されていたのですが、急に奥様が言ったのです。『目が青緑色じゃない』と」
「それは、どういう意味ですか?」
「分かりません。お嬢様の腰に六枚羽の印はあるかとも聞かれていました」
「……六枚羽?」
「はい。お嬢様には痣の類はないはずなので、何の話か分からないのですが、奥様は青い顔をして、お嬢様以外の部屋の中にいる使用人を部屋の外へ出されました。ですので、その後、奥様とお嬢様がどんな話をされたのかは分かりません」
六枚羽の印と聞き、オルランドはすぐにピンときた。皇族の血族に『女神マリデンの寵児の印』を持つものが時々生まれる。公爵夫人は娘が生まれた時、それを見ているのだろう。しかし、それをジュリエットにあるかと聞いた。しかも、侍女の話では、ジュリエットには痣の類はないという。
これは何を意味するのか。
そういえば、双子の皇女は、そろって両親の家で娘を産んだと聞いた。生き残りは、姉皇女と娘二人。姉皇女と娘の一人はキャピレット公爵家へ戻り、もう一人の娘はモンタール公爵家へ戻ったとも。
公爵夫人がジュリエットの目の色に困惑したことや、六枚羽のことを聞いたことは、もしかしたら、娘が交換された? と推測することはできるが、今重要なのはそこではない。
六枚羽の印を持つ娘がいるなら、オルランドが欲しいのはその娘だ。ジュリエットには印がないのなら、あるのはモンタール公爵家の娘ディアナ。オルランドはジュリエットよりディアナを国へ持ち帰る方向に変更することに決めた。
正直、この情報がなくとも、ジュリエットを連れ帰ることは少し躊躇していたのだ。
ここ半年、ジュリエットの情報を得る中で、いろいろなことが分かった。
公爵夫人の目が悪く歩けないことで、ジュリエットの世話は乳母が行っている。公爵夫妻とジュリエットの仲は良好のようだが、乳母の世話が悪いのか、ジュリエットはわがままで傲慢で思い込みの激しい子に育っていた。
気に入らないと使用人に当たるのは普段からで、近しい年齢の貴族令嬢とも折り合いが悪く、喧嘩もするので友人がいない。乳母が可愛がり過ぎたのかもしれないが、公爵夫妻もジュリエットを溺愛しているので、わがままは簡単に叶えてしまうし、ジュリエットの起こす問題も公爵が揉みつぶしてしまうから、ジュリエット自身がそれを問題認識してもいない。
ジュリエットのような娘を恋に落とすのはオルランドの得意とするところだが、わがままや傲慢は簡単には治らない。癇癪なんて面倒なことをされたら、いくらオルランドでも殴ってしまいそうだ。それでは、例え帝国に連れ帰っても、ジュリエットを傀儡として操るのがめんどくさい。
しかし、ジュリエットが皇帝の血筋である以上、必要でもあるから、帝国に帰った後は薬漬けにするか洗脳するか、決めかねていたところだったのだ。
しかし、六枚羽の印を持つであろうディアナがいるなら、話は変わってくる。同じ皇帝の血筋でも、女神メリデンの寵児であるなら、天と地ほど差があるのだから。間違いなく聖物は復活するであろうし、オルランドも次期教皇になれるだろう。六枚羽の印があるのなら、ディアナは神聖力も使えると思われる。
計画変更だ。ディアナを連れ帰るために、新しく計画を練る必要がある。まずは、ディアナの情報を得て、ディアナと接触しなければならない。
オルランドはニヤっと笑みを浮かべるのだった。
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