第3話 幼い兄がカッコいい件
ロミオと一緒に勉強したり、三食の食事を一緒にしたり、おやつも一緒にしたりと、ここ数日、ロミオと一緒に過ごす時間は増えた。まあ、ほとんどしゃべっているのはディアナであるけれど、いいのだ。
重要なのは、ロミオとできるだけ一緒に過ごして、妹ディアナは可愛い、大事にしたい、家族っていいね、と思ってもらえるようになれればいいのだから。そして、最終的に実妹ジュリエット以外の素敵な女性を紹介してあげたい。
今日も講義室で勉強するものだと思っていたディアナは、講義室へ向かっていると、ロミオの部屋からロミオが出てくるのを発見した。
「お兄様ー!」
たたたとロミオのところまで走り、首を傾げた。ロミオがいつもと違う恰好をしていたのだ。いつもより軽装で、フード付きローブを羽織っている。
「お兄様、どこかに行くの?」
「魔法の訓練場」
「そうなんだ! 私も行く!」
「駄目だ」
「どうして!?」
廊下を歩きだしたロミオについて行く。
「ディアナはまだ魔法は使えないだろう。いても暇なだけだ。勉強とは違う」
「えっ! 暇じゃないよ! お兄様の格好いいところを見学したい!」
魔法は五歳にならないと訓練してはいけない。だから四歳のディアナでは「まだ魔法は使えない」とロミオは言うのだろう。五歳になると魔力検査があり、それから自分の魔法属性に合った訓練をしたりしなかったり。人によっては、魔力があっても訓練はしない人もいる。
ちなみに、ディアナには魔力がない。だから一生魔法の訓練をすることはない。五歳になる来年に知ることになるが、今は知らないフリしてもいいはず。
「ディアナがいても、俺は相手できないんだぞ。隣で勉強するのとは訳が違うんだ」
「静かに大人しく椅子に座って見学する! ね、お願い、お兄様! 私も連れてって!」
溜め息を吐いて、ロミオは振り返った。
「その恰好で行く気? 外は寒いよ。だから今日は諦めて。今度連れて行ってあげるから」
「え!? あ、待って。今日も行きたい! 上着を取って来るから!」
慌てて身を翻して自室に走る。しかし、ふと後ろを向くと、ロミオはディアナを置いて玄関ホール方面へ向かっていく。
「あ、お兄様、待って!」
置いて行かれてしまう。結局、再びロミオを追いかけて走ったが、途中で転んでしまった。
ああ。今日はロミオに置いて行かれてしまった。ロミオと仲良し作戦はまだ道半ば。こんなことで挫けないのだ。
それでも、悔しくてちょっとだけ泣きべそかいていると、脇下に手を入れられて、転んだままのディアナを誰かが起こしてくれた。
「……お兄様?」
「どうして、何もないところで転ぶんだ?」
ぱっぱと服に付いたかもしれないゴミを払うように、ロミオがディアナの服を叩いた。ディアナはロミオに抱きつく。
「お兄様、置いて行かないで」
「……はぁ。仕方ないな。上着を取ってこい。待ってるから」
ディアナは顔を上げて、笑った。
「……!! うん! すぐに取って来るね! 待っててね、絶対よ!」
「分かったから。……転んだ時に怪我していないよな? 痛いところはないか?」
「大丈夫!」
ディアナは両手と膝小僧を見た。ちゃんと手を出して転んだので、若干痛いのは手の平と膝小僧だけだ。しかし、怪我はしていない。血も出てない。ちょっと打っただけ。ちょっとジンジンするけど、こんなのすぐに痛くなくなる。
ここ数日感じていたが、ディアナは少し転びやすい。たぶんだが、大人から急に幼児になったために、足の短さなんかにまだ慣れていないのだ。でも、転びのプロ(?)だから、転んでも痛いのは手だけ。間違っても歩くときは、ポケットに手を突っ込んだまま歩いてはいけない。どうしてって? 顔から転んだら顔を怪我するからです。悲惨でしょ。受け身って大事。
自室に戻ったディアナは、侍女に上着を取ってもらって、すぐにロミオのところに引き返す。戻ってきたディアナを見て、ロミオは手を出した。手を繋いで行こうと言いたいらしい。
「ディアナはすぐに転ぶから」
「うん、ありがとう、お兄様!」
わぁ、ロミオがちゃんと兄をしてる! 少し感動しながら、ロミオと手を繋ぎ屋敷を出た。
馬車に乗って到着したのはモンタール公爵家所有の青騎士団訓練場。モンタール公爵家所有の騎士団とはいっても、国の防衛なんかにも尽力している国の騎士団でもある。ちなみに、青騎士団ということもあって、騎士服はメインの白に部分的に青が入っている。なかなか素敵で格好いい騎士団なのだ。
青騎士団の中には魔術師団のチームもあり、魔法も強い騎士団でもある。
馬車から降りると、ロミオに手を引かれ、魔法の訓練場へやってきた。訓練場は屋内の広い建物で、多少の魔法攻撃では壊れない作りをしているらしい。
「ディアナはここでじっとして見学するんだぞ。訓練中は危ないから、俺のところに来たらだめだからな」
「はぁい」
訓練場の二階には、座って見学できるスペースがある。ディアナはそこの椅子に座り、ロミオの魔法訓練を見学した。
魔力のないディアナは、逆行前もここの魔法訓練場に来たことはなかった。人が魔法を使っているところは見たことがあるけれど、魔法の訓練を見るのは初めてだから、わくわくとロミオの訓練を見学する。
「……お兄様って、強い?」
勝手にだが、水を出したり炎を出したり風を出したりといった、基本的な魔法の訓練だと思っていた。しかし、ロミオは、何かよく分からない勝手に動く物体に、炎や雷で攻撃している。その攻撃の威力がすごくて、ディアナが座る席まで攻撃による影響の風が拭いている。
「ロミオ様はお強いですよ。天才です。今日は魔法攻撃の訓練ですが、あの年齢で新しい魔法を作ったり、複数属性の魔法の組み合わせなんかも得意でいらっしゃいますから」
いつの間にか、ディアナの後ろに騎士が立っていた。知らない人だが、青騎士団の騎士のようだ。
「そうなんだ! お兄様、格好いいね!」
「ええ。格好いいですよ」
逆行前のロミオが魔法が得意で強いことも知っていた。しかし、こんなに幼い時から強かったなんて。それでも、得意にならず、ちゃんと訓練して努力しているところが格好いいのだ。
新たなロミオの一面が見れて、大満足な見学時間はあっという間に過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます