第27話 兄の突飛な計画2

 甘い雰囲気だからなのか、再び口づけようとしたロミオの口元をディアナの手で抑えた。今日のディアナは、これ以上ロミオの口づけを受け止める余裕が残っていない。


「……何で止める?」

「今日はもう、お兄様はお腹いっぱいです……」

「お腹いっぱいってなんだ」

「お兄様ったら、遠慮がないのだもの……」

「今までどうにかなりそうなのを、ずいぶん耐えて遠慮してたんだが?」

「もう少し頑張って遠慮して!? お兄様って止める人いないと、どんどんエスカレートする気がする! 今日の私は、もういっぱいいっぱいなの!」

「さっき少ししかしてないのに」

「私、初めてだったんだけど!? 初心者に普通、あんな……」


 顔が熱い。驚いたけれど、ロミオとのキスが嫌だったのではない。今考えれば、嬉しいと思ってしまうし、また落ち着いたらしてほしいとも思う自分が恥ずかしい。しかし、逆行前では、婚約者だった第一王子とキスもしたことがなく、正真正銘のロミオが初めてで、いきなり上級者のようなキスをされてしまった。今日、またあのようなキスをされたら、ぶっ倒れそうだ。


「……分かった。じゃあ、明日ならいいな」

「明日!?」

「明日が駄目なら、今日するけど」

「明日ならいいです……」


 明日なら、ディアナの心ももう少し落ち着いてるかもしれない。言いくるめられているだけのような気もするけど。


「お父様にもまだ知らせていないのだから、節度ある交際をお願いします」

「難しいこと言うな」

「お兄様」

「……分かった。出来る限り手加減する努力はする」


 まあ、いいでしょう。とりあえず、今はそれで。


「……お父様には、早めに言った方がいいよね?」

「そうだな。俺がうまく父上に言うから、ディアナはその場の席は外していていい。父上に話した後にディアナを呼ぶから」

「……うん。……お父様は、私を……」


 またキャピレットに返すと言うのでは。それを言うと、本当のことになりそうで、口にできない。逆行前より、父との関係は良い。ロミオが受け入れてくれているから、きっと父も受け入れてくれる。今はそう思うことにした。


「心配するな。父上はディアナが大事なんだ」

「……うん」


 それを信じる。父はディアナを大事にしてくれているから。


「そういえば、私が十八歳になるまでは、実妹ではないと知っていることを黙っているつもりだったのよね。十八歳というのは、結婚できる年齢だから?」

「そうだ。ディアナが十八歳になったら、ディアナに実妹でないことを知っていることを告げて、教会で結婚の契約をするつもりだった」

「私たちは法律上は兄妹なんだから、結婚できないよ?」

「そう思い込んでいる人は多いが、実際は血による検査で近親婚にあたらなければ、教会で結婚の契約はできるんだ」

「……え!? そうなの!?」

「そこは昔、パオロ司教に確認したから間違いない」


 まさか、パオロ司教にまで確認していたとは。


 基本的に、結婚の契約は教会ですることが一般的だ。教会で結婚が認められたら、国に結婚したと届ける。これが法律上の書類にあたる。


「じゃあ、法律上の叔父姪とか姉弟とかでも結婚できるんだ。実は他人だったり、血が遠いなら」

「そういうことだ。まあ、普通はそんなことしないがな。世間的に兄妹の俺たちが、パオロ司教に結婚したいと告げても、普通は兄妹だから結婚できないと言われるだろう。本当に兄妹の血なら、教会の結婚契約の書類でも契約は結ばれないわけだから」

「教会の書類って、血筋の検査ができるなんて、すごいよね」

「世の中には、親と言いながら実は血が繋がらないというのは多数あるし、他国に住んでいた他人と惹かれ合い、それが実は離れ離れになった兄妹だった、なんていうのは多くはなくてもあるからな。そういう場合の偶然から近親婚を防ぐための最後の砦のようなものだ」


 その最後の砦で、逆行前のロミオとジュリエットは実の兄妹だと知れたわけだ。


「そういえば、一応、私たちが実の兄妹ではないことを検査しておいたほうがいいよね?」


 結婚の時以外にも、血縁関係の検査ができる仕組みがあるのだ。夫が自分の子が妻の不倫相手の子ではないかと疑ったときなどに、活用されることが多いと聞く。


「ああ、それは七年前に検査はした。俺とディアナは血縁じゃない」

「もうしてたんだ……」


 ロミオの確認の早さに驚きつつも、確実にロミオと血が繋がっていないことが明確になっていることほっとする。これなら、理論上は間違いなく血は気にせず結婚できる。


「それじゃあ、教会で内密に結婚はできるとして、でも私たちはやっぱり法律的には兄妹でしょう? その後はどうするつもりだったの?」

「教会で結婚が成立したら、父上にディアナの血筋の話を伝えて、その後世間的に発表するつもりだった。ディアナがモンタール公爵家の血縁でないことが分かったため、俺と結婚したと。教会で結婚の契約ができていれば、それは俺とディアナが血縁ではないことが証明できる。おのずと、キャピレット公爵家にはディアナが交換された実の娘だと分かるだろうが、結婚してしまえば、ディアナは俺のだから、キャピレットには返さなくていい。……ディアナは、モンタールにいたいと前に泣いていただろう。キャピレットと完全に縁が切れてもいいと思っていると思ったからの計画だったんだが、今更だが、キャピレットと縁が切れてもいいか?」


 ディアナが思っている以上に、ロミオはディアナのことを考えてくれていた。すごく気を使われているのがわかる。


「キャピレットとは、今でも縁があるとは思っていないから、完全に切れてもいいわ。何も未練はないし、私はずっと自分はモンタール家の娘だと思っているもの。お兄様とお父様との縁だけあればいい」

「そうか。なら、何も遠慮はないな。当初の計画からは少し変更になるが、まあ順番が変わるだけだ。ディアナが十八歳になるまで、あと少し。父上の説得が先にはなるな。とりあえず、今日の夜、父上と話してくる」

「夜……」

「気になるだろうが、ディアナは部屋でお茶でもしながら、ゆっくりしていればいい」

「うん……」

「……ディアナ、愛してる」


 唐突な言葉に、ディアナは瞬き、笑みを浮かべた。


「私も愛してるわ」

「結婚まで色々あるだろうが、ディアナだけは俺は諦めないし、絶対に手放さないから、覚悟しておけ」

「ふふふ。うん、覚悟してるね」


 ロミオに抱きついた。大好きなロミオ。優しくて、頼もしくて、ずっと傍にいてくれると約束してくれた。今度こそは、絶対に幸せになりたい。

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