第35話 ロミオとディアナ1

「はい、白ジェム。とりあえず、要望通り五個ね」

「ありがとう、ディアナ。……このチーズタルト、美味しい。腕を上げたんじゃないの?」

「そうかな! お父様とお兄様からも大好評だったんだよ」


 この日、ディアナは青騎士団のクリスの実験部屋を訪れていた。相変わらず、実験に没頭気味のクリスは、今日も昼食抜きだったようで、嬉々としてディアナの作ったお菓子を食べている。


「それにしても、やっと一人で外出許可貰えたんだ」

「うん、やっとだよ。それでも、今は護衛が三人もいるの。そんなに必要ないのに」

「ロミオの心配性と過保護が爆発してるからね。まあ、諦めて護衛はたくさん連れまわしておけばいいよ。それでロミオが安心するなら安いものでしょ」

「そうね」


 誘拐されるなんて、ロミオにトラウマを植え付けてしまった。ロミオの心配は仕方ない。


 ディアナの誘拐から三ヶ月が経過していた。この三ヶ月、本当に色々なことがあった。


 あの誘拐された日の夜、ロミオはディアナからの連絡がないことに寝たのかもしれないと思ったものの、一応ディアナの居場所だけ確認しておくことにしたらしい。


 そう、ディアナは知らなかったが、ロミオはディアナの居場所が分かるのだ。それはなぜか。


 子供の頃、ロミオからプレゼントされた薄いピンク色の宝石が付いたネックレスだが、驚いたことに、あれが魔道具だったのである。「お守りだから外さないで」とロミオがいつも言っていたが、宝石自体にディアナの位置を確認するための機能が付いていたという。


 その魔道具を作ったのは、クリスだったらしい。


「あのネックレス作った時、僕は十三歳だったんだよ。いくら僕が天才でも、あれを作るのに苦労したんだ。ロミオはシスコンを拗らしてるけど、ディアナは可愛いから誰かに連れ去られたらどうするんだって、アカデミーに行くことになって、ディアナと離れるのが不安らしくてさ、お守り代わりに作ってやったんだ。だからって、まさか本当に連れ去られるとは思わなかったけどね」


 と説明してくれた。そのネックレスは、今も大事に首から下げている。クリスはそれを知って、「いつも居場所を知られるのが分かったのに、よく付けられるね」と呆れていたけれど、ディアナはこれのお陰で助かったから感謝しているし、ロミオに居場所を知られても何とも思わないので、問題ないのだ。ロミオだと嫌とかいう感情は起きないから、不思議なものだ。


 それに、ロミオも普段からこれを確認しているわけではない。今回、初めてロミオと三日も離れた上に、連絡もないとなると心配するのは当たり前で、初めて安心のために確認したという。いつもは確認しなければならないほど、離れることはないものね。


 とまあ、ネックレスでディアナの位置を確認したロミオは、ネックレスと対になっている魔道具の地図を見て驚いた。ディアナを示す点が王都からだんだんと遠ざかっていたからである。


 そこからがロミオはちょっとやらかしている。


 頭に血が上ったロミオは、ジュリエットが何か企んでいると勝手にジュリエットを結びつけ怪しみ、モンタール家に泊まっているジュリエットの部屋を突撃。とってもキレているロミオに、さも犯人はジュリエットかのように責められたジュリエットは、恐怖に引きつった顔で泣きながら白状した。


 そう、ロミオの決めつけ通り、ジュリエットもオルランド司教の共犯者だったのだ。ディアナを誘拐しやすくするために、一時的な娘交換を提案したオルランド司教の口車に乗った。ジュリエットの白状により、ディアナ誘拐計画を知ったロミオは、寝間着姿のジュリエットに構わず、ジュリエットを無理矢理馬に乗せ、キャピレット公爵家を突撃訪問。突然のロミオの訪問に目を白黒させていたキャピレット公爵夫妻は、ディアナが誘拐された可能性を聞き疑問顔ながらも、ディアナの滞在する客室を確認すると、ディアナは本当におらず大騒ぎになった。


 ロミオはディアナ不在を目で確認した後は、青騎士団へ行き、夜でのんびりタイムのクリス以下魔術師団の騎士たちを連れ、ディアナのところに駆けつけてくれたのだ。ブチギレロミオを宥めるのは、すごく大変だったとクリスは今でもうんざりのような顔をする。本当、苦労かけて申し訳ない。


 ちなみに、ジュリエットは処遇も決まった。本来であれば、貴族令嬢を誘拐した罪は重く、ただの共犯者でも普通は牢に入れられるほどの罪だ。ただ、ジュリエットの罪は不問とすることにディアナは同意した。


 なぜかと言えば、ジュリエットは乳母に洗脳のような養育をされていたことが明らかになったからだ。


 乳母にモンタール公爵家はキャピレット公爵家と敵対していて、モンタール公爵家は悪。憎んで嫌って、いつかモンタールの人と会うようなことがあれば、どちらが上の存在なのか示さなければならない。そのように教え込まれたのに、実は自分がモンタールの血筋だということを知り、乳母に嫌われたくない、隠さなければと思っていた。それなのに乳母はジュリエットがモンタールだと知り、これまで可愛がってくれたはずなのに手のひらを返したのだ。


 乳母の養育の通り、両親以外の貴族たちに横暴に振る舞う。乳母の言うように過ごしているのに、なぜか貴族たちに嫌われるのも頭にくるし、キャピレットの両親にはモンタールの血筋と分かり捨てられるのかもと疑心暗鬼になる。では血筋のモンタールに愛情を貰おうにも、急には関係は深くはならず、どうすればいいのかわからない。


 そんな時に、オルランド司教に甘言で唆され、計画に乗ってしまったのだ。


 ジュリエットはあのような乳母が付いてしまったがために、無理矢理思考性格をねじられ洗脳された被害者でもある。少しは、乳母を助けたディアナにも一因はあると思っている。


 だから、ジュリエットには罪は不問としながらも、一年間のキャピレット公爵家への軟禁を希望した。そして、教育のし直しも。逆行前のジュリエットは優しい子だったのだ。本来はきっと、優しい性格だと思う。だから、やり直せる機会を与えたかったのだ。


 ちなみに、乳母だが、聞いたところによると、地方の女性用監獄に投獄された。ジュリエットに洗脳のような養育をしたことも悪いが、ジュリエットに与えられているキャピレットの予算を、ジュリエットを甘言で動かし、ずいぶん勝手にお金を使っていた。勝手に公爵令嬢のお金を横領していたことになる。そういったことも明るみになり、一生監獄から出られることはないという。


 ジュリエットのことは、モンタールの父は考えを改めたようで、これまでは血筋である娘だから希望があるならモンタールの屋敷に泊まるなり叶えるつもりだったが、今後はそのようなことはしないと言っていた。ディアナが危ない目に会うことだけは耐えられないから、とのことだった。


 ジュリエットに関しては、今後はキャピレット公爵夫妻がしっかり様子を見ると約束してくれた。それはそれとして、問題は捕まったオルランド司教である。

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