第11話 不安な未来
ロミオが平日はアカデミーへ通うようになり、半年ほど経過していた。ディアナの一人での寂しい勉強時間も慣れてきた。まあ、家庭教師の先生はいるのだけれど。
夕方前、先生の講義も終わり、ディアナは母の部屋を訪れていた。会ったことのない母の痕跡を見ることができるので、母の部屋は好きだった。ロミオが帰って来るまではもう少しかかるはずだからと、母の部屋の壁に掛かっている絵を眺める。
その絵は、母の家族、皇帝一家が描かれている家族絵だった。祖父の皇帝、祖母の皇后、キャピレット公爵夫人の姉皇女、モンタール公爵夫人の妹皇女だ。亡命後に描かれているのだろう。母たちが十八歳前後のように見える。
絵の双子皇女はそっくりだった。実物は少しは違いがあるのかもしれないが、絵はほぼ同じに見える。そして、ディアナも母たちに似ている。
逆行前に見たジュリエットはやはり、祖母の皇后に似ていると思った。逆行後の現在、まだジュリエットに会ったことがない。生まれてすぐは似ていたディアナとジュリエットは、赤ん坊の頃からはずいぶん経っているから、きっともう似ていないだろう。
ディアナの目の前にある棚の上でポポが一緒に絵を見ていた。
「ポポも私とお母様って似てると思う?」
ポポは肯定するように、ぴょんぴょんと跳びはねる。
「そうだよね、似てるよね。これなら、お父様とお兄様と私、本当の家族として違和感ないよね?」
ポポはぴょんぴょんと跳びはねる。
「お父様は愛してるって言ってくれるし、お兄様も私を可愛がってくれているもの。これなら……いつか実の家族じゃないって分かっても、手放さないでくれるよね?」
時々不安になる。優しい父の目が嫌悪に変わるのではないか。優しいロミオの目が憎しみに変わるのではないか。
ディアナは本当は他人のくせに。
本当の娘ジュリエットの幸せをディアナが奪っているのではないか。逆行している時点で、娘を取り違えていますよとは言えなかった。大人の誰も気づいていないのに、そんなことを知っているディアナのことを気味が悪いと思われたくなかったから。
でも、それだけではない。逆行前に父に捨てられたのがショックで、父に二度と捨てられたくなくて、もう一度家族になれば、捨てられない希望もあるのではないか。そんな個人的な希望を優先させたのだ。
ロミオとジュリエットの恋を邪魔すれば、きっとディアナが偽物の娘だとはバレることはない。そうすればきっと、ずっと家族でいられる。ロミオとジュリエットを結婚させたくないのは、実の兄妹だからというのもあるけれど、結局はディアナの望み通りにしたいだけ。もちろん、第一王子と婚約したくないという希望もあるのだけれど。
逆行前と違い、ディアナと父とロミオとの関係はすこぶる良い。これならきっと。
「捨てないよね? 実の娘でなくても、実の妹でなくても、お父様とお兄様、私の事をいらないって……言わない……っよね?」
泣いてしまい、ポポが焦ったように右往左往している。
不安で不安で、時々押し潰されそうになる。今が幸せだから。もう二度と父もロミオも傍からいなくならないでほしいから。
「――っえへへ。ごめんね、ポポ。すぐに泣き止むから」
泣いてしまっては、帰ってきたロミオに心配させてしまう。
自分でやりだしたことなのだから、不安でも最後までやり遂げるのだ。今度こそ幸せな未来が欲しい。
まさかこんな時に限って、ロミオが早く帰って来ていて、ディアナの泣き言を聞いているとは夢にも思わないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます