42 本気の半分の半分の半分の半分って何%?

 さて、始まりました。


 強烈な個性を放つ先輩共との戦闘訓練が――。実況は私、ローゼル・ベネットが務めさせていただいております。

 これ、訓練とは名ばかりでしてめっちゃ本番そのものの魔法戦闘が繰り広げられるようなんですよね。解説のローゼル・ベネットさんいかがでしょうか。


 ――はい、気合十分といった表情のソウビ・ラスターシャ・有馬選手が腕組みをしながら……いつもの瞑想のようです。戦闘に向けて集中していますね。

 大ファンを自称するリューガ・ハイドランジアとの秘密の特訓を終えたいま、勢いがありますね。ところで有馬というのは聞き馴染のあるラストネームなのですが、日本人なのでしょうか。


 解説のローゼルさんにもわからないようでは、実況のローゼルにはとてもじゃないですがわかりかねます。


 ――ソウビはモブという立場ながら、このライバルが多い乙女ゲーム世界で善戦しております。直近の月例テストでも最強美少女ヒロインに続き第二位につけました。天才ならずとも勤勉な性格が表れていますね。

 何やら過去に重たそうな確執をメイン攻略対象エリアス・オーキッドに抱えているようす。

 なんとしてでも競技会で爪痕を残したいと考えているのではないでしょうか。


 さて、手ごわい先輩――前回覇者、カデンツァ・ウィステリアが闘技場フィールドに上がってまいりました。


 緑の長髪が、どこからともなく吹きはじめた謎の突風でなびいております。

 そうです、美しく長い髪はなびかせなければならない……ッ! 某銀髪の狐、月の化身などに代表されるバトルものの常識ですね。肉弾戦においても鮮やかな印象を残します。

 

 ――何故カデンツァは緑髪なのか――そこがキャラ造形における失点ミスであったやもしれません。悔やまれます。


 さて【戦闘魔法競技会コロシアム】においても実技科目「魔法戦闘」と同様の闘技場モチーフのリングを使って対戦が行われます。今回こそ何も小細工なしの正攻法で来るのかっ。見どころのひとつとなるでしょう。


 ――カデンツァは幻影魔術ファントム・ヴィジョンの使い手ですからね。競技参加者が使用できる、いわゆる合法の魔薬をどう活用する可能性もあります。【魔薬の申し子】の出方に注目しましょう。


 続いてご紹介するのはリューガ・ハイドランジアです。

 学院の記録資料データベースによりますと、本人の申告通り十年間【戦闘魔法競技会コロシアム】で優勝していることが判明しました。

 つまり前期後期の学期末で年に2回トロフィーを得る……つまり怒涛の20連勝中だということですね。

 そもそも何年この学院に居座ってやがるんだ、このウサ耳じじぃ……おっと失礼しました。


 ――どうやら徒手空拳ですね。磨き抜かれた彼の肉体こそがリューガの最大の武器と言えます。もふもふ尻尾でのアタックなどにも注意したいところですね。モフに免疫のないアラサー社畜女への特攻となり得ます。


 なんて、脳内で繰り広げられた実況解説をお届けいたしました。

 茶番はさておいて。


 私は先ほどからちっとも目が合わない相棒のことを非常に心配していた。え、勝つ気ある? チーム戦なんだからソロプレイはなしね? 目を合わせて、声掛け。協力って大事だよ?


「嬢ちゃんや」


 リングの端に立っているリューガが声を張り上げた。


「いちおう、おぬしらの身の安全を確保するためにの、儂らは本気の半分の半分の半分の半分でるからな?」

「お、おう……」


 いまのは思わず出た相槌であってオットセイの鳴き真似ではございません、あしからず。

 っていうか本気が100パーセントだとして、その半分が50パーセント、さらにその半分25パーセント、12.5パーセント、6.25パーセント……。

 わかりにくいわっ、わざとやってんのか!

 

 もういっそ5パーセントにしておきませんか、切りもいいので。

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