開発者の私が何故か乙女ゲームの主人公に憑依した件~悪役令嬢が美味しいところ全部持って行ってしまったので、ナルシストのモブ(※秀才)と一緒に魔法学院の頂点目指します~
10 魔薬の申し子、カデンツァ先輩登場。
10 魔薬の申し子、カデンツァ先輩登場。
「キミ、ヨくない相が出ているねェ。ボクはちなみに占いも得意なんだァ」
ギザギザの歯、いわゆるギザ歯でにこにこされるとぞぞぞ、と魅惑のウィスパーボイスも作用してむやみやたらと背筋が寒くなってしまう。
「このひと……カデンツァ先輩――? のことなんであんた知ってんの?」
「な、なんでって」
私が製作した乙女ゲームの主要キャラクターだからだよ! とは言えなかった。
ちなみに彼こそが、入学式では遭遇しなかったがネーベル寮の私達より一学年先輩、二年生に在籍の攻略対象である。
エリアスのようなわかりやすい天才気質というわけではなく、カデンツァはどちらかといえば近寄りたくないタイプの奇人変人だった。
学院内では知る人ぞ知る存在だが、既に魔法薬学会では注目の的のマッドサイエンティストだ。
紛れもない要注意人物だった。
「……か、かっこいい、から?」
「ウフフ、光栄ダねェ」
趣味悪、とぼそりと呟いたソウビの脛を私は思いっきり蹴った。悶絶し、ソウビがしばらく何も言えない間にとりあえずいつもの作戦――ごりごりとゴマを擦ることにした。
「きゃっ、私、占い大好きなんです♪」
「フーん? ジゃあ試してみようかなァ……まずキミの血液を200ccほどいただこうかァ」
「申し訳ありませんがいまの話なかったことにさせてもろてよろしいでしょうか」
両手を組み合わせてかわい子ぶってみたが、秒でかぶった皮が剝がされた。
真顔の謎の関西風口調でお断りを入れるという情けない社会人でごめんなさい。失敗失敗。てへ。
「なァんだ、つまらないなァ……新しい材料を得られると思ったのにィ。女子の血ヲ好む蟲も多いンだけどねェ」
「使い
ぞぞぞぞ、と悪寒が止まらない。やばい。
現実世界にいたら一発退場アウトな人物だが、此処はフィクション、二次元だから存在を許されていることを重々理解してほしい。だけども私はこの世界にすっかり入り込んでいて、受肉したも同然の身だとすると二次元だから、でスルーしては命にかかわる。
カデンツァは好みこそわかれるがクセがある美形だ。懐柔できるに越したことはないが、
というわけで、こいつには関わらんとこ。決意を固めていた私をあざわらうかのようにカデンツァが組んだお膝の上で頬杖をついた。
「おチビちゃんたちが一方的にライバル視しているルイーザ嬢だがねェ……ボクのところに、魔法薬について聞きたいって相談に来たんだヨ」
「はァ……? あんたうちの寮の先輩でしょ! グラッツ寮の連中に手を貸すつもり?」
向う脛の痛みから回復したソウビがカデンツァに食って掛かった。
いちおう、学院生活において同じ寮に属する生徒同士が協力し合うのは暗黙の了解のようなものだが、この奇人がそんなルールに縛られるとは思えない。
「ウーん、ちょっと興味が惹かれてネェ。最初はめんどうだからお断りだ、そう思っていたんだが……なぜか彼女に教えを請われたらイヤだとは言えなかった。こんな感覚はいままで味わったことがないんだよねェ」
うわあ。
これはよくない。よろしくない雲行きだぞ――いまの奇妙な「感覚」とやらはカデンツァの恋愛ルート「実験対象から恋愛対象へ」で、彼がローゼルに対しておぼえる感情に酷似していた。
カデンツァは複雑な生い立ちのため、攻略制限がかかっている(※ほかのキャラクターのベストエンディングを見てからでないとルートが解放されない、という意)ってのに! まったくあの女……恐ろしすぎる。
「ちなみに何を教えたんですか、センパイ。可愛い後輩のためにそれくらいの情報提供はしてくれるんでしょーね? それとも、あの胡散臭い女に骨抜きにされちゃったんですか?」
ソウビはよほどの怖いもの知らずなのかさらにカデンツァを煽るようなことを言った。さすが空気を読まないナルシスト系モブ……恐ろしい子。
私が驚嘆のまなざしを向けているあいだに、カデンツァは思案するように目を閉じ、テーブルの隅をとんとんと叩いている。
「ン~、ボクとしてはあの子たちを特別応援しているわけジゃァない。グラッツ寮は血族重視の腐敗エリートどものたまり場だしネ――好カないんだヨ」
声が一段低められた。目からさらに光が消え、カデンツァの威圧感が増す。巨大な蛇を前にした鼠の気分だった。
「よろしイ。あの子がボクに聞きに来たのは――」
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