11 とにもかくにも実践実践実践!
「魔法戦闘」練習用ルーム――闘技場にて。
エリュシオン
「ソウビ! 後ろっ」
「言われなくてもわかってる、っての!」
がががが、と放出される魔法弾を
一撃でもまともに喰らえば風穴が空くレベルの攻撃魔法だが、この練習用ルームでは衝撃緩和魔法がかけられており、「死なない」「大怪我しない」程度の威力に抑えられるように調整されていた。
もし仮に即死レベルの悪魔的な攻撃魔法を放ったとしても、五分間の昏倒――戦闘終了扱いとなって勝利チームが確定する仕組みだ。
教師曰く、「魔法戦闘」は今後魔法使いとして自らの身を守るために必要な技術を学ぶことである。他者を傷つける悪意と戦うには、それ以上の防御の技術を磨き、仲間と共闘することで生存の確率を上げるのだ、と。
だから実践科目「魔法戦闘」では二人組を作るのだ。
「一年のぼーやたちのわりにやるじゃん、連携も悪くないわね」
「はっはっはっは! 先輩の意地を見せてあげようっ、ふんッ!」
対戦相手は二年生――グラッツ寮の生徒だ。黒髪短髪、脳筋っぽい筋肉質の男子生徒と目つきが鋭いウェーブ髪の細身の女子生徒のコンビ。
使用時間前から練習用ルームの前で張り込んで、やってきた彼らに「練習相手としてフルボッコにしてもらっていいので、部屋を使わせてもらえませんか」と頼んだのだ。
ルームの予約自体は「魔法戦闘」の教務室に備え付けの魔導エンジンにE-フォンをかざすことでできる。教務室の解放は朝の七時――基本は先着だが、後からやって来た上級生の無言の圧力で下級生が譲らざるを得ない場合が多い。
だから私は、裏ワザとしてお得意の社会人的交渉術――
ソウビがドン引きしていたのには気づいていたが背に腹は代えられないのよ。勝つためには。
巨大な円形のフィールドはいわばリングのようになっていて、移動可能なのは基本的にそこだけ。テンカウントのあいだリングを離れたら負け、というのが練習用ルーム「闘技場」のルールだった。
女子生徒から放出される魔法弾を避けながら、男子生徒から繰り出される斧(魔法強化済)をソウビはさばく。私は安全圏に陣地を確保しつつ、「がんばれがんばれ♡」の応援だ。たとえばこんなふうに、ね?
「
人差し指をひゅっと斜め上、フリックするように弾くと、私の指先から赤い光線が放たれた。
「うぉらっ、ぶっ飛べ!」
巨大な戦斧を男子生徒がソウビめがけて振り下ろす。
うっわ容赦ない、こっちは入学一か月だって言うのに。思わず目を覆いたくなるような光景だが――そんな易々と取られたりはしないんだなあ、こっちだってね。
「くッそ重いっけど、この程度の強化武器では俺の美肌に傷ひとつ付けられないよッ!」
「うぐぅふ、何だとぉ……!」
ソウビは両手をぴったりと合わせ……斧を顔前すれすれで止めていた。
白刃取りだ。
軽く流すように躱すと、戦斧本体への回し蹴りで弾き返した。反動で男子生徒のマッチョな巨体から距離を取る。
「わぁすご〜い、ソウビくんてんさ〜い♪ 肌年齢が乳幼児っ!」
「うるさいっ! 気が散ること言うなっ! 俺の美容への情熱バカにしたらあんたでもただじゃおかないからね!」
なにやらトンチキなことをソウビは言っているが、実際、自宅ではなく寮生活でもスキンケアを欠かさない彼の肌はツヤツヤぴかぴかで女子の私よりも肌質が良い。
決め台詞にしてはまことに恰好がつかないけど、そこが彼のモブたる所以だろう。君のそういうとこ、私は好きだけどね。
「あんた……何したわけ?」
「いやいや、私はしがないお手伝い要因でして……ひゃぁっ!」
ぎろりと私を睨んだ女子生徒が「
「くくっ、もう支援させてなんかあげないよぉ、ガキにしては頑張った方じゃん? 偉いでちゅねぇ……」
「あらまあ、どうしましょう……私、これじゃあ何も出来なくて困っちゃいます」
目を伏せて、ぎゅっと唇を引き結んで「ぴえん」なんてわざとらしく涙をぽろっとこぼしちゃうかも。
なーんちゃって。
両目をかっぴらいてソウビを見据える。プリズムがかった虹彩がキラっと輝いた。主人公補正の威力を刮目して見よ! おかげさまで私は目からっからだけど……ここは我慢!
「な、なに……何が起きているの⁉」
「うぉらあああ――ソウビ! いっけー!」
先ほどの支援魔法の比ではないほどの
「オラぁっ、くたばれ脳筋っ!」
「ぐふぁ!」
拳である。
突き上げたソウビの拳が顎を抉った。古式ゆかしきバトル漫画にふさわしいアッパーで、闘技場のリングに上級生を沈めた。「いいよっ、もっと筋肉見せてこ!」そんな野次を飛ばした私にむかって嫌そうに顔をしかめてみせた。うんうん、ソウビくんは美人だからそういうお顔もプリティよ。
戦意喪失した女子生徒がしりもちをついたところで試合終了。
戦績はまずまずの五勝五敗。上級生相手にこれなので、同学年対決ならそこそこ上に行けそうな気がする。
今回は拳を試してみたが、木刀とか鞭とかそれっぽい武器を強化して、合ったものを探している最中である。個人的には鞭がソウビのビジュアルにマッチしていておすすめだった。
こんなふうに辻斬りのように先輩に声を掛けてはぶっちぎっていた私たちは、いつのまにか、道場破りならぬ戦闘ルーム荒らしと呼ばれるようになっていた。
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