47 私と乙女ゲーム。そして坂野トモという女 -1-


 これは私の回想なので読み飛ばしてもらっても一向にかまわない。

 むしろ坂野がタイトルのこの回だけ他のにくらべてviewが多かったらくそ腹立つに違いなかった。


 うちの会社「OJIRO株式会社」は元々、幅広いジャンルのゲームを出している大きな会社だ。特に人気なのは、歴史系のアクションゲームとパズルゲームかな。そこから派生したスマートフォンアプリなんかも人気だ。


 その中でも乙女ゲーム部門「スカーレット・ブルーム」はどちらかといえば斜陽、目立つ部署ではない。不人気不採算、と一時期は言われていた。

 OJIROの男性向けの恋愛シミュレーションゲームが好評で、じゃあこの際、女性向けのも作ってみましょーかということで出来た「スカーレット・ブルーム」は意外や意外それなりに人気が出てしまった。

 低コスト、人員もほぼ男性向け部門からの流用だったのに……乙女ゲームの先駆けとして「スカーレット・ブルーム」は本格的に動かざるを得なかったわけである。


 そのころ、私は高校二年生――周りのオタク友達が週刊少年漫画誌のキャラクターを持ち出しては、どっちが攻だどっちが受だと大騒ぎしている中「なんかちげーな」と思い続けていた。

 ただここで空気を読まずに「どっちが攻でも受でもよくね」などと言おうものなら固定派過激腐女子である友人にぶち切れられるため、ふうん程度で黙っていた。


 そんなときに愛読していた月刊少女漫画誌RURUで出会ったのが「悠久の僕、永遠の鎖」だった。「スカーレット・ブルーム」のゲームを漫画化コミカライズしたその作品に私はドはまりした。


 ええええええ、なにこれ美形みんな出てくるのにみんな主人公のこと大好きじゃん、えっ誰、誰とくっつくの、ねえ……⁉


 ちなみに私の推しは「椿山つばきやま総一郎そういちろう」という華道の家元の家に生まれた物腰柔らかな青年で、性格がひねくれていたが実は深く主人公のことを愛していてさらには不良に攫われた主人公を(以下略)だった。


 そして椿山君は、主人公の彼氏の座争奪戦に負けた。負けヒロインならぬ、負けヒーローである。

 え。

 なんで――? 少女漫画脳の私は理解が出来ていなかった。


 この漫画が乙女ゲーム原作であることに……通常の少女漫画であればひとりかふたりの当て馬ポジションがなんと四倍の八名ほどいたのである。

 そのとき初めて私は「ハーレム・逆ハーレム」の意味を理解した。

 選ばれるのは、彼ぴ……頂点に立てるのはたったひとりだけ! 1/8である。


 くそが!

 私は思った。そんな、そんなの……椿山が可哀想だろうがっ。

 私は憤慨した。私は絶対に、椿山を幸せにせねばならぬ、と。


 そうよ、これは漫画だから椿山が選ばれないのも仕方なくないけど仕方ないとしてゲームをやればいいのよ。

 貯金していたお年玉を崩し、久しぶりにゲーム機を購入した。テレビでやるのは恥ずかしいので、小型ゲーム機だ。

 いまは両方を兼ねてやれるアレがあるけど、私が学生の頃はまだなかった。居間のテレビ、親の目の前でイケボで愛を囁かれるってどんな羞恥プレイだよ。


 お分かりだと思うが私は……ドはまりした。

 あっという間にスチル全回収からのフルコンプ、「スカーレット・ブルーム」の作品は新旧問わずすべて購入し、資金が尽きたので年賀状仕分けのアルバイトにも応募した。


 そんなこんなで沼落ちしたまま大学に進学、就職活動で「乙女ゲーム愛」を面接官が引くほどに語り、念願の「OJIRO株式会社」に入社した。

 経理やほかのゲーム部門を2年ごとに移動しつつ、ついに「スカーレット・ブルーム」に入った。

 先輩の補佐をしつつも自分のアイディアが通るという幸運も重なり、私はゲームクリエイター「玲奈レナ」として頭角をあらわした。そりゃその間もいろいろあったけども割愛する。


 好きな仕事だったから、耐えられた。

 かつての私みたいなユーザーのみんなに支えられてここまで来た。可愛くて強い、でもちょっと鈍感な主人公が、攻略対象たちと切磋琢磨しながら愛を育む――そんな王道を私は愛したし、それが「スカーレット・ブルーム」に期待されていることだと疑いもしなかったのだ。


 後輩、坂野トモが現れるまでは。

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