07 さて、デートイベントしましょうか(@空中庭園)。


「でもソウビってほんとに嫌いなんだねあの子のこと。なんで? いい子なのに」


 空中庭園とは、エリュシオン魔法学院アカデメイアにある五層にわたって形成された庭園のことだ。

 大階段があり、最上階にあるテラスには特権階級である【輝ける恒星リュケーレ】しか入ることが許されない。優等生として学院に認められ、【輝ける恒星リュケーレ】の証となる特別制服――流星のローブを着用した者しか上階への階段に仕掛けられた結界を通過できないのだった。


 そしてまだ一年生のガキである私たちは上級生の目に配慮して、最下層である第一層の端でネーベル寮の寮母さんが作ってくれたお弁当を食べていた。

 このあたりでも十分見晴らしが良い。学院の屋上に展開された空中庭園は文字通り空中――空に浮かんでいるのだ。転移魔法を使って、浮島のようになったこの場所に移動できる。

 魔法設計学とかで緻密な計算のもとに構築、建設されているらしいけど、薬学をはじめとして理系分野はとことん苦手なので私は理解するのも諦めた。


 あ、これってもしかして、私――ローゼル初のデートイベントだったりする? まあモブだしソウビとは友情ルートしかなさそうだけどね。


「あんたの目、節穴? ……まあ、他のやつらもおんなじだから当たり前なのかもしれないけどさ」

「ええ~、ソウビがルイーザ様に注目を掻っ攫われて嫉妬してるとかじゃなくて?」

「違うっ! 確かに俺の方が優秀だし眉目秀麗なのにふざけんなとは思ってるけど」

「思ってるんだね……」


 私は生温かい眼差しをソウビに向けた。ナルちゃんで自己中なのがソウビの持ち味だから、長い目で育てていきたいところだった。


「……嘘っぽいじゃん、あの子」


 ぼそっと声を小さくしてソウビは言う。私も真似して顔を近づけて小声で話した。


「嘘――もしかして、あの成績優秀ぶりもなんか詐欺ってるってこと?」

「馬鹿。そんな単純な話じゃな……っ⁉」


 ソウビは勢いよく顔を逸らした。ん? この反応はまさか――ふふふ、おねーさんわかっちゃったぞ?


「え? なになに、ソウビたんいきなりどしたん?」

「~~っ、顔! あんたのぶっさいくな顔が目の前にあったからびっくりしたの!」

「そっかあ。ごめんねえ?」


 お年頃の男子だから、女子の急接近には意識しないではいられなかったようだ。お、ようやく私の主人公補正が効いてきたじゃないですか。

 モブとはいえデートイベント起きたんだし、いい感じじゃん。だってローゼルって可愛いもんな、私も大好きだもん、ローゼルの顔。イメージ通りにデザインしてくれたイラストレーターさんに感謝だ。

 でもソウビの顔面もとても好きだ。赤色の髪も、気が強そうで負けず嫌いな目もすごく良きなのだ。こういう子、ゲームに出してあげたかったな――テコ入れ、すればよかったのかも。「薔薇の誇り」はあのままで、本当に最高の出来だと言えたんだろうか。


「あんたさっきからなんなの? デレデレ情けない顔したり、急に落ち込んだり」

「あはは、ごめんね~、情緒不安定で……」


 言いかけたところで、むに、とソウビが私のほっぺたをつまんで――引っ張った。


「いひゃっ、いひゃいって! にゃにすんのそうひ!」

「ほら、笑いなってば。にこっーってね。出来るでしょ、そんくらい――俺がパートナーになってあげたんだからさ」


 彼なりに励まそうとしてくれたらしい。有難いけど痛い、でも嬉しい。


「よっしゃ! 私がなんとかしてあんたを天下無敵の強キャラに押し上げるからねっ!」

「はいはい、あんま期待しないでおくけど足引っ張ったらぶっころすよ」


 うん、えっと、殺さないでいただけるとありがたいです。

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