25 VS.カデンツァ・ウィステリア

 指定された研究棟というのは、第一学年のわたしたちには縁遠い場所だった。


 学院アカデメイアの敷地内にはあるのだが、希少文献保管室や実験室などの研究棟の設備が利用可能となるのは第二学年からで、招待コードがなければ足を踏み入れることさえできない。

 入り口の端末にE-フォンに表示したコードをかざすと、名前が表示された。


 ――ローゼル・ベネット、承認。入室を許可します。

 

 続いてソウビが研究棟に入る。背後でドアが閉まるのを見ながら、ゆっくりと歩き始めた。

 蛍光グリーンの魔導石を燃料とした照明が数歩おきについているのだが、ひどく薄暗い。時折聞こえてくるうめき声が、お化け屋敷さながらの臨場感を与えていた。要らんよ、そんなSE効果音は。

 指定されたレクリエーションルームとやらは、この入り口からは一番遠い――最奥部にあるようだ。ぺたんぺたんと足音を響かせながら目的地を目指していく。


「ひょぇっ」

「うわっ! いきなり抱き着くな!」


 雨漏りでもしているのか、ぴちょんと顔に液体が落ちてきたのだ。うう、どうにもこの場所、気持ちが悪い。長居したいとは思えない場所だった。

 こんな薄暗い廊下が続いているだなんて設定してなかったはずだけどな。ゲームの中では建物選んで選択すれば、すぐに実験室などの目的地に到着する仕組みなのに。

 なんか怖いしこのままひっついて歩いていいかなぁ、あわよくばソウビたんの好感度ゲージを上げたい。


「重いから離れて」

「えろうすんまへん……」


 そう頻繁にデレてしまってはツンデレの名折れだよね、うん、わかってはいるんだよ。頭ではね。じゃれあって気を紛らわせているうちに約束の地「遊戯室レクリエーションルーム」までやってきた。


 学期末の【戦闘魔法競技会コロシアム】で勝てば、特別扱いを受けられるとは聞いていたが、専用の部屋までもらえるとは。学院の特権階級、【輝ける恒星リュケーレ】にも成り上がれるし、どんだけバトル脳なんだこの学院は。


 まあ、魔法戦闘の祭典以外でも魔法薬学のコンテストや、史学研究発表会、魔法道具発明展示即売会、といったイベントはある。

 攻略対象ごとに出場する分野が変わって来るってだけで――あれ、カデンツァの恋愛ルートって【戦闘魔法競技会コロシアム】じゃなくて魔法薬学コンテストで協力して優勝する、っていうストーリーだったんだけどな……。武闘派ではなくて頭脳でひとを翻弄するタイプだ、本来は。

 

 ふたたびE-フォンを使って招待コードを示すと、ドアが開いた。

 待ち構えていたように、両手を広げてカデンツァが私達を出迎える。


「やァ、待っていタよ。ボクの城にようコそ……! グフフフ、そんナ怯えタをしなくたッテ大丈夫ダよ? この遊戯室ことバトルフィールドには自動治癒領域が常に展開さレていル。首がちョん切レたとしテも、一瞬デ再生サ!」

「ぶ、物騒な冗談を言わないでください……!」


 冗談にさせてくれ、頼む。

 涙目になりながらソウビにしがみつくと「だから重い!」と剥がされてしまった。もう、照れ屋さんなんだから。

 

「ンフ……準備は出来テいるノかナ? 可愛いひよこチャンたちだからと言って手加減ハしなイよ? 戦闘終了まデ、首ガ胴体に繋がってイるとイイね」


 殺意にぎらついた狂気の眼差しが私達に降り注ぐ。


 ぞく、と悪寒が走った――いま、脳裏にちらついた不吉な残像を振り払う。大丈夫、なんとかなる。


 だって私は、ソウビと勝つって決めたのだ。

 ソウビの腕をぐいと引っ張って、カデンツァを睨んだ。


「そ、そんな脅しには……負けましぇん!」


 あは……肝心なところで噛むくせ、もういい大人なんだしやめたいなぁ。

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