開発者の私が何故か乙女ゲームの主人公に憑依した件~悪役令嬢が美味しいところ全部持って行ってしまったので、ナルシストのモブ(※秀才)と一緒に魔法学院の頂点目指します~
02 え、モブまで顔がいいんだ……さすが私の作ったゲーム。
02 え、モブまで顔がいいんだ……さすが私の作ったゲーム。
「ふぎゃ!」
ごつん、と派手な音と共におでこに激痛が走る。何者かを押しつぶすようにして私はぐったりと力なく床に伸びた。
ホテルで魔法のコードを読み込んだ次の瞬間、あっさり転移が成功した。
それはよかったのだが、何らかのミスで目的地周辺の上空……床からおよそ二メートルといったところから私は落下したらしい。
残念ながら、位置取りに失敗したようだ。落ちる最中、運悪く下にいた人間に頭突きをかました挙句、巻き込んで下敷きにしてしまった。
「いっ、たたた……」
「い
私は赤く腫れているだろう額をさすりながら身体の下から浴びせられた罵声に顔をしかめた。ぎゃあぎゃあうるせーな、そっちこそ誰だよあんた。
床に両手をついて視線を下向きにすると、私と同じく額を押さえて涙目で睨んでいる少年が目に入った。年頃はローゼルと同じくらいかな――やけに美人な男の子だ。
深紅の髪がいかにも二次元とはいえ、モデルとしてでも通用しそうなほっそりとした身体つき。吊り気味の眼が猫のようで気が強そうなのだけれど、高い鼻梁と薄い唇、すべてのパーツの位置が完璧に小さな顔の中に収まっている。
着地に失敗して落下した私のおでこと彼の額が激突し、お互いに床に転がって悶絶している。冷静に考えるとこの美少年を私が押し倒すような格好になってしまっており、痴女もいいところだった。
「ご、ごめんなさい……悪気はなかったんです」
主人公補正でなんとかならないかな、と瞳を潤ませながら謝罪すると「はァ……⁉」と隠し切れない怒りを滲ませた反応が返って来た。ダメか。モブだもんな、この子。攻略対象ならなんとか誤魔化せると思ったんだけどな。
「なんでもいいけどさっさと退いてくれる? あんた重いんだよねえ……骨折れたらどうしてくれるの」
このモブをとりあえず怒りんぼくんと呼ぶことにして、よっこいせとか言いながらわざと時間をかけるようにして身体を起こした。女子に重いとかいう男に生きる意味はないと思ったとか決してそういうわけではない。
その間、ずっと怒りんぼくんは私に向かって何か言っていたけれど、社会人のスルースキルを身に着けているので子供の暴言ぐらい軽く無視してやった。
ホテルからの転移魔法は若干の苦痛を伴ったが無事に成功し、エリュシオン魔法学院の入学式会場に到着したことを喜ぶことにした。
見回せばいたるところに、ブラウスとジャンパースカートの女子に、シャツとスラックスの男子がいる。年齢に若干ばらつきがありそうだが、総じて中高生ぐらいの少年少女が学校の制服の上に魔法使いっぽいマントをひらつかせて、講堂を歩いていた。
何気なく見ていればぱっと床にいきなり現れる子もいれば、私のように空中に転移してしりもちをつく子もいた。そのことに安堵してしまう自分が嫌な大人の見本のように思われてちょっと恥ずかしくなる。
寮ごとに並んでください――と大声で教師らしき人が呼びかけていることに遅ればせながら私は気づいた。
「寮……あっ、ねえねえ」
制服についた埃を神経質に手で払っていた怒りんぼくんのフードを私はぐいっと掴んだ。
「ちょっと! 何なんだよあんたさっきから俺に迷惑かけまくって、で……何⁉」
彼はわりと親切なモブだった。
話しかければ返事をしてくれるし質問にも答えようとしてくれる。
「寮ってどうやってわかるの?」
怒りんぼくんは心底呆れた、という顔をした。
「ていうかあんたそのネクタイ、ブラウスも青じゃん」
「青……ああ、うん。あなたもそうだね、お揃いだね」
怒りんぼくんは激しく舌打ちした。
子供らしくない。そういうのくせになるから、お姉さんはよくないと思うよ。さすがに言わないけど。
「くそっ、この阿呆と同じ寮だなんてっ最悪だっ最悪すぎる!」
「あっ、そうか入学試験で測定した魔力によって寮が決まって、制服の色でそれがわかる設定なんだった! てへへ、忘れてた……あれっ?」
ローゼル・ベネットは特別待遇で入学しており、シャツも白、ネクタイも白という設定だった。
ちなみにいま私が着ているこのシャツもネクタイも、本人の魔力に応じて変化する特殊素材で織られている。
田舎町の農場で生まれた
しかもローゼルは届けられた制服が入学式の当日まで白のまま色が変わらなかったため、ひとまず選択した攻略対象のいるところに入寮することになるのだ。
制服を見たときに感じた違和感の正体に私はようやく気付いた。
「てことは待てよ……ストーリーが違う……?」
ローゼルの中身が私だから、という時点で大きな差異ではあるのだけれど、ある程度ゲーム通りにシナリオが進行するものだと思っていた。
なにしろ此処はは私が設計したのだ。私が考えて、描いた物語の中なのだから。
そしていつの間にか怒りんぼくんは私の前から姿を消していた。真面目な顔でぶつぶつ言っている私を不審に思ったようだ。そうだよね、自分でもそうすると思う。
「とりあえず、同じネクタイのひとたちが集まってる方に行けばいいんだよね……」
すっかりくせになってしまった独り言をつぶやきながら、学生たちの流れに沿って進んでいくと、青いネクタイの集団である【ネーベル寮】の領域までたどり着いた。
ちなみにこの寮に所属する二年生が攻略対象のはずだが、さすがに入学式にいないようだ。整列するように促され、到着順に並ばされる。
列の真ん中あたりに怒りんぼくんがいたので手を振ったが当然のように無視された。
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