39 そろそろ実践してみるかの?
「あ」
カデンツァからの招待メールを表示したE-フォン片手に研究棟に入ろうとしたところで、ソウビとばったり出くわした。
「やほやほ、ソウビもカデンツァ先輩に呼び出されたんだねー。よかったぁ今日は一緒じゃん、心の友よ!」
このところ各先輩からの個別指導が中心で、ソウビとふたりきりで特訓することはなかったので、久しぶりな感じもする。ばっとハグ待ちで大きく腕をひろげたが当然のように無視された。塩対応にも慣れているのでぜんぜん大丈夫です。むしろご褒美だと思っているぐらいです。ツンデレからのツン対応。
「……意識してるの俺だけかよ」
「ん? なんか言った?」
べつに、と言ったきり視線すら合わせやがらない。まったく思春期の男子って難しいわね。
遊戯室ではカデンツァとリューガが待っていた。うっひょう垂れウサ耳が相変わらずもふもふで最高だぜ――わしわし、と手が勝手に動いている私を見てデカい男がカデンツァの後ろに隠れた。
「リューガセンパイ、あの子は変人だけド、野蛮ナことハしなイと思うヨ」
「ぐ、カデンツァ先輩に『変人』って言われるの屈辱……」
「ひよこチャン……?」
すみませんでした、もう二度と失礼なことは申しません。私達のやりとり(漫才)を見ていたソウビがぼそりと呟いた。
「ずいぶん仲良くなったんだな」
「まあそうかもね! カデンツァ先輩教えるのうまいし」
「それなら……競技会もカデンツァ先輩と組めばよかったんじゃないの?」
え。
なにそれ――思わず絶句した私を見て、ソウビは視線を逸らした。だって私はソウビと、ズッ友と勝ちたいから頑張って来たのに。その言い方はないよ。
む、と頬を膨らませるという美少女しか出来ない仕草を反射的に取ってしまったあたり、私もこの世界に毒されて……いや馴染んできているのかもしれない。
朝起きて、鏡見たら美少女(私)とご対面するんだもんな。ピンク髪って、やっぱり約束された美少女専用の髪色だよ。もしくはちょっとえっちなお兄さんだけだね。
「これこれ、喧嘩はおよし。ソウビ……おぬしも難儀なやつよの。嬢ちゃん、こやつはな」
「り、リューガ先輩っ」
何かを言いかけたリューガを見て大きく首を振った。なんとか口止めを成功させたものの、リューガは渋面を作った。
こう、リューガみたいな渋みと爽やかさを兼ね備えた青年の物憂げな表情からしか得られない栄養素はある――のだが。
ぴょこぴょこ揺れ動くお耳とふさふさ尻尾につい目が行ってしまうのは仕方がないと思っていただきたい。感情に合わせて揺れ動くのか、ケモ族のチャームポイントはやっぱり強い。
「さテ、雑談はコレまでニして、ト……」
カデンツァが壁面のスイッチを押して、遊戯室を一瞬でバトルフィールドに変えた。何度見ても圧巻だ――魔導装置が部屋の構造を一瞬で作り変え、さらには魔法戦闘に十分な面積に拡張されている。カデンツァによると、部屋を変えているだけではなく私達自身の大きさを変えてもいるらしい。
たださすがにカデンツァでも専門外なので外注だヨとは言っていたけど……ものすごいデカい金が転がされている。改造を許可したのは学院側だろうがさすがに資金まで面倒は見ないだろう。
カデンツァ、開発した魔法薬で稼ぎまくってるんだもんな。外部からも魔薬王(※やばくない方)とか呼ばれてそう。
「平凡な授業ノ予習復習とイッタ反復練習ニハ飽キ飽キだ、とうちの子カラ
「……えへっ」
「可愛い子ぶってモダメだヨ」
やレやレと
「そうじゃのう、儂も頃合いとは思っておった」
髭のない顎を撫でながら、リューガも頷く。ぴこぴこ耳が動いているからついそちらに目がいってしまうが、双眸がぎらりと妖しく光った。
「そろそろ――実践してみるかの?」
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