43 これってまじで5パーセントですか?

 開始、の合図はカデンツァの使い魔、お猿のマイケルによって行われる。

 リングの外にいるマイケルが投げたバナナの皮が闘技場の床に落ちた瞬間にスタートだ。

 いやもっとマシな開始の合図あったでしょうが。バナナの皮て、滑るやん。危ないやん。関西人がいたらボケて自分から滑りにいっちゃうでしょうが。


 ききーっ、とマイケルが叫ぶ。


 「いちについて」と言っているようだ。リューガと私、どちらも動物会話が出来るのでどちらのペアにとって不利も有利もない。

 食べ終わったバナナの皮をマイケルが放り投げ……魔法障壁をすり抜けてフィールドにぽとりと落ちた。


 魔法戦闘、開始である。

 し、しまらない――。もっと派手に音がする鳴り物とかあるでしょ。でも地味にすごいな、マイケル。ただのバナナの皮に透過属性を付与してフィールドに投げ込むなんて。猿の使い魔もアリだな、可愛いし。


「ローゼルっ、こんの馬鹿っ!」


 怒声ではっと気づいたときにはもう遅い――竜をかたどった炎が眼前に迫っていた。

 ソウビはカデンツァを抑えにいっているのでおそらく幻影魔術ファントム・ヴィジョンではない。


 ということは発動したのはおそらくリューガである。

 おい待て徒手空拳じゃないんかいっ。拳で来ると思って物理防御は開始早々無音で呪文コード展開しておいたのに。


「えーとえーと、そうだなぁ……」


 この距離で、威力は火焔弾中サイズよりも大きめ、となれば――組み合わせる呪文はこれとこれ、かな。


呪文コード展開オープン、【霧雨の盾scutum roratio】」


 威力を殺すためには水属性を編み込んだ盾で呑み込む――これが私に出来る最善。じゅっと焦げたにおいと共に、盾の水分が蒸発し熱気が私を包み込んだ。よし、この程度の損傷なら許容範囲かな、っと。


「ひょえっ!」


 ひゅん、と死角を突いて飛んで来た膝蹴りを発動済の物理防御で跳ね返す。

 うわ、いつの間にこんなに近くに来てたの⁉ 腕で顔をガードしながら後退る。


 まさか――あの火焔竜に姿を隠し、私に蹴りを当てられる位置にまで来たっていうのかよちくしょう。おいおい週刊誌連載のバトル漫画じゃないんだよこっちは。


「まだまだ油断するな、よ、っと!」


 にぃ、と不敵に笑って十年連続優勝者は立て続けに足払いをかけてきた。ひぃ容赦がない。


「あ、あっぶないじゃないですか、転んじゃいますって!」

「そりゃそうじゃのう、転ばせる気でやっておるし」


 じりじりと距離を詰められ、私は本心から焦っている。

 リューガは魔法攻撃もお得意のようだがやはり先ほどの足払いといい、肉弾戦が得意みたいだ。身体強化呪文コードもおそらく展開されている。一発でもノーガードで喰らえば骨が砕けるだろう。


「ふむ……少しはマシになっておるじゃないか、感心感心」

「ええっと、リューガ先輩……支援役の私ではなく攻撃役を倒しに行かれたらどうでしょう。カデンツァ先輩がピンチですよ」


 あァァ、と妙に色っぽい悲鳴が斜め右の方から聞こえてくる。いったい何をやってるんだソウビ、お姉さんにもそこんところ詳しく実況して説明しなさい。


「あやつは遊んでおるだけじゃからのう。坊の攻撃をわざと受けてサンプルを採取しておるんじゃろうて。あと普通にいたぶられるのを楽しんでおる」

「ドMかよ、知ってたけど」


 ていうかお師匠様カデンツァって、ドMとドSのリバなんだよねえ……なんていうかこの、わかりますか、私が言っている意味……?


 常々私思うんですけど、乙女ゲームの自称ドSのキャラクターって好きな子傷つけて喜ぶだけじゃなくて、結果として自分自身の心も傷つけてたりしてて、なんだよつまるところドMかよ、ってとこあるじゃないですか。

 SとMは表と裏、どちらの欲望を併せ持つのが人間の業……というものなのですね。ということが言いたかったわけです、私めは。


「えむ、とはなんじゃ?」

「ただの現実逃避なのでリューガ先輩は知らなくて大丈夫です♡」


 おじいちゃんに変な事教えたらソウビに怒られちゃう。

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