53 ちょろいもんだぜ
というわけで、一回戦勝ちました。
え? 省略しすぎだって? 仕方がないなあ……ハイライト形式でお伝えします。
同級生女子コンビは私達のことを知っていたし、私は狂犬を相手にしているかのように恐れられていた。
私こそが正ヒロインなんだしそんな悪行してないんだって、誤解なんだって。などと話せばわかる、で通すつもりはないのでやることはひとつだ。
そう、拳で語り合うのだ。
勝負は一瞬でついてしまったので、実際はハイライトも何もないのだけれど――開始と同時にソウビが女子二名を昏倒させたうえ、倒れたときに怪我をしないよう抱きとめるという芸当をやってのけた。
観覧席の女子生徒から、きゃあああああ、と耳が痺れんばかりの黄色い声援が上がった。リプレイ、と称して大きな
私がソウビに掛けた支援魔法【
カデンツァ仕込みの植物魔法、睡花――開花するときに強い眠気を誘う香りを放出する――が少女たちの身体にしゅるりと蔓を伸ばし、巻き付いて身体の自由を奪った。
そして、鮮やかな紫の花が開き、女子生徒は瞬時に眠ってしまったわけである。
なんというか映え魔法、だなあ。と他人事のように私は思っていた。
こういうところまで計算して戦闘行動をしているであろうソウビの、涙ぐましい努力を感じてちょっと笑えてしまう。なんてのんきなことを考えていたのだが。
大画面で
巨大な
ソウビ・ラスターシャ・有馬、株爆上がりである。
戦闘の見栄えの良さだけではなく、紳士的な行動までとったソウビへの賞賛の声があちこちから聞こえてくる。
も、モブなのに……。「ルイーザ」コールに負けじと「ソウビ」コールが聞こえ始める。あの……おかしくない? ヒロインの私じゃなくて?
「当たり前じゃろ」とリューガが鼻高々に言った。
「戦闘の華はやはりアタッカーじゃものなあ。嬢ちゃんはせいぜいソウビを目立たせてやるがよいて」
自分がアタッカーだからって小癪なことを言いよる。
いいな、私も人気が欲しい! 怖くないよ、噛まないよ、って教えてあげたい。地団太を踏む私を一瞥するとソウビは自慢げに言った。
「ふふん、まあ、これが人望の差ってやつかな?」
「く、悔しい……肌荒れが起きる呪いをかけてやる」
「は? ぶっころすよ?」
見てください、これがソウビ・ラスターシャ・有馬の本性ですよ皆さん!
なんて此処であれこれ話している声は観客席までは届きませんけどね。
最初に私、一回戦のハイライトって言いましたが――その後も軽く紹介させていただきましょうか。え? そうなんです……修行した甲斐があったよね。まあこのゲームの力が働いていた気がしなくもない。
だって、このゲームの
二回戦はというと、四年生の先輩の男女ペアだった。攻撃役は男子生徒で補助役は女子生徒の、私達と同じ編成。リング際にいる前回の競技会覇者に気圧されてはいたが、男子生徒の方が「おい」と野太い声を発して私達を睨んだ。
「ちょっとくらい顔がいいからっていい気になってんじゃねえぞ!」
若干ゴリラみのある顔の男子生徒が吠えると、ソウビが眉を寄せた。
「目が悪いんじゃないか? 保健室で治療してきた方がいいですよ、先輩」
――ローゼルはともかく、俺の顔は「ちょっと」じゃなくてすごく良いので。
と、微笑みながら言い放った。わお、ズッ友ってば煽りがじょうず。とはいえこの会話は観客席には聞こえないだろうから自分の評価は下げていない……打算的だよソウビくん。ていうか「ローゼルはともかく」てなんだよ。
「てめえふざけんじゃねえぞごるぁ‼」
「ほんとにゴリラだったじゃん、もーっ、ど~すんのソウビっ」
「知らないよ。あんた適当にやっといて。俺、さっき爪割れちゃったからケアしとかなきゃだし」
突進してきたゴリラの前に【
「まあまあ、おにーさん。そんなちっちゃなことで怒りなさんな、って」
ぽん、と背後から肩を叩いた私を見て男子生徒は目を剥いた。
「何⁉ お前いつの間に……っ!」
「【
隠し持っていた針を、ぷす、とゴリラ男の首筋に刺した。
私の素早い動きを見ていて勝ち目薄と判断したのか、支援役の女子生徒が降参を申し出たので、試合終了。
「うわ」
「さすが……【
おまえらただ言いたいだけになってきたんじゃねえのか。おい。
まあそんな感じで私たちは三回戦、四回戦、五回戦と圧勝を続け――。
ついに、ルイーザたちとの勝負! を迎えたのである。
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