緋色のレジスタンス~謎の霧に覆われた町から人が消える
武蔵野純平@蛮族転生!コミカライズ
第一章 謎の霧
第1話 濃霧から現れたエルフ
『東京都H市で謎の霧が発生しています。住民の皆様はご注意下さい』
「え!?」
TVのニュースが珍しいことを伝えている。俺は自宅のベッドでスマホをいじっていたが、体を起こしてTVを見る。女性アナウンサーが、ニュース原稿を読み上げていた。
『霧が発生しているのは、東京都H市です。かなり濃い霧のようです。H市にお住まいの方はご注意下さい』
「H市!? 俺の所じゃないか!?」
俺は窓を見たが、霧は出ていない。だが、ベランダに出て地面を見ると濃い霧が地面を覆っていた。
俺が住んでいる部屋はマンションの四階だ。ベランダから下をのぞくとマンションの二階まで、ビッシリと霧に埋まっている。霧というには、あまりにも濃厚で白いクリームを地面に垂らしたような光景だ。
室内に戻ると、TVニュースが外出自粛を告げていた。
『政府は不要不急の外出を控えるように要請しています。自動車事故の危険がありますので、自動車の運転は控えて下さい。自転車、歩行者も事故にあう可能性があります。不要不急の外出は控えて下さい』
まあ、今日は土曜日で休みだ。家でノンビリするつもりだったので、外出自粛でも問題はない。車も自転車も持っていないので、俺に大きな影響はない。
俺は佐藤悠真、二十三歳。大卒一年目の会社員だ。大学時代から付き合っている彼女がいるが、最近上手くいっていない。彼女と連絡を避けているのだ。せっかくの休みだが、一人部屋でゴロゴロしている。
さて、そろそろお昼だ。
「しまった!」
俺はキッチンの冷蔵庫を開けたが、中は空っぽだった。
(霧が出ているというけど、近所のコンビニに行くなら大丈夫かな……)
俺はコンビニへ昼食を買いに向かった。
だが、マンションの外に出ると霧が深くて前が見えない。
「ヤバイな……。本当に見えないぞ!」
手を真っ直ぐ伸ばすと指先が見えないほど、非常に濃密な霧だ。
俺はマンションの外壁に手をつきながら、コンビニへ向かった。マンションからコンビニは歩いて二分。すぐ近くだ。
しばらく手探りで進むと指先が硬質なツルツルした物に触れた。
(おっ! この感触は!)
コンビニの窓ガラスだ。ちょっと時間は掛かったが、コンビニに無事到着した。
窓ガラスに近づくと店内の様子が見えた。コンビニの店内には霧が充満していないようで、足下だけ霧が満ちている。
(ん……?)
レジ前に奇妙な客がいる。
袖が広がった裾の長い服を着て、銀色の長髪を腰まで伸ばしている。チラリと横顔が見えたが、美形の外国人男性だ。なぜか男性の耳は長い。
(エルフのコスプレか?)
エルフ男性のそばに、西洋風の革鎧を着た兵士風の人が三人いる。三人は頭全体を覆う革製の兜をかぶっているので、顔は見えない。腰には剣をぶら下げて、ゴツイブーツを履いている。背が高く体格が良いので、多分男性だろう。
エルフ男性が率いているようで、エルフ男性が聞いたことのない言葉を話して、三人の兵士がコンビニ店内を移動し始めた。
(コスプレ……だよな……?)
若い男性のコンビニ店員さんが、レジに立って男たちを不審そうな目で見ている。俺は何かヤバそうな雰囲気を察した。店には入らずに、店の外から窓ガラス越しに様子をうかがった。
突然、エルフ男性が、コンビニ店員さんに何かを投げつけた。キラキラ光る粉が、店内の照明に反射した。
コンビニ店員さんは悲鳴を上げ手で顔を覆ったが、キラキラ光る粉がコンビニ店員さんにかかった。
(えっ!?)
コンビニ店員さんが消えた! 服だけを残し、人だけ消えてしまったのだ!
俺は思わず声を上げそうになったが、店内のヤバそうな雰囲気を察して必死に声を抑えた。
エルフ男性はカウンターの中に入ると何かを拾い上げた。透明な石に見える。なぜ、コンビニのカウンターの中に石があるのだろう?
俺はスマホを取り出した。何が起っているのかわからないが、あいつらがやっていることを動画に残しておこうと考えたのだ。何かの役に立つかもしれない。
俺はスマホを操作して、コンビニの店内を撮影し始めた。エルフ風の男たち気が付かれないように、窓ガラスの端から連中に見つからないように息を殺して動画を撮る。
エルフ男性が、飲料を選んでいる買い物客に向かった。買い物客は、ごく普通の大学生風の男性だ。ヘッドフォンをしているので、エルフ男性が近づいたのに気が付かない。
先ほどと同じようにエルフ男性が、キラキラ光る粉を大学生に投げつけた。
(ウソだろう!)
俺は内心で悲鳴を上げた。先ほどと同じ光景が繰り返されたのだ。大学生の姿が消え、空中に服が残った。服が床に落ち、エルフ男性が、また、何かを拾いあげた。透明な石だ。俺はスマホを操作して、透明な石にズームする。
(あの透明な石は何だ……?)
コンビニの中に、あんな石がある理由がわからない。いつも利用しているコンビニだ。あの透明な石が売り物ではないと分かる。俺には、透明な石が突然現れたように見えたが……。
店内には、エルフ男性と革鎧姿の兵士しかいなくなった。エルフ男性たちが出口へ向かう。
(逃げよう!)
俺は恐怖を感じながら、スマホでの撮影を中止して後ずさりした。
物音を立てないように、そっとマンションの部屋へ戻った。
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