第35話 レジスタンス再び
「じーィィィィィィィ」
何だろう? 熱い視線を感じる。
俺はベッドで眠っていたのだが、人の気配で徐々に目が覚めて来た。
「じーィィィィィィィ」
「んん!?」
目を開く。目の前に大きな白い犬がいて俺をのぞき込んでいる。いや、犬じゃない。犬獣人のモーリーだ。
「モーリー!?」
「そうだよ! ユウマがやっと起きた!」
モーリーが俺に抱きつく。モフモフだ。
「やあ! モーリー! 元気だったか!」
「元気だよ! 美味しい物が食べたい!」
「ふふ! そっか~! 中華があるから食べよう!」
「食べる!」
モーリーが白い尻尾をフリフリしている。俺とモーリーの話し声が聞こえたのか、キャンディスさんが目を覚ました。
「なーにー。誰かいるの? うわっ!」
キャンディスさんが驚く。犬獣人のモーリーが、興味深そうにジッとキャンディスさんを見る。
「やだ! かわいい! あなたモーリーね!」
キャンディスさんが、モーリーに抱きつきわしゃわしゃと撫でる。モーリーは目を細めて気持ちよさそうにしている。
ベッドの横から低くハスキーな声が聞こえた。
「ユウマ。君の妻か? 恋人か?」
「えっ!?」
ベッドの横にダークエルフのミアさんが座っていた。ミアさんの隣には、ドワーフのガルフが座っている。ガルフはニヤニヤと笑いながら、グッと拳を握って俺に見せた。何のジェスチャーだろう?
「いや~若いな~。まあ、服を着ろよ」
「あっ!」
昨晩、俺はキャンディス仁奈川さんとベッドインした。今は、二人とも素っ裸だ。
「すいません……着替えるのでキッチンで待っていて下さい……」
*
着替えた俺とキャンディス仁奈川さんは、昨晩余っていたアメリカン中華料理をチンして、レジスタンスの三人に振る舞った。レジスタンスの三人は、日本での食事を楽しみにしていたそうで、喜んで食べている。
「美味しい! 美味しいよ!」
モーリーが大喜びでアメリカン中華を食べている。キャンディスさんは、モーリーが気に入ったみたいで世話を焼いている。言葉は通じないけれど、二人の心は通じ合っているようだ。仲良くしているぞ。
ドワーフのガルフは、朝にも関わらず酒だ。マイルドターキーの瓶を握って、グビグビ豪快に流し込んでいる。
「かーっ! ウメエ! イケるな!」
「ガルフ。それはバーボンで、ビールじゃない」
「バーボンって名前の酒か? 旨いぞ!」
「グビグビ飲む酒じゃないんだよ。ちょっとずつ味わう酒なんだ」
「まあ、細かいことはイイだろ? 旨い酒がある。それだけで幸せだ……」
ガルフは良いことを言っているつもりなのだろうけど、要約すると『もっと飲ませろ』だ。とんでもない呑ん兵衛だな。
「ユウマ。朝からすまないな。こんな美味しい料理をご馳走になるなんて!」
ダークエルフのミアさんが一口一口料理を味わいながら染み入るような口調で礼を述べた。常識人枠だな。ありがたい。
「これはキャンディスさんの職場から差し入れなんです」
「ユウマの奥方の職場からか。ありがたくいただこう」
ちょっと誤解があるようだ。俺はミアさんにチンしたチャーハンを出しながら訂正する。
「いや……。結婚していないのだけど……」
「しかし、裸で床を共にしていたではないか? 夫婦、または恋人であろう?」
「えっと……そうですね……」
俺は困ったような嬉しいような気持ちで視線を漂わせた。キャンディスさんと目が合う。
「なに? どうしたの?」
キャンディスさんは、翻訳をしてくれる指輪を持っていない。だから、俺とミアさんが何を話したかわからない。
俺は照れくさくなって、慌てて誤魔化す。
「いや、なんでもない! テレビでもつけよう!」
テレビをつけるとニュースが流れていた。画面には俺が戦っている動画が流れていた。
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