第36話 テレビに流れるキスシーン

 テレビの画面には、俺が戦っているシーンが映し出されている。愛のマンションで、霧の帝国と戦った映像だ。

「えっ!? なんで動画が!?」

 俺は驚き呆然と立ち尽くす。顔にボカシは入っているが、見る人が見れば俺だと一発で分かってしまう。

 レジスタンスの三人――ダークエルフのミアさん、ドワーフのガルフ、犬獣人のモーリーは、食事の手を止めてテレビを注視している。

 俺が階段を駆け下りエルフに接近戦を挑む。銃撃に続いて発勁を放つ。

 ダークエルフのミアさんが叫び、ドワーフのガルフがうなった。

「身体強化魔法と無属性魔法か!」

「むうう。正面から突っ込んでねじ伏せるとはな……。やるな!」

 映像はマンションのエントランスでの戦闘に続く。待ち伏せして飛び出し一瞬で片が付く。

「ユウマの妻も良い動きだ!」

 だから、妻じゃないって!

「ああ。流れるように無駄がない。強いな。このバーボンみたいに!」

「凄い! 倒した!」

 レジスタンスの三人がテレビの映像を見て感嘆する。俺は照れくさくて謙遜をしてしまう。

「褒めてもらうのはありがたいけど、無我夢中で……。必死だった。たまたま倒せただけだよ」

「いや。ユウマは立派に戦士として戦った! 私は誇りに思うぞ!」

「そうだ! オマエは戦士だ! 戦士ユウマよ! よく戦った! 誇れ!」

 ダークエルフのミアさんが、近寄り俺の肩を叩く。ドワーフのガルフが俺を力強くハグする。痛い。ハグされるなら、美人で胸の大きいミアさんが良かった。

 モーリーは、仲良くなったキャンディスさんに抱きついている。モーリーなりにキャンディスさんを労っているのだろう。

 キャンディスさんが、俺に手を合わせて謝る。

「ユウマ、ごめん! 私のボディーカメラの映像だわ!」

「ボディーカメラなんて付けてたんだ!?」

「本部が日本の様子を知りたいって言うから、ボディーカメラを付けていたのよ」

「えっ!? あの……昨晩の様子は!?」

 まさか俺とキャンディスさんのエチエチな様子がボディーカメラに録画されていたら!? と、俺は心配になった。

 キャンディスさんが、顔を真っ赤にする。

「バカ! ちゃんと部屋に入る前にボディーカメラは止めているわよ!」

「あっ! そうですよね――っ! あー!」

 テレビの画面には、俺とキャンディスさんが車内でチョコレートバーを咥えて軽いキスをする映像が流れた。

 レジスタンスの三人が、ニマニマしながら俺とキャンディスさんを見る。

「ちょっ!」

「車内カメラの映像か……やられた!」

 テレビの映像が切り替わってアナウンサーが映し出された。アナウンサーは、アメリカ政府からの公式な発表だと説明している。

 だが……。

「これ……。日本は大混乱になるぞ……」

 テレビのアナウンサーによれば、アメリカ政府は霧の帝国やエルフの存在を公式に認めた。そして、ロサンゼルスで米軍と霧の帝国が戦闘になり、霧の帝国を撃退したこと。エルフを倒すことが難しかったが、今回日本においてアメリカ大使館スタッフと日本人の協力によってエルフを倒すことが出来た、と声高らかに発表したそうだ。

 テレビのアナウンサーがアメリカ政府の発表を読み上げている。

『人類は危機的な状況にあるが、希望の光が見えた。我々は勝利する! ヒーローたちに祝福を!』

 ヒーローとは、俺とキャンディスさんのことか? 勝手に祭り上げないでくれ!

 アメリカ政府はこれで株を上げただろうが、日本政府はどうだろう? 霧の発生は日本国内で起っていることにもかかわらず、日本政府は有効な手立てを打てていない。それどころか、霧が発生している地区を封鎖するチグハグな対応をしている。今回の戦闘も日本政府のコントロール外で行われたことだ。日本政府はマイナスポイントを積み重ねている。

 霧の中に住んでいる住民は、どう反応するだろう?

『日本政府からのコメントです。日本国内で戦闘が行われたことは遺憾である、と官房長官が取材に答えました』

 テレビのアナウンサーが、日本政府のコメントを読み上げたが……。それだけかよ……と俺はガッカリした。日本政府は、やる気がない。勝手なことをするなと怒ってくれる方がまだマシだ。


「あっ! 不味い! 着信が沢山来てる! ごめん、ちょっと電話!」

 キャンディスさんが、スマホを見て驚いている。着信が沢山……テレビに流れた動画の件で、CIAから連絡かな?

 キャンディスさんが、朝食の春巻きをかじりながらスマホ越しに謝っている。

「ええ、ええ。すいません。寝ていました。えっ? 局長! 私だって疲れてたんですよ! 初戦闘で二人ぶっ殺したんですよ! そりゃ疲れますよ!」

 前言撤回! 途中からキレだした。相手は局長さんらしい。局長さんと会ったことはないが、キャンディスさんのブチ切れ口撃を受けてお気の毒だ。

「それより! あのテレビの映像は何ですか! えっ!? 大統領命令!? はあ!?」

 大統領命令とか、聞きたくない言葉が耳に入ったぞ! 俺とキャンディスさんが、車内でイチャコラしていた映像を大統領も見たのか!? 俺は頭を抱えた。

 キャンディスさんが、俺を手招きする。

「ユウマ。上司の上司がユウマと話したいって」

「上司の上司?」

「昨日横田基地で話した人がいたでしょ」

「ああ!」

 キャンディスさんは、スピーカーフォンに切り替えた。昨日、横田基地で話した男性の声が聞こえてきた。

「やあ、おはよう」

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