第2話 警察へ通報

 俺はそっとコンビニからマンションの自宅へ戻った。心臓がドキドキしている。

 キッチンへ行って水を飲み、『落ち着け!』と自分に言い聞かせる。深呼吸を何度かすると、少し落ち着いて来た。


 俺がコンビニで見た出来事は、何だったのだろうか? エルフのような男性と兵士がいた。コンビニの店員や客に、エルフ男性が何かの粉を振りかけると店員や客は消えてしまった。そして、透明な石を拾い集めていた。


 俺はスマホを取り出して、警察に通報することにした。とにかく人が消えたのだ。これは犯罪だろう。110番すると、すぐに電話がつながった。スマホの向こうで、中年男性の声がする、警察官だろう。

『事件ですか? 事故ですか?』

「事件です!」

『何がありましたか?』

「あの……コンビニにエルフがいて、粉をまいたら、人が消えたんです!」

『……』

 ダメだ! 上手く説明出来ない!

 異常事態が起きたことは間違いない。だが、あまりにも常識外れの事態なので、説明する言葉が出て来ないのだ。

 電話口の警察官は、一瞬黙った後、俺に落ち着けと呼びかけた。電話口の警察官も何かが起きていると感じてくれたのか、俺が話すのを待ってくれた。

「すいません。ちょっと異常な事態で上手く説明出来ないのですが……。今、自宅マンションの周りが霧に覆われています」

『H市ですね』

「そうです! それで近所のコンビニへ昼食を買いに行ったのですが――」

 俺は起きたことを順番に話した。電話口の警察官は、相槌を打ちながら真面目に俺の話を聞いてくれた。俺が一通り話し終わると、電話口の警察官は困った声を出した。

『うーん……。わかりました。ご近所のコンビニに不審人物がいるということですね……。近くの警察官に伝えましょう。霧が晴れたら、コンビニへ向かわせて様子を見させます』

 電話口の警察官の口調は、あまり俺の言うことを信じていないようだった。だが、110番してきたので、適当にあしらうわけにもいかず、警察官をコンビニへ向かわせることで対応終了にしたい風だった。

 俺は必死に本当のことだと警察官へ訴える。

「あの! ウソじゃないんです! 本当に人が消えたんです! 動画もあるんです!」

『ええ。わかりました。霧が晴れたら、警察官が様子を見に行きますから……。不要不急の外出は控えて下さい』

 ダメだ! 信じてくれない! 俺は電話を切って、スマホをベッドに放り投げた。


 どしたら良いのだろう? エルフが人を襲っている――考えてみたら、バカバカしい話で誰も信じてくれそうにない。先ほどの警察官は、霧が晴れたら様子を見ると言っていたが、俺のいったことを信じてはいないだろう。通報があったから一応警察官を派遣する。通報を受けた警察としては、これで処理は終わりなのだろう。俺は電話口の警察官に言われた通り、不要不急の外出を控えてジッとしていれば良い。

 だが、このまま霧が晴れるのを待っていれば良いのだろうか? 何かした方が良いのでは? 次の犠牲者が出るのでは? 俺はジリジリとした気持ちで部屋の中を歩き回った。

「そうだ! 動画をネットに公開しよう!」

 スマホを取り出し、先ほど撮影した動画を再生する。ちゃんと撮れている! これをネットで公開すれば、沢山の人が情報を拡散してくれるだろう。そうすれば、警察がもっと真剣に動いてくれるかもしれない。近所の人が外出を控えるかもしれない。犠牲者を減らせるぞ!

 俺は撮影した動画にコメントを添えてSNSにアップした。

『拡散希望です! 霧の中のH市で事件です。コンビニで人が消えました。エルフのような不審人物が犯人です。TVニュースや報道の方は、自由に動画をお使い下さい』

 SNSにアップした動画を俺は見返した。

 小さな画面の中で、エルフ男性が透明な石を拾い上げニヤリと不気味に笑っていた。

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